第36話 おっさん、世界を救いたいー4

 四か国の代表は話し合う。


 魔王の進撃は止まらない。


 すでに帝国の半分の領土が魔王一人によって滅ぼされた。


 避難は済んでいるので、一般人には犠牲はでていない。

だが魔王の進撃を止めることもできず、このままでは帝都は滅び、エルフの森も世界樹も、いずれはドワーフの国も蹂躙されるかもしれない。


 しかし対応方法は思いつかない。


 物理的攻撃は全て阻まれ、接触すらできない。


 どんな威力で攻撃しようが、次元の壁と呼ぶことになったその障壁に傷一つつけられない。


『エルフの魔法でどうにかならぬか』


『ならん。あれはそういう次元の話ではない。周囲の魔力濃度が高すぎる。魔法とは魔力に術式を与えてこの世界に事象を起こすことだ。だがあれは魔力そのもの。例えるならば大海に、氷の槍を打ち込むようなものだ。何の効果もない』


『自衛隊による物理攻撃すらも傷一つつかない。まさか魔王とはこれほどですか』


『今、我が騎士達が何とか足止めを行っている。幸い、攻撃は直線的で交わすことはそれほど難しくはない。だがあの無尽蔵な魔力は私とて光明が見いだせない。情報が足りていない』


 そして代表達は目を合わせて俺を見る。


 今できることはたった一つだけ。


 俺はそれに頷いた。


 それは俺が提案したことだった。


 あの少女が泣いている理由を知れば何かが変わるかもしれない。


 だから、俺は言った。


「不毛の大地で……魔族と話してきます」


 一人で1000の兵士を打ち倒すと言われる魔族と、一体一体がドンパさんを優に超える魔獣が多く住む大陸へと単独での調査を。

 


……



 日本町の電波すら届かない遥か遠く。


 俺は配信もせずに海の上を飛んでいた。


 シルフィも連れてきていない。


 ヘリも使わず、俺一人で向かうことにした。

鞄の中には一週間分の食料は持ってきたが、魔族に会うことはできるだろうか。


 危険な任務だが、この世界を魔王に滅ぼさせるわけにはいかない。


 滅ぼそうとする理由すらわからないのに。


 涙の理由すらもわからないのに。


「ここが……不毛の大地……」


 海を飛んで数時間、シルフィの加護様様だが俺は大陸を発見した。

と同時に息苦しいさを感じ始めたが、これが魔素が濃いということだろうか。


 ロード皇帝がいうには、不毛の大地はこの星の地形や気流など様々な要因が重なって世界中の魔力の元となる元素。


 魔素のたまり場となっているとのこと。

その濃度は、人間達が住む大陸の比ではなく、呼吸すらも違和感を感じるほどだという。

長期的に滞在すればどんな影響があるかもわからない。


「……草木一つない……まるで砂漠だ」


 見渡す限り岩と砂、魔素のせいで草木がほとんど育たないと聞いたがここまでか。

不毛の大地とは、そのままでとても生物が生きていけるような環境ではない。


 それでも生物は適用するのが世の常ではあるのだが。


 俺は飛び回る。


 魔獣すらもいない。


 生物の気配を感じない。


 本当にこんなところに魔族がいるんだろうか。


 一日目、俺は結局誰も見つけられずに夜を迎えた。


 仕方ないので、今日はこの岩陰で休むことにする。


 二日目、もっと奥まで進むことにしたのだが、奥に行くほど息苦しさが強くなっていく。


 だがこれでいいのかもしれない。


 魔族は魔素をエネルギーにしている生命だというのなら濃いほうへと向かうのが当然だ。


 三日目、吐き気が止まらない。魔素の過剰摂取のせいだろうか。


 それでも俺は奥へと進む。俺がやらなければ、俺以外では魔族と会話することなんてできない。


 あの少女を止めることはできないのだから。


「はぁはぁ…………魔族は……いないのか……これだけ探しても……」


 俺は虚ろな目で飛んでいた。


 意識が朦朧とする、そして気づけば俺は地面に落下していた。

幸い地面は砂の山、ふわふわと落下し、ダメージはないがどうやら立ち上がれそうもない。


 このまま死ぬんだろうか、それだけは絶対にだめなのに。


 するとこの大陸に来てから初めての声がした。


 その方向を向きたいが体がどうやら動かない。


『…………人間?』


 薄れゆく意識の中、俺は最後の記憶で何かが俺に話しかけるのを聞いた。


 だが、俺はそのまま意識を失った。


……


 はずだったんだけど。


「……あれ? ここは?」


 俺は目を覚ました。

石造りの洞穴のような家? 多分……家だと思う空間に寝ていた。

一体ここはどこだろう、俺は一体なにをしていたんだ、誰かが助けてくれたのか?


 その時だった。


『起きたか』


 あの時聞いた声がした。

俺は一瞬身構え、声のした方を見る。

そこには、あの少女と同じく少し褐色の肌と頭に角のようなもの。

そしてそれ以外はただの人間にしか見えないような成人した男性。


 だが一目でわかるように、やせ細って今にも倒れてしまいそうな見た目をしている。


 俺達は警戒しながらも見つめ合う。


 魔族と人間は、出会ったらすぐに戦いになる。

それは人間が魔族を危険なものだと判断しているからだとロード皇帝はいった。

きっと人間にとっての鬼のような扱いなのだろう。


 自分達と同じ知性を持ち、魔力は1000人分。


 恐怖の対象になるのは十分だ。


 だが、俺が見るその魔族は恐怖の対象と呼ぶにはあまりにも。


『私はドラグ。通じないと思うが敵対の意思はない……魔力酔いをしている君の魔力を除去しただけだ』


 優しそうな父の目をしていた。

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