第33話 おっさん、世界を救いたいー1

 12人の甲冑に包まれて顔まで見えない騎士達が剣を腰に俺を見る。


 そして玉座に座る獅子のような青年は、その鋭い眼光で俺を真っすぐと見つめる。


『よくきてくれた、日本の代表。大石信二。たった二か月でエルフの次はドワーフと同盟を結ぶとはな』

「いえ、皆の助力あってのことです。ロード陛下にしても、息災で何よりでございます」


 俺はとりあえずできるだけ丁寧に接することにした。


 周りの騎士達の鋭い視線が滅茶苦茶に怖い。ちびりそう。


『あの邪龍を討伐したと聞いた、中々の活躍ぶりではないか。いずれ私が殺す予定だったものを。ふふ、先を越されたな。ランスロット』

『残念です。剥製にしてこの玉座の間に飾ろうと思っていましたのに』


 そういって笑い合う騎士達。


 しかし、嫌味などどこにも感じない。

その言葉には微塵も嘘は混じっておらず、心から倒せる。

そう思っているし、この青年ならばやり遂げるというのを俺はひしひしと感じていた。


 圧倒的自信からくるカリスマ。


 俺がロード陛下を見つめていると。


『ふむ、一応説明しておこうか。前皇帝、と第一王子、一応は私の父と兄は処刑した。よって今この帝国は私の者である』

「…………え、あ……はい」


 なんて返せばいいんですかね? おめでとうございますですか?


 あまりに現実感がなさ過ぎて俺はもう今にもゲロ吐きそうですが。


『だが安心しろ。私は虐殺皇帝ではない。来るべき戦いのため、このままでは世界は滅びると思ったから、政権を奪った』

「世界が滅びる……?」


 急すぎる話、いきなり何を言い出すんだこの人は。


『そうだな、少し場所を変えよう。ついてこい』


 そういって俺は、ロード皇帝に別室に連れていかれた。

そこは軍事的な会議を行う場所だと言う。

巨大な円卓の机、そして騎士達はそれぞれの席につく。


 足を組んで正面に座るロード皇帝の側近の白き騎士は、一枚の紙を取り出した。


 羊皮紙という奴だろう、ざらざらしてて獣の革という感じ。


 そこに描かれているのは地図? まるで世界地図のような……。


『それはこの世界の地図だ。我々の大陸が中心にあり、ドワーフの国が少し下。右にはエルフ、そして上には不毛の大地と呼ばれる我々が住む大陸と同じほどの大きさの大陸がある』

「すごい……」


 信一郎が見たら喉から手が出るほど欲しいだろうな。


『それはお前達にやろう。友好の証だ』

「いいんですか!?」

『あぁ、そして本題だ。この上の大陸、我々は不毛の大地と呼んでいる。そこは空気中の魔力が恐ろしく濃く、植物はほとんど育たない。そしてこの大陸とは比較にならないほどに強力な魔獣が生息し、荒れ果てた荒野が広がっているの』

「そんな場所が……」


『そしてだな……ここからが本題で……』


 その時だった。


『ロード殿下! お話し中失礼いたします! 魔族がまた現れました!!』

『数は!』

『3体ほど確認されております!』

『……トリスタン、モードレッド、ガウェイン。頼めるか? 兵は一万連れていけ』

『――御意』


 一瞬の出来事過ぎて俺はわからなかったが、何かが攻めてきたのだろうか。


 呼ばれた三人の騎士はすぐさま部屋を出ていった。


 ――魔族。


 聞きなれない言葉だが、日本にいるのなら何度も聞いた言葉ではある。


『ゆっくり説明するつもりだったが、今ので大体はわかっただろうか』

(いや、全然わかりません。そんなに俺頭良くないので)


『……魔族、この不毛の大地に唯一生息するおそらくはこの世界最強の種族だ。古龍種はおいておくとして、魔力適正がありえない程に高く知能も我々とそん色はない。ゆえに兵力は1000倍は当てなければ討伐できないほどだ』


 ロード殿下が言うには魔族一人に対して1000人は兵士を投入しなければ倒せないという。

 

 そんな化け物種族がこの世界にいたなんて俺は初耳なんだが。


『数百年前、最初の魔族がこの大陸で確認されたとき帝国は100人以上の死傷者を出したと言われている。魔族は放置すれば大規模な魔法を発動できるため、すぐに対処しなければならない。帝国では出会ったならば即殺処分せよ、と決められている。とはいえ、ここ数百年魔族の出現は聞いたことがなかったがな……しかしちょうど一年前からだ。こちらの大陸へ定期的に魔族がはぐれたように上陸している。初めてそれが確認されたときは即座に戦闘になりやはり百人以上の犠牲がでた』


「敵ということですか」


『わからぬ。だが我々帝国では遥か昔から魔族は畏怖の対象だ。その魔族がこの帝国に現れるようになった。まるで偵察部隊のようにな。おそらく我々は魔族との戦争に入ったのだ。だが前皇帝ではこの戦い勝てぬと判断した。ゆえに私が政権を奪うことにしたのだ』


「勝てない? 魔族はそれほど多いんですか?」


 前皇帝は愚王でも、それでも帝国は最強の軍事国家だというのはこの世界の共通認識。


 あのドワーフ王ですら帝国と戦えば滅びてしまうだろうというのだから相当な軍事力なのだろう。


 それが負ける? 魔族が圧倒的に強いとしてもそれほどの大軍なのだろうか。


『いや、数は多くない。それこそ万はいかないであろう。しかし調査に送った我が騎士の一人がやっかいな個体を確認したのだ』


「やっかいな個体……」


『ここからは私が話しましょう』


 そういって口を開いたのは、ロード殿下の隣に立っていた白い騎士。


 真っ白な甲冑、しかしその顔を覆っている甲冑を外した。


 中から現れたのは黄金色に輝く金髪の美少女戦士。


 まるであなたが私のマスターかとでも言いそうなほどに幻想的な騎士だった。


『私が一年前、単独で調査に不毛の大地を訪れた時でした。私ならば魔族と一対一ならば負けませんので』


(さっき1000人分っていってたけど!?)


『私は見たのです。それはまだほんの幼い少女でした。ですが私は直観で全てを感じ取りました。あれほど恐怖したのははじめてです。その少女は、千を超える魔獣達、それこそ古龍種のような存在感を持つ化け物の中心にいました。まるで彼らの王のように。そして空間がゆがむほどの魔力を纏って』


「王? それって……」


『そうだ、信二よ。この世界にはある言い伝えがある。本来魔力とは内にある魔素を操る力だ。だが魔族の中には、生まれるのだ。外の無限にある魔素を操る存在が。そしてその存在はこう呼ばれる……』


 ファンタジーのような世界だ。


 だが、だからといってそれはあまりにも。


『――魔王と』


 聞き覚えのある名前だった。

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