第35話「阿鼻叫喚とはこのことを言う」
「コン太、その通信をゴミ箱に突っ込んでおけ。あいつまた通信内容偽装してきやがった……!」
思わず天を仰ぎながら言う。
「コスプレした見た目十七歳だけど実は百歳超えてるババアのどうでもいい近況報告とかいらない。というかアダマンタイト鉱石を持ち帰れよ……!!」
時すでに遅し。こんな通信文を送ってきた時点でやつらは鉱石を捨てているだろう。酒盛りババアどもめ。
「返信送らなくていいのかー? アダマンタイト鉱石、結構レアな鉱石だぞー?」
「そう、レアものだ。交易課に任せてうまくさばけばひと財産になる。だがな、もう遅いんだ」
涙が出てきた。
「あ、シンラ、〈キラキラ魔法少女隊〉からもう一通通信が来てたみたいだー」
「再生しなくてもどうなったかわかるからいい」
「『ごっめーん! やっぱり鉱石捨てちゃったー☆』」
死ぬがよい。
「『ちゃんと良いお酒になったら持っていくからまた酒盛りしよーねー!』――とのこと!」
「一生酔いどれてろ。……くそぅ! あいつらなんなんだ! 真面目に探索するつもりあんのか!」
「楽しそうだぞー!」
国家の命運――否、俺の睡眠時間が懸っている。そのことを深く自覚して欲しい。
「はあ……、よ、よし、次だ、コン太」
「おっけー」
そう言ってコン太が小さくげっぷをした。
コン太の中には術式を消化する器官が入っている。今の通信術式を呑みこんだのだろう。内包された魔力ごと消化するから、その場に残してほかの通信の邪魔になることもないし、結構便利だった。
「じゃ、次を再生するぞー」
今度こそまともな通信であってくれ。俺はどこかに実在していてほしいちゃんとした神に祈った。
「――『シンラ! マツゴロウが! マツゴロウが死におった! 今後ろからドラゴンが追いかけてきとるから担いで逃げておる! 急を要するぞ! ――うおっ! かすった! 今ドラゴンのブレスがワシのケツをかすった!』――とのこと!」
「……」
「関連した通信がそこにあるけど、再生するかー?」
コン太が首元の鈴をちゃりんと鳴らしながら首をかしげて訊ねてくる。
コン太は優秀な〈
優秀すぎるのでメッセージの再生時に相手の声を完璧に真似るくらいに。
だがそのせいでこんなかわいらしい姿からむさ苦しい親父の悲鳴を聞く羽目になった。
ギャップで精神が削れる。
「な、なに今の悲鳴。あんたの担当探索士の通信?」
斜め向かいからイザベラが驚いた表情で覗き込んでくる。
「ああ、イザベラ。残念ながら、誠に遺憾ながら、俺の担当探索士の悲鳴だ」
「超ぎりぎりって感じだったわね……」
くそ、なんだったんだ。
いや知りたくない。職務上知らねばならないことは重々承知している。でも知りたくない。
「くそぅ……! コン太、関連メッセージを再生してくれ……!」
「おっけー。――『シ、シンラ! ダイゴロウも死におった! ダイゴロウッ!! くうう、今日の〈だんじょん〉はいつになく過激じゃのう!! あっ、タモツ! そっちは崖じゃぞ!! タモツゥゥゥゥゥゥ!!』――とのこと!」
今ばかりはコン太の『とのこと』語尾が憎たらしい。
「うわぁ……」
イザベラがいつの間にか隣にやってきて通信を一緒に聞きながらヒき笑いを浮かべていた。
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