第16話「当該白狐を秘書獣に任命してよろしいか」
なんだろう。
なんかこう、つい先日例の禁域でデカくてかっこいい白い狐を見たからかもしれないが、
「ちんちくりんだ」
「あっ! 言ったなー!」
その手のひらサイズの白狐は、俺の胸ポケットからぴょんと飛び跳ねて膝の上に着地する。
そして俺の方を向き、おもむろに魔法陣を――
「あ、それはヤバい」
そうぼそりと言ったのはアールシャだった。
「っ、わ、わかった! 今のなし! 失言! ごめんって」
アールシャがヤバいというのは本当にまずいものな気がして、とりあえず謝っておく。
「そうかー? いろいろできるってところ、見せたかったんだけどなー」
少年のような声で、少し残念そうにしゅんとするデフォルメ子ぎつねは、なかなかかわいらしかった。――あ、結構毛並みもいい。
「シンラ、その子は――」
「いや、俺も聞きたい」
俺の手になでられてうれしそうにもぞもぞしている白狐。
無論、俺はこいつが何者かなど知らない。
「おれはシンラの相棒だぞー」
狐がいった。
ちょっと胸を張って自慢げなのがかわいい。
「あー、その狐っこ、シンラ君の存在因子が一部入ってますね」
そう言ったのはジェスターだった。
いつのまにか
「そうだぞー! おれはシンラから生まれたんだー!」
生んだ覚えはない。
「覚醒したシンラ君の存在因子がなにかしたのかもしれませんね。まあ、いんじゃないですか? 見たところこんななりで役に立ちそうですし。〈
「秘書獣?」
また聞きなれない言葉が出てきた首をかしげる。
「秘書獣っていうのは特務官の補佐役みたいなものでね」
続けたのはアールシャだった。
「どうしても特務官は激務になりがちで、単体では処理できる仕事も体がひとつしかないせいで手が回りきらないことがある。だから、自分を補佐する補佐職を雇ったり、あるいは自分の魔術でそういうものを作ったり、ダンジョンで出会ったモンスターをテイムして使っている者なんかもいる。ダンジョンモンスターを使う場合はさすがに審査とかが必要なんだけど、基本的に主従がしっかりしてれば問題はない」
「へえー」
「おれはシンラを裏切ったりしないぞー!」
むふんと鼻息強めにそういう狐。いちいちリアクションがかわいいなこいつ。
「お前、ちなみに名前は?」
「まだないぞ! だからシンラがつけてー」
俺の肩に飛び乗ってきた狐は、わくわくした様子で体を跳ねさせている。
「んー」
名づけか。
どうしようかな。
「きつね……きつね……」
よし、決めた。
「今日からお前はコン
俺が言った瞬間、ジェスターが後ろを振り向いて「ブフッ」と噴き出したが努めて無視した。
「やったー! おれ、今日からコン太だー!」
ほら、本人はたいそう喜んでいる。
俺のネーミングセンスは間違っていないことが証明された。
「悪くないんじゃないかな。呼びやすいし、マスコットキャラクターみたいでかわいいし」
アールシャもまじめな顔でうなずいている。
「いや、すいません、つい。ワタシはその狐っこの異常なステータスがわかるので、ギャップに少し衝撃を受けただけです」
襟を正しながらジェスターが言った。
そうか、こいつもこんな見た目でゴーレム粉砕したりするのかな。
たしかにその絵面はなんかおもしろいな。
「まあ、そのあたりは追々整理していけばいいのではないでしょうか。――さて、ほかにも積もる話はあるかと思いますが、ワタシはそろそろ寝たいので今日はここまでにしましょう」
そういってジェスターが謎空間に手をつっこみ枕を取り出す。
くそ、こいつマジで俺たちのかわりに寝てるのかよ。
「アールシャ嬢、あとはお願いしますね。各地を飛び回っている国王様もそのうち帰ってくると思うので、そのときまたいろいろお話しましょう。――では」
直後、ジェスターが開きっぱなしだった空間の裂け目に身を飛び込ませて消える。
ホント、どうなってんだよ。
「ファンタジーだなぁ……」
「シンラー! おれ腹が減ったー!」
遠い目で天井を見上げる俺と肩の上で飛び跳ねる白い狐。
騒がしくなりそうだ……。
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