第3話 おっさん、異世界配信者になるー3

 配信を始めて早、一時間。


 俺の視聴者はドンパさんオンリー。

いや、一人いるだけでもうれしいもんで。

なんかちょっとした旅行気分で俺達は車の旅を楽しんでいた。


「そういえば、信ちゃんはなんで特域に?」


 信二という名前の俺はいつの間にか信ちゃんになっていたがまぁいいか。


「万能の霊薬を探しているんです」

「――!? そう……」


 何かを察したのかビビヤンさんはそれ以上俺には聞かなかった。

万能の霊薬を探している人は俺以外にもたくさんいるんだろう。

なぜならここは、そういった人が最後に頼る場所なのだから。


「ビビヤンさんは?」

「そうね……楽しいからかしら。新しい出会いが毎日のようにあるここは楽しいわ。信ちゃんともつながれて私はハッピーよ」

「ふふ、そうですか」

「そろそろ敬語やめてもいいわよ? 多分同い年ぐらいよね? まぁ年なんて私は気にしないけど」

「じゃ、じゃあそうしようか。ビビヤン」

「うふ♥」


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新人を潰さないドンパ:俺は配信者を通して世界を見るのが好きなんだ。特に新人は良い。

まるで初めての世界を、一緒に冒険している気分になれる。ベテランは同じとこを周回してばっかりで面白くねぇ。

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 それぞれいろんな思いでこの異世界とかかわっている。

俺のように仕方なくの人もいれば、大多数はワクワクするという思いの方が強いのかもしれない。


 道中はどこまでも草原だったので気持ちがいいなと思っていた時だった。


「ちょっと失礼……」


 ビビヤンが車を止めて、剣を持って降りていく。


「ブモモモ!!!」

「猪!?」

 

 直後隣から猛スピードで走ってくる猪のモンスター。

猪だ、でもその大きさは俺達が乗っている車よりも大きい化け物猪。


 まるでジブリ映画に出てくるあの猪並みにデカい。


「ビビヤン危ない!」


 俺が叫んだ時だった。


「うふふ、大丈夫。私好きなのよ……」


 剣を抜いたビビヤン、そしてそのまま猪もびっくりなほどの速度で迎え撃つ。


 ――一閃。


「今日は猪肉で焼肉ね! 正確にはボア肉だけど♥」


 一刀両断されて真っ二つになるボア。


 俺は空いた口が塞がらない。

こんな芸当見たことがない、人間じゃない膂力、これが加護を持った人の戦闘力。


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新人を潰さないドンパ:さすがビビヤン。鮮やかな御手前、戦闘力に関しては上位配信者並みだな

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「信ちゃーん! 手伝って!!」


 呼ばれた俺は車から降りて、テキパキと肉を解体していくビビヤンさんを手伝う。

車の中にはこういった解体道具などがたくさん積んであるので日常なのだろうか。


「はい、これで10キロぐらいはあるわね。うふ、美味しそう」

「全部は取らないんですか?」

「あんな量、車に積めないわよ。それに放置してたら……ほら、きた」


 するとハイエナのような犬が10匹ほど現れてその猪を食い散らかす。


「自然って感じがすごいな……」

「そうね、あ、あと襲われた時以外に乱獲したら密猟で捕まるから気を付けてね。今みたいにあっちから来た時は遠慮なくやっていいけど」

「はは、あんなの俺には無理だよ」

「……失礼じゃなければどんな加護をもらったの? 答えたくなかったら大丈夫よ」


 俺は理解のことを伝えた。

しかし、俺も分かっていないので何も伝えられなかった。


「そう……パッシブ系なのかもね。アクティブ系、つまり発動系はもらった瞬間に理解できると聞くわ。パッシブ系、つまり常時発動タイプは身体強化なんかならすぐにわかるんだけど、その時が来るまでわからないかもね。ちなみに私は身体強化」

「一目でわかる。いいな、身体強化……」

「でも凡庸な力よ? この世界の原住民達の多くが持っているらしいから。この世界は加護で決まる。そして加護を与えるのは神だけじゃない」

「そうなの?」

「そ、上位存在。化物達ね……、私でも尻尾巻いて逃げるしかないような奴らよ。この世界では一種の神として呼ばれてるわ」


 この異世界にはそういった存在が多くいるらしい。


 原住民と呼ばれるこの世界の思考できる存在は、人型から龍、果ては植物まで幅広い。

魔力のなせる技なのだろうが、ほんとにここはファンタジーだな。


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新人を潰さないドンパ:この近くだと、嵐雷龍テンペストが目撃情報があるな。出くわしたら死だけどな。

古龍種はマジでやばい。昔自衛隊の中隊が一網打尽にされた。

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 なんですか、その物騒で強そうな名前は。


 龍いるの? この最初の村なのに? スライムとかじゃなくて?


「もしもよ、もしもこの世界が力で支配できるような場所だったなら日本政府も色々考えたでしょうね。でもそう簡単にはいかない。この世界には理解不能な魔法があるんだから。だから交流して、貿易の道を探ってるのよ。特に嵐雷龍テンペストは銃弾すら纏ってる風で吹き飛ばすような化物だからね」


 そう語るビビヤンさんは少しだけ悲しそうな顔をしていた。


 そうこうしているうちに俺達は最初の村についていた。


 この村にも基地局が立っているので、おそらく交流がうまくいった地域なのだろう。


 おそらく原住民の村人らしき人々と日本出身の人らしき人も多少いる。


 異世界なのに電波が届くことがびっくりだが、まぁこれも日本政府とNT〇の三年の努力の成果という奴だな。


「やや、もしかして新しい配信者の方ですかな?」


 すると村人と話していたであろう日本人らしきTシャツを着た男の人が俺を見て走ってくる。


 丸眼鏡で若干太って汗だくだ、オタクっぽい人だな、同士か。


「ど、どうも。大石信二です。今日初めて特域に来ました!」

「久しぶり、たかし。元気してた?」


「やや! そこにいるのはビビヤンさんですな! なるほど護衛で……自分は、大野たかし! 日本生まれの東京育ち! 好きなアニメは美少女変身もの! 今は特域との交流のために飛ばされたしがない公務員です! 一応この村の特使ですな! まぁいまだに何言ってるかジェスチャーでしかわかりませんが! ははは! あ、紹介します。こちらこの村の村長さん! 多分ですが名前は……ヴォルフガングさん!」


 俺はヴォルフガングと呼ばれたかっこいい名前の村長さんに挨拶をする。


 多分日本の服をこの村では提供しているのだろう、服装が同じだと普通に外人にお爺ちゃんにしか見えない。


 日本語が通じないのは分かっているが、こういうのは誠意だからな。


「初めまして、大石信二です」


 俺は普通に挨拶をして手を差し出す。


『――!? は、はじめまして。村長のソンです……あなたなぜ我々と喋れるのですか?』


「……え?」


 俺はその村長さんの言葉を普通に【理解】できてしまった。

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