第30話「公僕六号のダンジョン日記 P7~P12」

日付:1月1日


 ダンジョンから帰ってきたら年が明けていた。

 あの崩壊ぎりぎりのダンジョンから帰ってきて、事務室に顔を出すと、みんな変わらず仕事をしていた。

 正月休みの概念はないらしい。公務員とは。

 ていうか正月ってあるのかな。


 それはともかくとして、俺はいったんまた自室へ戻ることを許された。

 さすがに疲れた気がしないでもない。いや、疲れているはずだ。主に心が。

 そういえばジェスターが寝たふりをすると体が休んだつもりになると言っていた。

 とりあえず今日のところはいったん寝るフリをしてみようと思う。


◆◆◆


日付:1月2日


 現在朝の5時。

 ――ていうか寝れたんだけど! 寝れた!

 寝るってこんな気持ちいいことだったんだな!

 コン太はまだすやすやと寝ている。かわいいなこいつ。


 現在朝の8時。

 コン太起きた。

 あと気づいたら部屋の出入り口付近にいろんなものが置いてあった。

 ダンジョンに関する資料っぽい。

 ついでに基幹端末へのアクセスキーっぽいものも置いてあった。

 そうだね、ロックかかってるファイル多かったもんね。

 ……コン太にハッキングしてもらってすでにいくつかのファイルをのぞいていたことは黙っていようと思う。


◆◆◆


日付:1月3日


 昨日の午後から今日の昼までダンジョン対策室の事務室に呼ばれて改めていろいろ教えてもらった。

 ちゃんと挨拶できていなかった同僚ともちょっと会話できたのは大きな収穫だ。

 いろんな人がいるんだなぁと思った。

 でも俺が事務室に入ると「あれがあの崩壊中のダンジョンに嬉々としてつっこんでいった新しい特務官……」ってヤバいものを見る目つきで見られたのは心外である。

 別にうれしがってはいない。


 ともあれ、この時間で今までぼんやりとしか把握していなかったダンジョンの細かい性質や特務官の仕事についても教えてもらえた。

 ダンジョンにもぐりながらだけど。

 大変動直後だからしょうがないよね。

 ……書いていて自分がすでにかなり特務官に染まっている気がしている。


【以下メモ】


 〈ダンジョンの性質①:蘇生について〉

 ダンジョンでは、〈禁域〉以外であれば死んでも生き返れる。

 これが疑似神族の加護というものらしい。

 ただしこれには条件があり、肉体と魂が分離してから一定時間以内に蘇生術式を施す必要がある。

 この蘇生術式をかける専門の職員もいて、【蘇生課】という課の職員がそれを担っているらしい。彼らは【蘇生官】とも呼ばれている。


 〈ダンジョンの性質②:十三怪異物について〉

 ダンジョンは基本的にそれぞれで独立しているが、一部階層間を自由に移動する存在がいる。

 これらは本来のダンジョンの枠組みを超越していることから、いわゆる〈禁域〉と同じたぐいの存在であるとされているが、くわしいことはよくわかっていない。

 生物型、物体型、現象型など、形やあり方はさまざま。

 現在確認されているこれら階層間を遊走するバグを、〈十三怪異物じゅうさんかいいぶつ〉と呼んでいる。

 ちなみに俺がダンジョン対策室にやってきて最初にちらっと聞いた〈赤い死神〉はこのうちの一つとのこと。

 対処法はない。

 『見たら逃げろ』。

 これが共通の見解である。


 〈特務官のお仕事メモ①:民間探索士との協力〉

 ダンジョン対策室の特務官は、大変動直後などの緊急時にはみずからダンジョンにもぐることもあるが、平時は契約を結んだ民間の探索士を使ってダンジョンに関わる仕事を行う。

 民間の探索士は完全に野良でダンジョンにもぐる者もいれば、行政の補助を受けながらもぐる者もいる。後者は特務官からの補助、蘇生官からの援助などが受けられるため、かけだしの探索士は特務官付きの探索士として経験を積むことが多い。

 一方、特定の特務官に師事したいという理由で契約を結ぶ者もいるらしい。ちょっと人気稼業の側面もあるかもしれない。

 あの狼顔の特務官〈ガルン〉は特務官の中でもかなり人気があり、ガルン付きの探索士になるには面接や実技試験でかなりの倍率を乗り越えなければならないとのこと。

 たしかにガルンって面倒見よさそうだもんね。これは偏見だけど主に野太い声の同性に好かれそう。兄貴とか言われてそう。

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