第6話 おっさん、伝説と出会うー3
大石信二、30歳。
ただのサラリーマンだった俺が自分でも今びっくりしています。
なぜかって?
今俺は映画やアニメでしか見たこともないような馬鹿ほどデカい龍の眼の前にいるからです。
◇遡ること5分前。
ドン!!!
「――!? あっちだ、ビビヤン!」
「了解!!」
おそらく戦闘が始まったのだろう。
俺は配信が付いていることも忘れて、ただ間に合えという気持ちだけで前を見る。
その視線の先には、まるでおとぎ話から出てきたような巨大な龍。
銀色の鱗を纏い、高さは5階建てはあるビルほどの巨大さ。
両翼を羽ばたかせるだけで嵐のような風が舞う。
両足をだらんと重力に任せて力を抜いているが、間違いなく異世界の魔法で空を飛んでいる。
「もうドンパチ始まってるわね、どうする!!」
「なんとか、龍の前へ!」
「いってくれるじゃない! 任せなさーーい!!」
龍の咆哮が聞こえる。
『痛い……』
そして俺は案の定、【理解】していた。
今彼、もしくは彼女は叫んでいる。
痛いと。
「やっぱりわかるぞ、ビビヤン! 痛がってる!」
「そりゃあんだけバカスカ食らえば痛がるでしょうよ!!」
そうだろうか。
何か違う気がする。
『痛いよ、痛いよ! 痛いよ!!』
そして俺達はその自衛隊の隊列の眼の前に飛び出した。
「運転チャンジ!」
「了解よ!!」
俺とビビヤンは運転を交代し、そしてビビヤンが身体強化を発動したのか扉を開けて車の外へと全力で飛ぶ。
「ストッーーーープ!!」
「なぁ!?」
ビビヤンが車両を飛び出して指揮官らしき男を全力で抱きしめた。
顔見知りのようで、自衛隊の面々も驚くような表情をしている。
「お、お前は早乙女!?」
「いやよ、ビビヤンって呼んで! ってとりあえずストップよ、ストップ!! 攻撃中止!! 全員攻撃中止!!」
「な、なにを言う! 倒せそうなのだぞ!」
「あら? 濃厚なキスするわよ」
「全員撃ち方やめぇぇぇぇ!!! 一時停止! 一時中断!! 全力で停止!!」
その合図で龍への攻撃は一時的に停止された。
しかし、もし向かってくるようだったらすぐに再開されるだろう。
だから俺は、空中で滞空している龍へ向かって車両を走らせる。
『痛いよ……助けて……痛いよ……』
やっぱり叫びが聞こえてくる。
だから俺は、窓から顔を出して車に取り付けられている拡声器を使って大きな声で叫んだ。
「俺が助けてやる!!」
『え?』
よし、意思が通じた!
「俺は味方だ! 安心しろ!!」
『どこ? 誰?』
「下!!」
そして俺はその
「降りてきて話そう! 俺がお前の力になってやる!!」
バサバサと翼をはためかせその龍は降りてきた。
デカすぎる、俺なんて一撃で殺されるだろう。
正直今にもちびりそうなほどに怖い。
『人間? なんで龍語しゃべれるの?』
「えーっとアテナ様の加護!」
『アテナ様が加護を上げたの? 珍しい……って痛ーーい!! 痛ーーい!!!』
するとまた泣きそうなほど悲痛な叫びが聞こえてきた。
それに合わせてビビヤンと自衛隊の指揮官らしき人も付いてくる。
「信ちゃん、とりあえず一番偉い人つれてきたわよ。滅茶苦茶びびってるけど」
「び、びびってなんかおらんぞ! というか、何だお前! なぜ龍と会話のようなことができている!」
『お前! 攻撃してきた奴! 殺してやる!! わぁぁぁ!!』
「ひぃ!?」
どうやらやはり俺以外の人にはただ叫んでいるだけのように聞こえているのだろう。
正直滅茶苦茶怖い。
でもなんだかこの龍、子供のような声がする。
俺はむしろ娘に重ねて助けたいという気持ちが強くなっていた。
「ストップ、ストップ! 攻撃したのは謝る! すまなかった! お詫びはいくらでもする! だから力にならせてくれ! 君を助けたい!」
『……助けてくれるの?』
「助ける! 俺の名前は大石信二! 信二って呼んでくれ!!」
するとその龍は俺の眼の前まで降りてきて、ゆっくりと顔を降ろす。
『シルフィ……こんにちは……アテナ様の使徒。信二』
「そうか、シルフィか。テンペストよりもずっと可愛い名前だな! 女の子?」
『……メス?』
「そ、そうだな……メスだな……とりあえず何があったか俺に教えてくれるか? シルフィ」
『痛いの……すごく痛くて……死にそうなの……我慢できなくて……暴れちゃうの』
まさか病気? だとしたら俺じゃどうしようもない。
「ちなみにどこが悪いか教えてくれるか?」
するとシルフィは顔を地面につけた。
そしてゆっくりと口を開く。
『口の中……』
口? 俺は開いた口を除くとなんだろうか、黒い? そしてちょっと匂う……。
「どう? なんていってるの?」
「なんか口が痛いらしい……でもわからないな」
「お、お前ら……よくそんなとこに頭突っ込めるな……」
ピロン♪
すると俺のスマホから通知音が聞こえた。
先ほどまでドンパチしていて全く気付かなかったが、今は全員静かで聞こえてきた。
ドンパさんがコメントしてくれたんだろうか。
俺は何かヒントがないかとスマホを開く。
そして気づいた。
「はぁ?」
コメントの通知がカンストしていたことに。
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