第26話「当該対神兵装を引き抜いてよろしいか」
あ、ヤバい。
「アールシャ、この人たちをお願い!」
すまないと思いつつ担いでいた二人の探索士をアールシャの方へ投げる。
同時、雷の大剣がバチバチと嫌な音を奏でながら振り下ろされた。
「はっや……!」
初動から落ちてくるまでの速度が速すぎる。
止める。
どうやって。
【
ふいに頭の中に声が聞こえた。
「くっ……!」
初撃はとっさに横っ飛びで避ける。
雷の大剣は地面をそれこそ熱したバターを切り裂くかのようなたやすさで割断した。
「もしかしてあの和装の人⁉」
【夜刀だ。お前の体には、その血が流れている】
俺の問いに対する返答はない。
【やつの胴から下は私が切り裂いた。次元の狭間から身を乗り出すことはない。落ち着いて剣をよく見ろ】
見る。見る。
第二撃を次元の裂け目からぬっと片腕を出してきたそれが振りかぶる。
裂け目の向こうに見えたその上半身はまるで雷の化身、東洋の龍のようでもあった。
【お前は鞘だ。どこでもいい。自分の体から、刀を抜け】
横に薙ぐつもりだ。
これは避けると後ろにいるアールシャたちにも被害が及ぶ。
止めなければならない。
【臆するな――抜け!】
いっそう強い声。
俺はその声に突き動かされるまま、自分の左掌を鞘口に見立て、そこからなにかを引き抜こうとした。
◆◆◆
「やはり神狩りの末裔か‼ いまいましい‼」
裂け目から半身を乗り出しながら雷の大剣を振るった龍が、光の向こうで目を見開いたのが見える。
わずかに左から押される感触。
それは手を伝ってきている。
「黒い……刀」
気づけば俺は、手に刀身が黒い刀を握っていた。
柄を握り、身を立て、雷の大剣を、止めている。
自分で自分がなにをしているのか信じられないが、わずかに残った冷静な理性が淡々と自分の能力を認識、次の行動へ体を突き動かしていた。
【――斬れ、神を】
雷の剣を弾く。
全霊を込めた返しは自分の何十倍も大きな体を持つ龍をぐらつかせる。
「図に乗るな‼」
雷龍が怒りを込めた声を発すると、その体から雷電が弾けた。
自分に当たりそうな雷だけを手に持った刀で弾き、至近。
振りかぶりから振り下ろしまで、その動きはあまりにも自分の体に馴染みきっていた。
「く……そ……‼」
斬り落とした雷龍の
それでも俺の動きは止まらない。
斬れ、と。
本能が叫んでいる気がした。
「――」
返す横一閃で黒い次元の裂け目ごと雷龍の首を割断する。
「呪うぞ‼ 人の身でありながら神を殺す者よ‼」
次元の裂け目から落ちてきた龍の首。
そこについた二つの双眸が、赤黒い光を放って俺を射抜く。
攻撃ではない。
しかし、嫌な予感がした。
「そうはさせないぞー!」
そのとき、胸ポケットから姿を現したコン太の体が光り、一瞬の間にかつてお祭りで見たことがあるような『狐の面』に変化したかと思うと、雷龍の視線を遮るように俺の顔の前に覆いかぶさる。
「っ……忌々しい、夜刀の民め……!」
面の隙間から、雷龍の首が地に落ち、やがて光の粒になって次元の裂け目に消えていくのが見えた。
「――コン太、ありがとう」
最後のあの視線は、おそらく雷龍の最後にして最大の――
神を殺した人間に対する呪い。
外的な傷ではなく、体の奥底、それこそ存在するのかもわからない魂を締め付けられたような気がした。
しかしそれが、コン太が面になって視線を遮ってくれたおかげでスッとなくなった。
――そういえばあの和装の男も、腰に面をつけていたっけ。
「シンラ!」
「おわっ! 名前呼んじゃダメだぞー!」
そこで後ろから声がした。アールシャだ。
「大丈夫だよ、コン太。たぶんもうあの――神は死んだ」
いまだに確信こそ持てないものの、きっとそうだったのであろうという予感は強く残っている。
「ん? そうか? おー、ならセーフ!」
ほんの一瞬前まで生きるか死ぬかの斬り合いをしていたはずなのに、こうして間延びしたコン太の声を聞くとほどよく緊張が抜ける。
アールシャはなにか問いたげだったが、俺も自信を持って彼女の問いに答えられる気がしない。
たぶん、俺以上に今の俺の状態をうまく説明できるのは――
「あなたはまだそこにいますか?」
【いるとも、我が末裔】
きっと、この姿の見えない男だけだろう。
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