第21話「王国の歴史をひも解いてよろしいか」

 おおむね、俺が召喚されたこの世界のことを知った。


「ダンジョンが現れはじめたのはわりと最近なのか」


 さかのぼること五年前。

 最初のダンジョンへの扉が、デインフェールの隣国の領土で発見される。

 間をおかずして次の扉がデインフェールの王城直下へ。

 各国の領土内にそれらが現れるのにもそう大きな時間はかからなかった。


 各国はそれぞれ調査隊を送り、その未知の領域の調査に赴いた。

 最初は未知の資源の数々に沸き立ったが、まもなくダンジョン内に現れるモンスターにより人的被害が発生する。

 ここで対応が二つに分かれた。


 危険なものであるとして探索を禁じる国と、それでもなお調査を続けようとした国。


 デインフェール王国は後者で、理由はダンジョンから持ち出せる資源がなければ、滅亡してもおかしくない国勢だったからだ。

 デインフェールはもともとそんなに大きな国ではなく、当時周辺諸国で戦火が起こり、その余波でデインフェールを属領にしてしまおうとする国が現れていた。

 デインフェールには財政を支える特筆すべき産業はなく、歴史的に専守防衛と中立を国政としてかかげてきたがゆえに、どこかから奪う力も未発達だった。

 言ってしまえば、世界情勢が、その理想を掲げることの限界を無慈悲にも提示していたのだ。

 そしてそれを悟ったからといって、いまさらどうにかできるほどの力もなかった。


 ――ダンジョンが、現れるまでは。

 

 ダンジョン出現の直後、同時期に先王が死んだ。

 そして新たに一人の若い王が台頭する。

 名を〈カイン・ルード・デインフェール〉。

 この若き王は、祖国を救うために文字通り死力を尽くしてダンジョンを利用しつくすことを決意した。

 そしてこの新たな王の選択に、デインフェールの民もまた賛同した。

 民たちもまた、祖国の限界を察していたのだ。

 ちょうど各地域の戦乱がダンジョンから流入したアーティファクトによって激化したこともその転換に一役買ったのだろう。


 デインフェールは国をあげてダンジョンを調査した。

 被害が出ることも承知のうえだった。

 事実、多くの探索士の命がそこで失われたが、それでもなおデインフェールは止まらなかった。

 このままゆるやかに枯れて死ぬくらいならと、彼らは開拓民のごとく前に進み続ける。

 収集したアーティファクトを利用して他国からの武力行使ちょっかいを退け、財政をダンジョンからの収穫物で支え、減った人材を補充するために国の門戸を開き、それにともなって法律をも次々に変えていった。

 そしてちょうどデインフェールがとある大国に攻め入られたとき、〈怠惰の神〉を名乗る疑似神族アルターが現れた。


 ダンジョンがいわゆる神々の実験場であることが判明した瞬間である。


 疑似神族はその他の国にも現れた。

 ある疑似神族はダンジョンの封印を促し、ある疑似神族はダンジョンの調査を推奨し、それぞれがその目的のために基底世界の人類へ加護を与えた。

 封印派の主張はおおむね同じで、ダンジョンは〈原初の神々〉すら予想しなかったいわば『世界のバグ』であり、基底世界を守るために存続させるべきではないとする旨のものだった。

 一方、存続派の主張はさまざまだった。

 新たな可能性であるとし、発展のために存続させるべきとする者。

 ダンジョンと共生することが、そもそも〈原初の神々〉が想定した正しい形であると主張する者。

 ともあれ、各疑似神族は自分の主張と合致する説を重視する国を選び、徐々に基底世界の国家と神族たちがつながっていった。

 そんななかで、デインフェールに現れた神族は言った。


「ワタシはわりとどうでもいいんですけど、力を貸してほしければ貸しますよ? ――アナタの怠惰を対価に」


 新たなデインフェール王カインはその手を取った。

 そして――異世界からの召喚者にして魔改造されし者たち、〈特務官〉という名のファンタジーブラック公務員が、生まれた。


―――――――

【あとがき】

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