第31話 おっさんと、邪龍ー5
◇少しだけ前、ドワーフ王国。
広場には巨大なスクリーンが投影機で映されていた。
国民達が見るのは、信二の配信。
それは信二からの提案だった。
大切な人を失った傷はそう簡単には癒えることはない。
それでも元凶を倒す場面を見れば少しは何か変わるかもしれない。
だが、信二の本音を言うとこの映像はたった一人へ向けたもの。
「シンジさん……」
ドワルの娘、アンリへ向けた闘いの記録。
彼女がもう一度立ち上がれるようにと、元凶を打ち払い、もう怖くないよというために。
アンリはその映像を見ながら思いだしていた。
突然の大地震、飛び起きた時すでに家は倒壊しそうだった。
怖くて震える私を抱きしめた父は、瓦礫から守るように私を抱えて外に逃げた。
そして最後には私だけを助けるために外に投げた。
最後の言葉も交せなかったけど、父の想いは全部伝わった。
私を命がけで助けてくれた。
それに毎日のように、父からは愛を受け取っていた。
溢れんばかりの愛情をたっぷりともらっていた。
それを奪われた。
悲しい。
そして憎い。
アンリは怒りを胸にためて、生きるための原動力へと変えていく。
だからぐっと手を握って、その眼には涙を貯めて願う。
「勝って……勝って、シンジさん!! そいつを倒して!!」
気づけば同じように、勝てと叫ぶドワーフ達。
多くの家族を奪ったこの国を滅ぼそうとした悪魔を倒してほしい。
この国を覆った分厚い雲を、この国を襲った暗い悪夢を払ってほしい。
そう願いながら見つめる映像、信二の背中。
そして彼は自分達の期待に答えるようにはっきりとその悪魔に言ってくれた。
『……俺達の勝ちだってことだ』
直後爆発、燃え上がる爆炎と、倒れる邪龍。
それを見てドワーフ達は立ち上がって叫んだ。
いけ! いけ!! いけぇぇ!!!
いつしかドワーフの国の全員がそのスクリーンの前で叫ぶ。
倒してくれと、叫ぶ声。
仇を打ってくれと願う声。
愛する友を、恋人を、家族を。
全てを奪ったそいつを、倒してくれ。
雨のような銃弾が、ドワーフ達の怒りを表すように降り注ぐ。
あの悪魔のような邪龍が苦しんでいる。
今にも倒れそうによろめいている。
そして、見たこともないような巨大な爆発がスクリーンを埋めた。
ゆっくり晴れる暗雲のような煙の後、その邪龍は現れた。
その眼から光を失い、ゆっくりと力なく倒れていく。
「勝った……?」
わからない。
勝ったのか?
でも静かになったその映像を見ていると、我らの王がゆっくりと映像に映りこむ。
ガゼット王だ。
そして王は、信二と共にその倒れた龍の元へと歩いていき、そして剣を構えた。
魔力の鎧と、黒き鎧が全て剥がれた大樹のような首筋を、美しく、そして怪しく輝く一本の剣で上段から全力で一刀両断。
ズバッ!!
邪龍の首は切断された。
首だけになったその悪魔に日本刀を真っすぐと突き刺した。
ガゼット王は、信二にその剣を握らせて、その上から自分の手をかぶせ、こちらを見る。
ドワーフ達は、今か今かと次の言葉を待っている。
早く、早くとその王の言葉を待っている。
それに答えるように、静かにゆっくりとドワーフ王は口を開いた。
『我が国民達よ、怒りと憎しみと悲しみを抱いている我が国民達よ。すべての思いを手の平に乗せて、渾身の力で強く握れ……』
その言葉に、ドワーフ達は胸の前でぎゅっと掴んで拳を握る。
怒り、悲しみ、奪われた家族との懐かしい思い出とくるはずだった輝かしい未来。
そのすべてをその拳に掴んで、血がにじむほどに強く拳を握りしめる。
ドワーフ王は、大きく息を吸い込んだ。
ドワーフ達も同じように大きく息を吸い込んだ。
そして、拳を天を突くように掲げて叫ぶ。
『邪龍は死んだ!!! 我らの勝利だぁぁぁぁ!!!!!』
『おぉぉぉぉぉ!!!!!!』
魂からの叫び、いつしか暗雲は晴れて日光が世界を出らし出す。
心を洗い流すような涙があふれて止まらない。
最古の龍を、災厄の悪魔をうち滅ぼした。
「シンジさん……ありがとう……」
アンリもぎゅっと拳を握って、涙する。
これで大切な人が帰ってくるわけではないけれど、これで前に進める。
この日からドワーフ達に語り継がれることになる。
龍に認められし、異世界の人間がその龍と共に悪しき邪龍をうち滅ぼしたと。
……
◇帰還。
『王! おかえりなさいませ!』
『信二さん、ありがとう!!』
『兵士のみんな、ありがとう! エルフも来てくれてありがとう!』
『英雄の帰還だぁぁ!!!』
俺達は、ドワーフの国へと帰ってきた。
混沌龍の首を荷台に乗せて、王の凱旋。
ドワーフの国総出で、俺達を出迎えてくれた。
エルフはいやだ、帰るというので、無理やりガルディアだけ連れてきた。
というかガゼット王が、俺とガルディアを離してくれない。
ガルディアは凄く嫌そうな顔だが、俺がまぁまぁというと渋々ついてきてくれる。
目を閉じて腕を組んでいるが、相変わらずイケオジすぎる、なんだこいつ。ハリウッドスターみたいな彫りの深さだな。
そのまま俺達は英雄のような扱いを受けてドワーフの王城へ向かった。
でもそのパレードのような凱旋で俺はあたりを見渡した。
どこにいる、どこにいる。
やっぱりまだ…………。
――ひょこっ。
「アンリちゃん!!」
まだ立ち直れずに、泣いているかと思った。
だが人ごみの中からひょこっと顔を出したアンリちゃんを見つけた。
こちらを見ているし、真っ赤な目は泣きはらしたことがわかるけれど、今はもう泣いていない。
複雑な表情をしながら俺を見ている。
混沌龍を倒したことは喜ばしくても喜べないのだろう。
俺はその人ごみに向かって走り出す。
『ちょ、シンジさん!?』
そして、アンリちゃんを抱き上げてぎゅっとする。
ぎゅっと抱きしめると、アンリちゃんも俺をぎゅっと抱きしめた。
震えているし、少しだけまた泣いてしまったのだろう。
おっさんの胸で申し訳ないが、ドワルさんだと思って思う存分汚してほしい。
『うっうっ…………』
たくさん思うことはあるだろう。
この子はこれからたくさんの苦労を、一番近くで見てくれるはずの人を失った。
一番愛してくれていた人を二人も失った。
まだほんの10歳、すぐに乗り越えられる傷じゃない。
もしかしたら、一生残る傷になるかもしれない。
でも一人じゃない。
ビビヤンも、シルフィも、ソフィアも。
ドワーフも、エルフも、日本人も。
そしてもちろん俺もいる。
だから、色々思い出して辛いかもしれないけどあえていうよ。
「……ただいま、アンリちゃん(君は一人じゃない)」
そして俺の気持ちが真っすぐと【理解】されて。
『おか˝え˝り˝な˝さ˝い˝』
アンリちゃんの思いも俺は【理解】した。
だからもう一度ぎゅっと抱きしめて、二人で泣いた。
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