第30話 おっさんと、邪龍ー4
◇信二視点。
俺は加護を発動し、空を飛んだ。
シルフィの背中へと乗り込む。
ドンパさんは、ドワーフ達に合流し、共に戦闘を開始した。
一流のドワーフ達に負けず劣らずの動きを見せる人類最強の配信者。
邪龍エンドは、怒りのままに暴れまわる。
その標的はやはり俺のようで、空を飛び追いかけてくる。
「シルフィ……ちょっとだけ頑張れるか?」
『もちろん!』
シルフィとエンドの命を賭けた追いかけっこ。
シルフィも相当な疲弊をしている、今にも倒れてしまいそうなのは理解できる。
それでももう少し、頼らせてくれ。
『――黒閃!!』
『シルフィ! くるぞ、右だ!』
『了解!!』
後ろから追いかけるエンドは、先ほどの黒閃と呼ばれる技を俺達に向けて放ち続ける。
シルフィの高速移動でなければ避けられない破壊の光。
俺は時計を見る。
約束の時間まで、あと二分。
もう少し。
そのときだった。
『痛い!!』
「シルフィ!!」
エンドの黒閃が、シルフィの翼にかすってしまう。
それでも痛みを我慢してシルフィは飛ぶが明らかに速度が落ちている。
このままでは追いつかれるかもしれない。
なによりシルフィをこれ以上危険に晒したくない。
だから。
「あとは任せろ! シルフィ!」
だから俺は風を纏ってシルフィの背から飛んだ。
『シンジ!?』
俺はそのまま地面に向かって落ちていく。
その過程でエンドに挑発するように叫ぶ。
『こっちだ、糞邪龍!! 俺を殺したいんだろう!!』
怒り狂ったエンドはシルフィを無視して俺を追いかける。
眼下にはドワーフ達とそしてエルフ達。
先ほどの開けた戦場へと俺は戻る。
風を纏って地面付近でふわりと着地。
合わせてほぼ同時にエンドも俺の背後に着陸し、衝撃で周りが吹き飛んだ。
『虫けらがぁぁぁぁ!!!』
――時間まで残り一分。
『ガルディア!!!』
「詠唱はすんでいる!! いくぞ、みんな!! 第六階位魔法・黄金の鎖! 気を失ってでもここに繋ぎ続けろ!!」
暴れ狂うエンドに黄金色に輝く鎖が、次々と巻き付き拘束する。
暴れまわるが簡単には引きちぎれない、しかしエルフ達が次々と膝をついて顔を青ざめていく。
彼らの魔力をもってしても、最古の龍は止まらない。
でも一瞬だけなら止められる。
『全員翼を狙え!!』
その隙をガゼット王が見逃すわけもなく、有効打を与えづらい硬い皮膚ではなく比較的柔らかい翼を狙う。
『がぁぁぁぁ!!』
日本刀によって傷ついていく翼、それでもエンドは怯まない。
しかし飛ぶ能力を弱めることには成功した。
『我をこの程度で倒せると思っているのかぁぁぁぁ!!!』
今日一番の魔力の放流と黒の暴風。
黄金の鎖は砕け散り、ドワーフ達もエルフ達も吹き飛ばされた。
唯一シルフィの加護が守ってくれている俺だけはその前に立つ。
俺は逃げない。
俺だけに出来る言葉の力であとほんの少しだけこいつを止めて見せる。
――あと10秒。
「エンド! 最後に一つだけ聞かせろ!!」
俺は心からの声でエンドへと叫んだ。
その言葉は荒れ狂うエンドの心に届き、一瞬の硬直。
俺を見る。
そして俺は最後の質問を行った。
「俺達を認め、共に生きる道は絶対にないのか! 彼らに謝ることはできないのか!」
しかし帰ってくる答えは分かっていた。
『するわけないだろうがぁぁぁ!! 我は終焉の龍! 虫けら共は全員殺す!! それが我が生まれた意味よ!!』
その叫びとともに、
それを見れ俺は時計を見た、12時ジャスト。つまり。
「そうか、わかったよ。じゃあ、会話はこれで終わりだ………時間が来た」
作戦は完了した。
『あぁ!? なにをいっている!! なんの時間がきたというのだ!』
疑問を投げるエンド、俺は答えるようにその眼を見て言った。
怒りの感情を込めて、ドワルさんとアンリちゃんの悲しみを乗せて。
最後の言葉を、はっきりと。
「――俺達の勝ちだってことだ」
その言葉とほぼ同時だった。
ヒューーードン!!!!!!
――突然の大爆発。
エンドの顔面が爆ぜた。
正確には横から飛んできたミサイルによって、爆撃された。
俺はその爆風で吹き飛ばされた。
シルフィの加護があるから怪我はないが、離れていても火傷しそうなほどの想像以上の熱が俺を襲う。
それを合図にドワーフとエルフ達全員がその場からすぐに退避した。
残されたのは、エンドだけ。
真っ赤な爆発と衝撃でエンドが、倒される。
それでもすぐに起き上がる化け物は何が起きたと痛みと共に目を白黒させる。
鋼のような鱗が多少なりと剥がされて、確かに傷ができていた。
何が起きたか理解できないまま、エンドは見た。
『なにが……ガハッ!?』
次々と自分に向かってくる見たことのない速さで飛んでくる光の矢、鉄の塊。
鋼鉄の鎧を次々と吹き飛ばし、エンドの巨体に命中する。
真っ赤な爆炎という名の閃光が暗い曇り空の大地を照らし出す。
人類の英知の光がこの世界の闇を貫こうとしていた。
◇一時間前。日本、防衛省。
日本国総理大臣をはじめ、防衛大臣、自衛隊幹部など。
日本の防衛、軍事力を仕切る重役たちが一同に会していた。
彼らが見つめる先は一つの液晶画面。
映るのは一人の日本人、大石信二が混沌龍の住処で言葉を引き出した時。
「…………許可する。今より、
総理大臣は許可を出した。
国民の民意も後押しして、たった一匹の生命体に国家軍事力の派遣を決定する。
国民達に異論はない。
それは信二が配信を通して日本中に
憂いの無くなった政治家が、決断するのは早かった。
むしろ、決断しないほうが、これでは国民に対して評判が悪くなるという打算すらもあった。
そして自衛隊の攻撃を許可する権利を持つ日本最大の権力者は、力の行使の許可を出す。
その言葉をずっと待っていた大泉信一郎はすぐに電話する。
現地で指揮を執っている陸上自衛隊代表の陸神へと。
「了解した! 今より、移動を開始する! 全ての準備が整い次第、一時間後、12:00を持って陸自による全火力を持って対象への総攻撃を開始する!」
そして海を隔てて待機していた自衛隊が次々と出航し、空を飛ぶ。
これが信二と信一郎、二人の作戦。
「……ふぅ。こちらはやりとげた。あとは任せるぞ、信二」
丸二日寝ずに働いた信一郎、関係各省と連携し、この作戦を遂行した。
ドワーフとの一時的な軍事同盟が最も大変だったが、大臣を説得し現地へ、さらに信二と共にガゼット王を説得し、両国の押印と握手を持って同盟は締結した。
異例の速度で締結された同盟、これにより自衛隊の行動は軍事介入ではなく、人道的支援へと移り変わる。
これが作戦のフェーズ1。
そしてフェーズ2。
信二の配信によって、世界中に
でなければ自衛隊を派遣することはできなかったし、政治家達の固い首を縦に振らせられない。
明確な民意がなければ、彼らは動かないことを信一郎は知っていた。
だから、信二にすら攻撃し、友好的なドワーフを殺戮した
あれにより、民意は全て
そしてフェーズ3。
総理の許可から目的地まで約一時間。
その間、
それは原住民にしかできないことだった。
だから信二は頭を下げた。
ドワーフだけでは大量の死人がでるし、不測の事態に対応できない。
だから危険だとわかっていてもエルフの族長達の魔法が必要だった。
それを快諾したガルディア達。
そして異例のエルフとドワーフと嵐雷龍ことシルフィの働きで一時間時間を稼いだ。
最後の作戦だけはどうしても綱渡りだった。
だが、すべてをやり遂げることに成功した。
そして。
◇今。
「第一射、命中!! 効果あり!! 大石さん含むドワーフとエルフ全員の避難も確認しましたぁぁ!!」
「よぉぉぉぉし!!! 嵐雷龍の時は見せられなかったが、陸自の全力を見せてやれ!!」
「イエッサァァァ!!!」
その言葉とともに、雨のような砲弾が、
鋼のような鱗でも、自走榴弾砲からの大口径の砲撃を連続でぶつけられたなら、龍の鎧は砕けていく。
『ガァァァ!!』
血だらけになっていく
しかし次々と目の前に現れる戦闘機による対戦車ミサイルをこれまた雨のように浴びせらえる。
翼は砕け散り、腕は吹き飛び、牙は折れる。
さらには戦闘ヘリによる機関銃、戦車による機関銃、誘導弾から爆撃まで。
ありとあらゆる兵装が、剥がれた鎧の奥の肉を削っていく。
それを遠くで避難し見ていたガゼット王はつぶやくように口を開く。
『なんだ……これは……なんという攻撃力か……』
最古の龍、その頑強さはガゼット自身が一番知っている。
だがそれすらも関係ないという暴力の嵐、抵抗することなど許さない光の弓と炎の槍。
ガゼットとドワーフ達、そしてガルディア含むエルフ達は信じられないものを見るように、口を開けてその光景を見つめた。
先ほどまではまだ抵抗していたように見える
しかしその姿にはもう元気はなく、間違いなく死にかけだった。
『なぜ……我が……まけ……』
そして最後には。
「だんちゃーーーーく!! 今ぁぁぁ!!!」
見たこともないほどの激しい爆発が龍を包み。
最古の龍、
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