第26話 おっさん、怒るー2
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名無しのモブ1:俺異世界ってもっと楽しいだけだと思ってたよ。
名無しの大佐:……いかん、雨が降ってきたな。
名無しの卓球おっさん:……少し、泣く。
名無しのモブ2:なぁ、邪龍殺さないか?
名無しのモブ3:↑同意
名無しのモブ4:↑激しく同意
名無しのモブ5:許せないよ、アンリちゃん。パパのこと大好きだったのに。
言葉が出ないドンパ:その、なんだ。お前のせいじゃないぞ、信二。
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いや、俺のせいだ。
俺が混沌龍のことは異世界の……ドワーフ達の問題だと一歩引いていたせいだ。
もっとできたことはあった。
それこそ昨日のうちに出来たこともだったはずなんだ。
一月も前に襲撃されたと、淡々と話されていたから俺は何も理解できていなかったんだ。
千人死んだ。家族がいるはずの千人も死んでいたのに。
俺は、何もしなかった。
『パパ! パパ!! アンリを一人にしないでよ!! パパ!!』
俺は今、泣きじゃくるこの子を抱きしめること以外できていない。
俺はアンリちゃんを抱きしめて、遅れてやってきたビビヤンに預けた。
「シルフィ……シルフィの力で救助手伝ってくれないか」
『うん……頑張る』
シルフィには申し訳ないが、一緒に救助活動を行ってもらった。
風の魔法で瓦礫をどかすことをメインにやってもらう。
でもシルフィにはその先は見せないようにした。
その下にはシルフィが見るにはまだ早いものがたくさんあるから。
だから俺が彼女の眼となり、救助活動を進めていく。
それでも少しずつ彼女にも伝わってしまっているだろう。
助けられた命はほとんどなかった。
俺の顔、周りの反応、どれだけ頑張っても終わりは見えない闇の中。
ほとんどがすでに手遅れの状態だった。
でもほんの一握りだけは助けることはできたんだ。
それを見て表情を暗くしていくシルフィも少しだけ救われたような表情になった。
シルフィには無理をさせて本当に悪いと思う、でも彼女の無限のような風の魔力がなければここまで救助は進まなかっただろう。
その日は夜遅くまで救助活動を行った。
俺はただ無心で、罪滅ぼしのようにひたすらと救助活動を行う。
そうしないと、嫌なことを考えてしまいそうになるから。
……その日の夜。
『信二よ。救助活動を手伝ってくれたと聞く。この国の代表として礼を言う。ありがとう』
「いえ……」
その後、俺はガゼット王に会いに行った。
状況を簡単に説明してくれたが、真夜中に急に混沌龍は現れたそうだ。
反撃する間もなく、一瞬で街を滅ぼして、すぐさま消えた。
本当にただ殺戮を楽しんでいるかのように、それはドワーフ達を蹂躙していった。
『……明後日だ』
「え?」
『奴の住処は分かっておる。明後日、我々ドワーフの軍の全戦力を持って奴を屠る。もはや奴の死を持ってしか許せぬ』
ドワーフ王は泣いていた。
それを見て俺も思わず泣いてしまった。
俺はドワルさんとたった一日の付き合いだ。
でもこの優しく強き賢王は、きっとドワルさんだけでなく多くの民の悲しみを背負っているのだろう。
その眼を一切閉じずに、涙を流しながら決意していた。
『死んでいったもの達へ、奴の首を届けねばならん。あ奴らも残した者達のことが心配でたまらぬだろうからな。安心して眠らせてやらねば』
ドワルさんは、きっと最後までアンリちゃんを守ろうとした。
潰された家からアンリちゃんだけ外に投げ出されたと聞いた。
足をすりむいた程度のケガで済んだが、それはきっと最後の最後に、父が娘を守るために出せた底力。
自分の命よりも、娘を優先したドワルさんはほんとに立派な父親だった。
「ガゼット王、今用意できるだけの日本刀を用意しました。100本ほどです」
俺は信一郎に渡された緊急で容易できた日本刀を持ってきていた。
それをドワーフ達に渡す。
兵士の数には心もとないが、上位の使い手にさえ渡ればそれでも十分な戦力の強化になるだろう。
『100本もか……助かる。本当に感謝する』
そういって頭を下げるガゼット王。
俺はそれに合わせて聞いた。
「明後日……場所を聞いてもいいですか」
『ここより、馬車で半日ほど。霊峰イカロスと呼ばれる山脈に奴はいる。厳しい戦いになるが、こちらも精鋭一万を連れていく。総力戦だ』
「……王よ、ご相談があります」
『ん? なんだ、申せ』
俺はガゼット王と少し話した。
日本刀を100本渡し、兵士達は新しい武器での訓練を始めた。
来たるべき戦いに備えて準備を整える。
そして俺は。
「……信一郎、話があるんだ」
俺の戦いを始めた。
……
◇それから明後日。決戦の日。
晴天でも雪が残るほどの高き山、霊峰イカロスで、それは寝ていた。
その山の高所に空いた大きな穴倉で、その真っ黒な龍は眠っていた。
数十年に一度目を覚ます悪しき龍。
混沌と呼ばれ、多くを気まぐれで殺してきた災厄の龍種。
最古にして最強の古龍、
『ん? やっと仇討ちに来たか……しかし……なんだ?』
惰眠を貪っていたその龍はゆっくりと体を起こした。
真っ黒な体に、鋼すら通さぬ黒き鎧。
体格はそれこそ嵐雷龍こと、シルフィの二倍ほどはある成人した正しく古龍。
どうやら、自分の住処のこの山へと誰かが昇ってきたようだ。
仇討ちだろう、しかし聞こえてくる声は少数の足音と息遣い。
もっと大勢で来ると思っていたのだが、まぁいい。
龍は退屈していた。
気まぐれに誰かを殺し、怒り狂って仇討ちに来た矮小な存在をまた殺す。
そんなことでしかこの悠久の時を生きる退屈は埋められない。
いつしか自分の本能がそれであることに気づいてからはもっと殺した。
でも殺し過ぎれば全員いなくなってしまうので、飽きたら数十年眠って数を増やす。
そうすればある程度、あの虫けらは数が増えるので、起きるたびに殺して遊んだ。
虫けらの泣き叫ぶ悲鳴は心地よい。
許してと嘆願する顔は踏みつぶすと気持ちがいい。
虫けらの分際で家族だけはと願う者の前でその家族を焼き払ったときの表情などたまらない。
さぁ、虫よ。愚かな虫よ。
お前はどんな声で泣く?
しかし、その虫は泣くどころから分もわきまえず我を真っすぐと見つめて言った。
「……リスナーのみんな、配信者として一度だけお願いさせてくれ」
理解できるのに、理解できない単語ばかり。だが、【理解】できるぞ。
「――この配信、拡散希望で」
煮えたぎるようなその怒りの感情だけは、よく【理解】できる。
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