第5話 おっさん、伝説と出会うー2

◇少し時間は戻って一日前。日本政府 会議室。


 自衛隊の幹部らしき人間が数名。

そして、防衛省の役員が数名。


 日本の防衛の行政と実行の自衛隊の代表者達で緊急会議を開いていた。


「あの村に嵐雷龍テンペストが現れると聞いた。それは本当かな? 大泉君」


「はい、現地の住民からの情報です。言語が曖昧で定かではありませんが、おそらくは……近隣の村でも同じようなことを言われたと」


「そうか……あのトカゲ。三年前は我々はろくな装備も持たず、多くの殉職者を出した。だが今は違う。日本村には自衛隊アナザー駐屯地までできている。陸自の本当の力を見せてやるべきだ。亡くなった部下達を弔ってやらねば」


 大泉と呼ばれたのは、防衛大臣政務官。

今年30になる若手の出世頭の一人、眼鏡をかけてスーツをビシッと決めている。


 その会話相手は陸自のトップであり、陸上幕僚長である陸神 徹。


「では、自衛隊としては討伐を視野に?」


「もちろんだ! 特域にいる住民を守らなくてはな! 生物ならば死なぬことなどありえない!」


「あまり得策とはいえませんが……意思疎通のできない害獣として対応するしかないでしょうな。あちらの世界では神とまで言われているのですが」


「死ねばその神話も終わるだろう。幻想だよ、神などいない」


「それはいささか発言にはお気をつけて。まだあの帝国と我々は同盟を結べておりませんし、異世界には神の声もありますから……宗教的にあまりその発言は迂闊です」


「そうだったな……しかし、外交官共は何をしているのか……三年だぞ。全く成果があがらんではないか」


「しかし全く言語体系から何から異なっていますから……しかも地域によって全然違うと。そもそも友好的ではないので苦戦するのは仕方ないでしょう。殺されなくなっただけ大きな進歩です」


「ふん、我が国が米国なら今頃核を落としているところだ。外交官の首を送って来よって。野蛮人が」


「文化が異なるのですから、我らの歩み方が早すぎたのです」


「まぁいい。では命令を下すぞ。あの周辺は帝国の領土でもないしな」


「…………わかりました。ですがこれは戦争ではなく、人道的な支援。その一点を強くお忘れなく」


「わかっている。ふっ。ゴジラ討伐のようなものだな」


「その理論だと敗北するのは自衛隊ですがね」


◇そして現在。


「飛ばすわよ!!」

「おお!?」


 俺はビビヤンが全力で飛ばす車にしがみついている。


「自衛隊が本気だしちゃたの! 陸神さんでしょうね……あの人過激だから。まるで戦争よ」


 聞くところによると今日の朝、作戦は開始されたらしい。

昨日の今日でと思ったがいつ戦争が起きてもいい様に準備しているアナザー駐屯軍。


「というか自衛隊の兵装が加護持ちに効くの!?」

「普通に効くわよ! 三年前の嵐雷龍テンペストだってちゃんと血流してたのよ!」


「なんかファンタジーって近代武器が聞かないものと思ってた!」

「でもちゃんとファンタジーっぽくまるで嵐のような風で守ってるの。ライフルなんて聞きやしない。でも多分今回10式戦車から戦闘ヘリ、迫撃砲、榴弾砲まで出してるの!」

「全然わかんないけど、すごいのそれ?」

「国でも落としに行くような装備よ! あの人、龍が相手だからって多分ノリノリよ! ちょっと男子なところあるから! でも人を守ろうとする気持ちは本物だけどね」


 そのまま俺とビビヤンは全力で飛ばし続ける。


 速ければ昼過ぎには到着するだろう。

おそらく戦車であろう巨大な車両が通った後が所せましと草原には広がっていた。


 その足跡がこれから始まる戦いの物激しさを物語る。


「あ、そうだ。ドローンつけなきゃ……規約違反だ」

「あなたそういうところマメね……まぁ入場記録と配信記録が履歴に残るからやらないと剥奪されかねないけど」

「ビビヤンはいいの?」

「国家公務員は免除!」

「まじかよ……そんなナリで公務員なのか!」

「元陸自のレンジャーなめんじゃないわよ! 結構すごいんだから!」

「期待してるぜ、ビビヤン!」

「任せとけ! 飛ばすぞぉぉぉ!!」


 たまにドスの聞いた声が出るんだよな……。


◇一方 最初の村ヘストス。


「住民は避難に応じなかった。つまり村へ奴が現れる前に戦闘開始しなければならない」


 指揮官は、拡声器を持って全部隊へと伝達する。

30を超える滞空装備を持つ戦車、そして空には10基以上のヘリが飛ぶ。


 今は周辺を警戒し、索敵中。


 龍が村を見つける前に、自衛隊として龍を見つけなければならないから。


 そしてしばらく索敵した結果。


「遠方に影発見!! 3時の方向……嵐雷龍テンペスト!! 嵐雷龍テンペストです!!」


「ほう、目撃情報はあったがこんなに早くお目にかかれるか……三年前の借りを返すぞ!!」


 双眼鏡で周囲を警戒していた自衛隊の一人が叫び、無線で全体へと連絡する。


 それを合図に、指揮官は即座に指示を出した。

遠方からの威嚇射撃、だがダメージを与えられるとは思っていない。


 攻撃に気づいた龍は、遥か彼方からこちらを見る。


 ただこちらを認識させるだけでいい。


 それだけで。


「ギャァァァア!!」


 戦闘は始まる。

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