第17話「給料はいい(※ただし使う暇はない)」
「シンラ、あらためて正式に辞令が下ったのに合わせて、城内に部屋が用意されたから案内するよ」
当たり前に職場に自室を用意しないでほしい――と言いたいところだが、衣食住のなにも確保できていない状況で、専用の部屋を用意してもらえるのは正直ありがたい。
「ちなみにこの仕事ってお給料は……」
もう就職してしまっているのでそれがなにかの判断材料になることはないが、俺は現状無一文である。とにかく今最優先すべきなのは、今後、自分が生活していけるのかの確認だ。
「結構もらえるよ。市井の一般職に比べたら裕福なほうだろうね」
廊下を歩きながらアールシャが答えてくれる。
へえー、公務員なのに給料いいんだ。
まあこの数日の仕事っぷりを見るに、常人に不可能な業務を寝ずに行っているのだから、さすがに給料くらいは待遇がいいのかもしれない。
「命が懸かってるからね。あ、でも――」
「でも……?」
先を訊くのが少し怖い。
「使う暇がないからたまっていく一方だよ。それと預金は一定期間放っておくと国債に変えられる。ちなみに
ヤ〇ザよりタチが悪い。
それって実質預金のすべてを国の財源にされているのと同じですよね?
「一応申請すればいつでも換金できるけど、手続きしてる時間的暇も精神的余裕もないから、みんな放っておいてることが多いかな」
「おおう……」
「まあ、国が滅びれば国債もなにもあったもんじゃないし」
もうどこから突っ込めばいいかもわからない。
俺は、今までずいぶん安全な世界で生きてきたのだと再確認させられる。
「着いた、ここだよ」
アールシャとそんな話をしていると、地下にある部屋の扉の前にたどり着いていた。
質素な扉だが、深みのある茶色の木材で作られていて、見た目は悪くない。
扉の中央にひしがたの金属製のプレートがはめこまれていて、そこには『六』という数字が掘られていた。
「シンラは正式にダンジョン対策室の六番目の特務官として着任した。この仕事は民間の探索士と連携を取ることも多くて、結構この数字は民間探索士の間でネタになることが多いんだ。だから、いろいろとなじみのある数字になると思う」
「ちなみにアールシャは?」
「私は『一』だよ」
「へえ、じゃあアールシャは最初に特務官になったんだ?」
「いや、特務官のナンバーは一部をのぞいて世襲制でね。前任が死ぬと空席になって、新たに特務官が配属されるとそこに収まることが多い。あと『一』は少し特殊で、いわゆるダンジョン対策室の責任者――『室長』が務めることになってるんだ」
今さらっとおそろしい言葉が聞こえたんだが、すでにキャパオーバー気味なのでいったん置いておこう。
「あ、でもシンラは空席がない状態で配属されたから、『六』のナンバーを背負うのはシンラが初めてだよ。初代だね」
「そっかー……」
初代という響きはちょっとカッコいい気がしないでもないが、これでやる気出してたらなんか飴に見事に引っかかってる気もする。
「ちなみに部屋の中は空間拡張されているから、結構広いよ」
そういってアールシャが扉を開ける。
「わーお……」
扉の向こうに、地平線まで見通せる荒野が広がっていた。
……広いとかそういうレベルじゃないんですけど。
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