第28話「アットホームな職場です」
「お、お前らなにやってんだ⁉ もう1層も限界だぞ⁉ バカか⁉ バカなのか⁉」
気づいたときにはダンジョン1層のあのきらきら光る結晶洞窟にいた。
俺を引っ張り上げたアールシャのほかに、半ギレで叫ぶ狼顔の男がいる。
「すまない、ガルン。シンラの素性に関するいろいろがあってね」
「おうわかった‼ とりあえずくわしい話は戻ったら聞く‼ 全力‼ ダッシュ‼」
俺の代わりにアールシャが答えてくれたが、ガルン的にはそれどころではないらしい。
そうだな、……うん、そうだ。見れば1層の外壁にもかなりの数の黒穴が空いている。
「いそげいそげー!」
俺の胸ポケットからひょっこり頭を出したコン太が、楽しそうに言った。
うん、あー、冷静になってきた。
「――ダッシュ‼」
俺は自分に命令するように叫んで、アールシャとガルンと一緒に1層を死に物狂いで駆け抜けた。
◆◆◆
「死ぬかと思った‼ 死ぬかと思った‼」
「誰のせいだあああああああ‼」
たどり着いた。マジ死ぬかと思った。地上への扉、ほとんど消えかけだった。
飛び込むように扉をくぐり、目を開け、そこがあの救国機関の地下であることを確認し、安堵。心臓はバクバクと跳ねまわっていた。
「いやはや、危なかったね」
「もとはといやお前が一人で救出行なんかに出なけりゃこうはならなかった……!」
「うん、それはその……ごめん」
額の汗をぬぐうアールシャに、ガルンががみがみと説教をしている。
まあ気持ちはわかる。
「いちおう、これでも被害は最小限に抑えようと考えた結果なんだ」
「んなこたぁわかってる! でもな! わかってても納得できるかどうかは別だ! だからオレは言うぞ! ――もっとオレたちを頼れ!」
「――うん、次から気をつけるよ。ありがとう、ガルン」
アールシャが申し訳なさそうな顔で言う。
やはり表情の変化はわかりづらいが、声音から彼女が本当にそう思っていることはわかった。
「あとシンラアアアアア‼」
「はいぃ‼」
あ、俺にも来たわ。
「よくやった‼ 恩に着る‼ だが無理すんな‼ 頼んどいてこんなこと言うのも悪いと思ってる! でも感情が追い付かねえ‼ だから言う‼ 無理はっ、するな‼ ――お前もオレたちの同僚で、仲間なんだよ‼」
なんかおもしろいな、ガルン。
感謝してるんだか謝ってるんだか怒ってるんだか、よくわからない。
そんな様子に俺は思わず笑ってしまった。
「あっ⁉ なに笑ってんだこの野郎!」
「いや、ガルンのテンションがおもしろくて」
ちょっと嘘をつく。
本当は、ガルンからドまっすぐに『仲間』と言われたことが嬉しかった。
いまさらだけど、アールシャが言っていた「アットホームな職場です」というのもあながち間違いじゃないのかもしれない。
「さて、とりあえず事務室に戻ろうか」
そういってアールシャが服を払いながら立ち上がる。
「ちなみにガルン、民間探索士の救助状況は?」
「おう、聞かせてやる」
ガルンも大きなため息をついたあと居住まいを正して答えた。
「――奇跡だ。探索士の被害はゼロだったぜ」
「あはは、それはたしかに奇跡だね。近年まれにみる大成果だ」
アールシャがからからと笑う。
「これもシンラのおかげかな」
アールシャがこちらを見てそう言った。
「え? いやぁ、俺は俺にできることをやっただけだから……」
「シンラ」
アールシャがずいと俺に近づきまっすぐに目を見てくる。
その赤い眼と、なにより美しい顔に、思わず一歩たじろいだ。
「君の為したことは、とても大きなことだよ。君は、人の命を救ったんだ」
アールシャはそう言いながらたじろいだ俺の体を引き寄せて、そしてそのまま――抱き寄せた。
「えっ? ちょ――」
俺が恥ずかしさにあたふたしていると、アールシャが俺の胸元から顔をあげて言う。
「自信を持っていい。――お疲れ様。そしてありがとう」
そう言ったときにアールシャが俺の胸元で浮かべた笑顔は、やはりどこか見た目にそぐわず妖艶で、それでいて綺麗で、俺はまた耳のあたりが熱くなるのを、感じた。
―――――――
【あとがき】
終:二章
次:閑話
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