第27話 おっさんと、邪龍ー1


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名無しのモブ1:任せろ!! 俺のフォロワー30人が火を噴くぜ!

名無しのモブ2:↑弱すぎて草 千人ほどのフォロワーですがRTしときました!

名無しのイーロン・マ〇ク:yes.I retweeted this broadcast。Good luck!

名無しのモブ2:↑さすがに偽物だよな?

名無しのモブ3:↑アカウント見てきたらまじでした。これ世界中に拡散されたぞ

名無しのモブ4:おっさん、世界デビュー戦。

名無しのモブ5:視聴者数がイカれ始めたぞ!! サーバー大丈夫か!?

名無しの信一郎:問題ない。事前に拡張済みだ。信二、頑張れ!

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 俺のリスナー達がこの配信を拡散してくれている。


 今、日本中、いや世界中がこの配信を見ているかもしれない。


 そう、俺の眼の前にいるこの。


『人間がたった一人でなんのようだ?』


 真っ黒で混沌とした龍の真実を世界に映すために。


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名無しのモブ1:めっちゃ怖い。

名無しのモブ2:普通に怖すぎる、おっさん大丈夫か?

名無しのモブ3:実は良い奴だったエンドはない?

名無しのモブ4:だとしても死刑。なおこのままだとおっさんが死刑にされる模様。

名無しのモブ5:シルフィちゃん見てて勘違いしちゃうけど、この世界だと大災害だもんな

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「俺の名前は大石信二。アテナ神より加護をもらった」

『――!? ほう、これは驚いた。数千年生きたがしゃべる虫は初めてだぞ』


 俺はその龍に話しかける。


 するとその龍を、黒い闇が包んだと思ったらその姿は変わる。


 黒いスーツを着たまるで悪魔のような男へと。

目は黒く、黒い長髪で、一見すると美男子のよう。


 しかしその眼の奥は何も笑っていない。


 不気味な笑みを浮かべながら俺に近づいてくる。


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名無しのモブ1:まさかの糞イケメンで草

名無しのモブ2:おい、女ども。騙されるなよ!

名無しのモブ3:でも目が怖すぎる。

名無しのモブ4:気持ち悪い……なんか寒気がする。

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『虫がこの我と話せるとはな……アテナ神が加護を与えたか』

「俺は人間だ、虫じゃない」


 俺は混沌龍が口にした言葉をオウム返しのように繰り返す。

理解の力は俺にしかない、ならばこの映像の向こうにいる人には俺の言葉しか届かないからだ。


『ははは。で、なんのようだ? まさか我と話しにきたというわけでもあるまい?』

「いいや、話しに来た。一つ聞かせてくれ、なぜドワーフを襲った」


『なぜ? お前は地を這う蟻を踏んだことがないのか?』

「お前にとってドワーフ達は蟻と一緒ということなのか? 殺して心を痛めないのか!」


『痛める? なぜ? なぜ虫を踏んで心を痛めるというんだ? 強いて言うなら楽しいからだな。プチっという音が』

「殺すことが楽しいのか。彼らも意思ある生き物だ。価値ある命だ」


『それは驚いた。踏めば終わる虫に価値があるとはな……数千年生きてきたが初耳だ』


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名無しのモブ1:何言ってるかはわからないけど、何言ってるかはわかるよ。

名無しのモブ2:やっぱりド畜生か。

名無しのモブ3:見た目通り、女殴ってそうなイケメン

名無しのモブ4:これはアウト判定でいいです

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『だが、虫とはいえ、死の直前。その瞬間だけは素晴らしい声で泣く。昨日はよかった。たくさんの悲鳴が心地よかったぞ。その一点だけは価値があるな』

「そうか。お前は俺達の悲鳴が好きなのか」


 もうこいつと話したくないな。


 どこまで話しても説得できるような気がしない。


 こいつは悪、まごうことなく正義の反対ですらない悪。


 言葉だけじゃない、俺はこいつの心を理解してしまった。


 底知れぬ闇、生まれ持った邪、これが信一郎が言っていた生まれた時から価値観の違う存在。


 だから俺は最後の問いをした。


「お前はドワーフだけじゃなく、人間も同じように……俺も同じように虫に見えるのか」

『ふふふ……』


 するとその黒髪の男は見たことないほどに高笑いする。

その笑いがあまりにも不気味で、俺は血の気が引いていく。


 そして。


『言葉をしゃべる虫など気持ち悪くて仕方ない。もう死んでいいぞ』


 指を鳴らしたかと思ったら、俺に向かって黒炎が飛んでくる。


 死の炎、言葉が通じるのに虫けらのように俺を殺そうとする。


 確定だ。


 これでこいつは。


「そうか。意思疎通できる俺も関係ないか……じゃあお前は俺達、日本人全員の」


ボウ!!


「――敵だな」


 その黒炎は俺の眼の前で風の壁に阻まれて消える。


『シンジを虐めるな!!』

『む!?』


 それはシルフィの風の魔法だった。

シルフィはこの穴倉の入り口でこの時まで待機してくれている。


 そして俺は加護を発動し、風を纏って外に逃げようとした。


『同じ龍種とはいえ、我に歯向かうなら殺すぞ。ガキ』

『シンジはシルフィが絶対守る!! お前嫌い! お前悪い奴!!』

『ほう……悪い奴か……なら……』


 その男を闇が纏ったかと思うと、体が大きくなる。

元の姿、混沌をもたらす悪しき邪龍へと姿を戻し、叫ぶ。


『全員殺さないとなぁぁぁ!!』


 破壊の魔力が吹き荒れる。


 シルフィと俺は急いでその穴から逃げ出した。


『逃がすわけがないだろうが! 虫けらがぁぁ!!』


 穴から出てきた混沌龍、穴を突き破り、その巨体のまま空を飛ぶ。


 真っ暗な夜に、二つの月が浮かぶ夜。


 そこに混沌が入り混じり、最古の龍が荒れ狂う。

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