第13話「神殺しの一族について」

 まず、そうだな……


「俺、もとの世界に帰れるの?」

「知りません‼」


 殴りてぇ!


「あいたっ!」


 アールシャがえぐり込むように殴ってくれた。

 ジェスターは相変わらず無傷だが、わざとらしく殴られた頬をさすっている。


「シンラ君がいた世界とこの基底世界のリンクはすでに切れています。無数にある世界の中で、再び元の世界とこの基底世界がつながる瞬間は、あるかもしれないし、ないかもしれない。仮にあったところで、同じ時間軸である保証もありません。そんな感じです」


 実質的に戻れないことと同義だ。

 ……そうか、そうか。


「なんで俺を呼んだ?」

「おや、意外と戻れないことに怒りませんね」

「それが事実ならもう悩んでもしょうがない。さいわいなことに俺には肉親も家族もいない。それに――」


 生きているということに、変わりはない。

 あのゴーレムに殴られて死んだと思った。

 しかしおもいのほか俺の体は丈夫で、生きていた。

 そのときに抱いた生きていることのありがたさ。

 俺に生をつないでくれた先祖への感謝。

 それを改めて思ったとき、とりあえず、どんな場所であっても生きれるところまでは生きてみようと、素直に思える自分がいた。


「シンラ君を呼んだ理由は、ワタシが庇護するこのデインフェール王国を救うためです」

「救う?」


 アールシャもこの国の危機的な状況を会話の節々で伝えてくれていた。


「ワタシはこの国の王と契約を結んでおりまして、疑似神族としての力をデインフェールを救うために使うことを義務付けられています。で、その行動理念に基づき、ダンジョンとは別にこの世界とわずかにつながった世界をのぞいていたら、アナタを見つけた」


 深夜残業の果てに聞いた狂喜に満ちた声を、覚えている。


「アナタ、そこそこ死にかけでしたよ?」

「え?」


 ふとジェスターにそんなことを言われ、心臓がきゅっと引き絞られた気がした。

 ジェスターは含みのあるにやにやとした笑みを浮かべてこちらを見ている。


「良い存在因子を持っていたのに、世界側のルールに引っ張られてずいぶん虚弱な体でしたね。そんな体の限界を超えて働き続けていたのですから、肉体が死に近づくのも道理でしょう。まあ、それに気づかずに普通に動いていたのもすごいんですけど」


 ジェスターがくすくすと笑う。


「まあでも、ワタシが基底世界に落とすにあたっていろいろといじったので、ずいぶん丈夫になったと思います」

「丈夫なんてレベルじゃない。2層のゴーレムだけじゃなく、あのあと1層の神域ゴブリンに殴られてもたいしたダメージを負わなかった。――防御術式なしでだ。私でも生身はキツいというのに」


 アールシャが横から口をはさむ。

 たしかそんなこともあった。

 鉱石掘りが佳境に入ったあたりで、物陰に隠れていた例のゴブリンが飛び出してきて、別の探索士を襲おうとしたので、俺も疲れで半分錯乱したまま助けに入ったとき、思いきりやつらに殴られた。

 また死んだと思ったけど生きてた。

 防衛本能に任せて殴り返したらゴブリンが爆散した。

 正直自分が怖かった。


「そりゃあそうですよ。シンラ君の先祖、あきらかに神を殺してた形跡があるので、いかに神域といえどたかがゴブリンの攻撃じゃやられないでしょうね。ワタシがそのころ発現していたであろう存在因子をオンにしたので」


 ん?


「神を、殺してた?」

「はい、ってましたね。しかも結構な数」


 ちょっとなに言ってるかわからない。


「しかもワタシたち疑似神族のようなまがい物の神ではなく、我々の生みの親たる〈原初の神々〉に近いものたちを」

「超越者か……!」


 アールシャが苦虫をかみつぶしたように言った。

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