第8話 龍の治療ー1
◇防衛省。
「なんだと!? すぐにつける」
防衛大臣政務官、実質の特域についての実権を握る大泉は自衛隊から連絡を受けた。
すぐさまネットを起動し、アナザー用の国産配信者のプラットフォーム≪異世界チューブ≫を起動した。
「なんと……本当か……」
そこに映し出されたのは三年前、自衛隊の中隊を滅ぼした悪しき龍。
しかしその龍が口を広げてなすが儘になっている光景。
今ならば殺すことすら可能だろう、しかしその龍はまるで子供のようにその配信者に懐いているようにすら見えた。
「大石信二……昨日登録か……加護は……!? アテナ神より【理解】能力は不明……しかし」
配信者のコメントを読んでみるとどうやらこの男は異世界の原住民と会話できる力があるらしい。
それも人だけでなく、神とすら呼ばれる龍種とすらも。
「ふふ……ははは! なんともまぁ、これほど求めていた能力が都合よくも現れるものかな? ははは、これこそ神の思し召しという奴だ。そのために一般人にもアナザーを解放したとはいえ、ここまですぐ見つかるとはな」
大泉は高笑いしながら、すぐに現地へと向かう準備を始める。
そして一本の電話をかけた。
「あぁ、私だ。大泉だ。そうだ……ははは、ちょうど見てた? なんだもしかして君がコメントしてたのか? まぁいい。なら話は早いな。至急、獣医から歯医者からその道のプロ達を特域へ。あぁわかっている。私が許可を出す。問題ない、まずは治療からだ」
◇一方 大石信二。
「じゃ、じゃあどうする? 飛んでいく? 俺達は車でいくから」
『シルフィの背に乗る?』
「え? いいのか?」
『いいよ、案内してね』
どうやらシルフィは後ろに乗せてくれるそうだ。
正直滅茶苦茶乗りたいが、怖いという気持ちもあるな。
「もしかして乗るの?」
「あぁ……あ、シルフィ。もう一人乗っていいか?」
『シンジの友達ならいいよ』
「いいってよ、ビビヤン」
「うっそぉぉ!! なんてロマンチックなの!? 銀の龍の背に乗って、とはこのことね!」
そして俺とビビヤンはシルフィの後ろに乗った。
「あ、司令官。私の車もってきてね」
「ちょ、早乙女! お前、ず、ずるいぞ! 私も乗りたい! 龍の背に乗ってみたい!!」
『乗せる?』
「友達じゃないからいいや」
『はーい!』
「おーーい!!」
その言葉とともにシルフィは羽ばたく。
一瞬の浮遊感を感じたと思ったら一瞬で空高く、雲まで到達する。
「すげぇぇ…………」
はるか上空から見る異世界アナザーは、たくさんのしがらみのある現実を忘れさせてくれるには十分なほどに美しかった。
見渡すばかりの大自然、どこまでも続きそうな山、それに。
「なんだあれ……」
天まで届きそうな巨大な木。
『世界樹だよ。すっごいおっきな木。シルフィ、あそこに住んでるの』
「まじか……まじか……」
ワクワクした。
子供のころ夢にまで見たファンタジーの世界。
それがこの世界には存在する。
魔法があって、龍が空を飛んで、世界樹があって、太陽が二つある。
ここはどこまでも現実とは違う世界、ゆえにアナザー。
==================
新人を潰さないドンパ:最高かよ……
名無しの歯医者1:最高かよ……
名無しの獣医者2:最高かよ……
名無しのモブ1:最高かよ……
名無しのモブ2:最高かよ……
==================
どうやらコメント欄もその美しい景色に語彙力を失っているようだ。
……
「ヘリなんかよりもずっと早いわね……もうついたの?」
「でもそのわりに風は心地よかったけどな」
『シルフィが風避けの魔法発動してたよ! 乗りやすかったでしょ!』
「あぁ、すごく乗りやすかった。ありがとう、シルフィ」
『えへへ』
シルフィはとても人懐っこい。
というよりも会話できることが嬉しくて仕方ないとでも言いそうなほどだ。
でもずっと孤独だったなら、それもそうだと思う。
俺はもうほとんどパパの気分でシルフィをなでなでしている。
それと銀色の鱗がつやつやしてて正直めっちゃ綺麗だった。
日本村の近く、自衛隊駐屯地へと降り立った俺達。
司令官からはここへ向かえと言われたので、ビビヤンの案内で着陸する。
『ここ凄く平べったいね……気持ち悪い……』
「はは、コンクリートだからな。確かに自然にはないな、この平べったさは」
すると一人のスーツで眼鏡の男が近づいてくる。
年は俺とさほど変わらない気がするな。
「はじめまして。大石信二君。私は防衛省政務官の大泉信一郎だ。まぁ簡単にいえば特域に関して実質的に一番権力を持っている」
「そ、そんな人が……は、初めまして。しがない元サラリーマンです。成り行きでこうなってしまいましたが……」
「聞いているよ、そこにいるシルフィ君と話せると。試すような真似をして申し訳ないんだが、その子に右手を上げてと伝えてみてくれないか?」
いきなり話せますといっても信用できないのは当然だ。
だから俺はシルフィに頼んでみる。
「シルフィ、右手あげてみて」
『ん? はい!』
勢いよくまるで子供が先生に当たられたいがためにビシッとあげるように綺麗に右手を上げるシルフィ。
それを見て大泉さんはやっぱり目を丸くしながら、笑いだす。
「ふふ、ははは! すごい! 実にすごいよ、大石君! 君は日本の希望だ!! ぜひ、全力でバックアップさせてもらいたい!」
「そ、そんな大したことは……」
いや、大したことはあるのか?
俺はただ与えられた力を使っているだけで何もしていないのだが。
「そ、それよりもですね。シルフィの治療を!」
「大丈夫、任せておけ」
そういうと気づけば白衣を着た医者らしき人達が10人ほど集まってきている。
まさかさっきの今でここまで準備を進めたのか? うわ、この人仕事めっちゃできる人だ。
「では大石君。もう少し手を貸してくれないか?」
その眼鏡の奥はうっすらの輝いてにやりと笑う。
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