第17話 おっさん、エルフを救いたいー3
五日目。
俺はシルフィとソフィアに無理を言って三時間だけ仮眠することにした。
さすがに意識がもうダメだった。
だが気づけば5時間ほど寝てしまっていた。
「ご、ごめん! シルフィ! ソフィア!」
だがそれは二人の優しさだった。
シルフィは眠い以外は体力的な問題は皆無、さすがは伝説の龍。
しかしソフィアはまだ10歳の女の子、それでも懸命に治療を覚えていく。
なんと既に抗生物質の投与の仕方まで覚えてしまった。
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名無しのモブ1:ごめん、俺もう見てるの辛いわ……
名無しのモブ2:今日から俺も寝ずに応援します! さっきまで爆睡したけど!
名無しのモブ3:エルフ助ける必要ある? こんなにしてるのに人間がぁって、性格悪くない?
名無しのモブ4:↑それはエゴってもんだろ、善意の押し付けみたいなもんだし
名無しのモブ5:4はアンチ?
名無しのモブ6:いや、普通に応援してる。頑張れ、シンジ君!
名無しのモブ7:シンジ君、私たちの願い、人類の未来、生き残ったすべてのエルフの命、あなたに預けるわ。頑張ってね
名無しのモブ8:ミサトさんいた?
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『大丈夫ですよ。私達はさっき寝させてもらいましたから』
『シルフィ……でも限界……すぴーーー…………zzzzz』
それからも治療は続いていく。
でも誰も症状は悪化していない。
やはり抗生物質は聞いているようだった。
俺がぶっ倒れるのが先か、一週間が来るのが先か。
「エルディアの方は大丈夫だろうか……」
◇一方 日本町。
「傾向は順調だな……初日のように暴れないで助かったよ」
「そうか……やはり信二の配信が聞いたのかな?」
医務室で、エルディアがベッドに横たわっている。
経過は順調で既に回復へと向かっていた。
そのエルディアが見つめるのは、配信画面。
医務室に用意された信二が必死に治療している映像だった。
「言葉は通じずとも、思いは通じるか……信二君の映像を見せた瞬間黙ってしまったな」
「自分の症状が改善しているのも自覚しているだろうからな、あと映像ごしでも理解は効果があるんだろう、彼の言葉を聞いてそれからずっとおとなしい」
エルディアはただ一点を見つめ続ける。
なぜかわからないが自分の妹と、あの男が一緒に治療を行っているように見えた。
もう一人銀髪の幼女は、私の弓矢をはじいた魔法使いの少女だろうか。
(…………)
エルディアは暴れない、治療も素直に受ける。
なぜなら自分の体調は良くなっているし、その結果で彼の生死が決まるというから。
一週間で出来る限り回復してみせる。
そして言わなければいけない。
(……彼は正しいと。彼を信じるべきだと)
だから今はただ静かに横になる。
◇一方 族長たち。
族長たちもずっと見ていた。
配られたスマホ画面には、ただひたすらと献身的な治療を行う男の姿。
時折聞こえてくる彼の声は、ただ助けたいという気持ちしか乗っておらず、その言葉を理解させられる。
「儂の夫は人間に殺された……」
するとその配信を見ていた村長がゆっくりと語りだす。
「人間は悪。儂らはそう決めつけてきたが……しかし……それは一部の人間であって、すべてがそうではないのかもしれんな」
少しずつ彼の心を理解していく。
そしてもう一度全員が配信を見た。
額に汗を流しながら懸命に自分達の家族を救おうとしてくれている男を。
◇そして六日目、約束まであと一日。
「……はぁはぁ」
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心配するモブ1:もう無理だって! ドクターストップ!!
心が痛いモブ2:一週間で10時間ぐらいしか寝てないぞ、死ぬ! まじで!!
昔のデスマーチを思い出すモブ3:俺昔三徹したことあるけど、まじで何も考えられないからな……。
おっさんい惚れそうなおっさんのモブ4:おっさんは凄いんだよ、世のお父さんは本当にすごいんだよ。
初日からずっと見てるドンパ:応援するしかできない。頑張れ、シンジ。お前がNo1だ。
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俺は何も考えられなくなっていた。
だが治療しなければ、ここにいる人達は死んでしまう。
ただその一心だけで俺は気持ちで乗り切ろうとしていた。
でも心と体は別物で、気持ちだけで何とかなる問題ではないようで。
「……あ、やばい」
俺は注射針を持ったまま、意識を失いそうになる。
倒れる。
でも体が動いてくれない。
ガシッ!
「……え?」
でも支えられた。
倒れそうな俺を支えたのは、ガルディアだった。
ずっと隣の部屋で俺達の様子を見ていたガルディアが、俺を支えてくれた。
「ここは……ペスト菌が充満してます。……早く離れてください。感染してしまう」
だが俺は早く離れるようにいった。
すでに感染してしまっているかもしれないが。
しかし構わないとガルディアは呼吸をしながら口を開いた。
『一つだけ……一つだけ聞かせてくれ……信二。お前の口からもう一度……聞かせてくれ』
俺はガルディアの顔を見る。
涙をこぼしながら、俺を見つめていた。
そしてペスト菌に侵されたこの部屋で大きく息を吸って言葉を繋ぐ。
『治るの˝か˝……黒の˝呪い˝は˝……お前達がペストと呼ぶこの病気は……治るの˝か˝……』
「……治る。誰もこの部屋にきてから死んでいない」
それはガルディアの覚悟の呼吸だった。
感染を恐れて誰も近づかないこの部屋の近くでずっと見張りをしていたガルディア。
なんでと思ったがすぐに俺は理解する。
『ソフィアは…………エルディアは……俺の大切な家族達は……このエルフの森は!! 助かるのかぁ!!』
「そうか、娘だったか……」
二人はガルディアの娘だった。
ずっと俺達のそばで見張っていたガルディア。
どこかで見た顔だと思ったがなんてことはない俺と同じ、娘が心配なただの父親だったか。
ガルディアは震える声で、心から叫ぶ。
『娘が生贄になどならなくとも!! お前は俺達の家族を救ってくれるのかぁぁ!!!』
その心を俺は真っすぐと【理解】した。
なら答えは決まっている。
「――絶対に救う」
ガルディアは涙をこぼしながら膝をつく。
唇をかみしめて、体を震わせる。
そして、頭を下げて俺に言った。
『…………頼む、我らを救ってくれ』
「――任せろ」
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