第4話 おっさん、伝説と出会うー1
「え? 俺の言葉わかります?」
『はい、理解できます。聞こえる言葉はよくわからないのに……はっきりと意味が……そちらの方は何言ってるかわからないのですが』
「うそ……」
俺が村長さんと会話していると、横でたかしさんが俺を見て眼鏡を取る。
驚いた表情で俺を見つめているが、理解できないという顔をしている。
「も、もしかして意思疎通できておりますか? いえ、私には日本語にしか聞こえないんですけど……ヴォルフガングさんの表情が」
「なんかできちゃいますね。あとヴォルフガングさんじゃなくて、ソンさんみたいですよ?」
「なんと……聞き間違いでしたか……」
(どうやったら聞き間違えるんだ?)
するとビビヤンも驚いた表情で俺を見る。
「あなた、さっき加護は理解って言ってたわよね。それが関係してるのかしら」
「加護、理解……だとするならばこれは世界が変わりますぞ!! 異文化交流の懸け橋になれますぞ! 大石殿!!」
「え? そ、そうですか?」
俺としてはただ言葉が通じるというだけなのだが、なんかすごいことなのだろうか。
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新人を潰さないドンパ:こ、こりゃ偉いことになったな……。まってろ、すぐに拡散してやるから!
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「ちょ? ドンパさん?」
しかし返事がない、拡散しにいったようだ。
まぁそんなすぐに変なことは起きないだろうが、俺の力が何かの役に立てるならそれに越したことはない。
いや、変な事起きないよな? まだ俺よくわかってないんだが……。
「と、とりあえず大石さん! 我々の力に! とりあえず公務員になりましょう! ええ、ぜひ! ほんとにぜひに!!」
「い、いや。それはちょっと……」
力になりたいが、俺には俺でやることがある。
この力が素晴らしいことだとしても俺は娘を救うことこそが最優先事項なのだから。
『少しいいですかな? 大石さん』
「はい、なんでしょうか」
するとソンさんが俺に話しかけてきた。
相変わらず普通に理解できるな。
『昨晩、近くの村が滅びました。龍種が現れたんです。住民は運よく避難できましたが村は壊滅です』
「滅びた!? ど、どういうことですか?」
『
「そ、そんな。で、では逃げましょう! 幸い日本村はここから半日ほどです! あそこなら多少の防衛は! いえ、もしかしたら日本にでも!」
『……いえ、我々はこの村を離れません。ですがあなた方は違う。なので逃げてくだされ。それだけでもせめて伝えたいと今話しておったんですが……中々伝わらず』
「……なぜ、逃げないんですか」
『異国のあなた方に伝わるかわかりませんが、この村で育ったからです。死ぬならここがいい。それに龍に殺されるのでしたら本望。それが神の思し召しですから』
「そんな……」
俺は言葉に詰まった。
価値観が違う。
文化が違う。
きっとこのことは村中の人が知っているのだろうが、逃げようとはしていない。
これを無理やり逃がすべきなのだろうか、それは俺達の価値観の押し付けなのだろうか。
「たかしさん。
「なんですと!?」
「なんですって!?」
ビビヤンとたかしさんが驚く。
「さっきから何か伝えようとしていたのはそういう……村人たちは! 小さいとはいえ、100人以上はいますぞ!? このままでは全滅する恐れも!」
「離れる気はないらしいです……ここで死にたいと」
「し、しかし!!」
すると村長を向いて説得しようとするたかしさんをビビヤンが止める。
「私達は三年間、同じように価値観を押し付けて失敗ばかりしてきたでしょ? 無理強いはだめよ」
「で、ですが!! 命の話となっては別ではござらんか!! 自衛隊を! 我らが英知の火で人道的な救助を!」
「その人道的というのは日本にとっての人道的という意味よ。それに忘れたの? 昔、あれに30人からなる中隊が壊滅させられたのを」
「……し、しかし」
だがビビヤンは首を振る。
「すみません、気が動転しておりました。ビビヤンさんはそれを痛いほどわかってらっしゃいますね。わかりました、すぐに対処を」
それからたかしさんの行動は早かった。
その村に駐在している日本人全員をすぐに退避させて、日本政府に連絡。
すぐに多くの配信者達が、その村付近での活動をやめた。
俺達も異世界の日本町へと帰ることにした。
あの村を捨てて。
「こんなことになっちゃったからお代はいらないわ」
「いや、払うよ。ちゃんと村までは連れて行ってもらったし……」
「そう……私もビジネスだからクライアントがそういうならもらうけどね」
ビビヤンに俺はしっかりと20万を支払った。
ビビヤンは少し悲しそうにしているが、やはり村のことが気になっているのだろう。
ビビヤンは元自衛隊としてその龍と戦った過去があるそうだ。
そして敗北した。
当時はまだ何も分かっていないような状態だったと言うこともあるそうだが、軽装の自衛隊が敗北した。
だが、それを期に自衛隊をやめて傭兵としてこの地にいるらしい。
そのときビビヤンさんが何を思ったのかはわからないが。
「一旦、俺は戻るよ……ビビヤン。また依頼させてくれよ」
「いつでもウェルカムよ。私の番号ちゃんと登録しときなさいよね」
俺は今後のことを考えなくてはと家に一度食事をとりに帰ることにした。
その日、俺は一日中考え続けた。
でも答えは何一つでなかった。
◇翌日。
俺は早朝に病院へと向かった。
「一花……」
俺の娘、6歳になるまだ幼い少女が病院のベッドで眠っている。
植物状態、つまり意識はないが死んではいない。
俺はその手を握った。
「父さん……どうすればいいのかな……」
俺はずっと悩んでいた。
無理やりにでもあの人達を避難させるのが正解なのではないか?
例えば田舎の村に住むお婆ちゃんが地震が起きたのに避難しないといったとき無理やり避難させるべきではないのか?
その人の持つ価値観を捻じ曲げてでも……。
でもそれは望まれていないのだとしたら……
『パパは正義の味方だよ』
「え?」
すると一花が答えてくれたような気がした。
「正義の味方……」
それはいつも俺と一花が遊んでいた時、一花が言う言葉だった。
一花は仮面ライダーや、ウルトラマンなどの特撮ヒーローが好きだった。
いや、俺が好きなせいで好きになったというほうが正しいか。
いつも普通は逆では? と思うが、なぜか一花はやられ役の悪役をして、俺が正義の味方として倒すだけのごっこ遊び。
『だってパパは正義の味方だもん!』
俺は目を閉じながら何度もその記憶を繰り返し思いだしていた。
満面の笑みで俺に笑いかける一花、最愛の娘。そして妻の楓も。
「そうだよな……パパは正義の味方だもんな」
『うん! パパ、頑張って!! 一花応援する!』
俺は立ち上がった。
そしてゲートへと向かう。
30近いおっさんに何ができるか分からないが、それでも娘に胸張って生きていたい。
……
「ちょ、ちょっと!? 今アナザーは危険だよ!?」
「すみません!! 緊急です!!」
パスポートを提示して急いでゲートへと進む。
今、
それでも俺はいかないといけない気がしたから。
その門をくぐり、異世界へ。
その先には。
「……待ってたわよ、信ちゃん」
「はぁはぁ……ビビヤンなんで……」
ビビヤンが車を待機して俺を待っていた。
「ふふ、男子の気持ちぐらいお見通しよ……きっと戻ってくるって思ってた」
「はは、お見通しか。でも望みはあると思う……俺の加護で」
「ええ……私もそう思うから、待ってたの。乗って」
「あ、でも料金は……滅茶苦茶危険だし……」
するとビビヤンは笑いながら言った。
「もう貰ってる。言ったでしょ」
滅茶苦茶男らしい顔で。
「――二日間は守ってあげるって」
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