第9話 龍の治療ー2

◇日本村、簡易的な会議室。


 そこで10人の医師達が作戦会議を練っていた。


「えーであるから。通常動物の虫歯の治療には全身麻酔を使用します。手術中に動かないでくれと言う訳にもいかないので。ですが……」


「あのサイズの麻酔となると……少し危険ではないか? 魔力の影響も考えると。容量は正直計算しきれないぞ。というか効くのか?」


「しかし虫歯は神経にまで達しています。ルートカナル治療、つまり根管治療が必要だと考えますが、麻酔のないまま治療できるような手術ではありません。それこそ激痛で暴れ出すでしょう」


 俺はルートカナル治療で調べてみる。

それは歯の神経ごと抜き取って、虫歯を削ってそして埋めるという治療らしい。

神経を抜く、想像するだけで痛くなってきた。


「できれば歯は残してやりたい。虫歯は深くまで進行はしてたが、周辺の歯自体は残せると思う。それに定義でいえば動物だ。抜くのはストレスになるだる。だからその治療法に異論はないが……問題はやはり麻酔か」


「部分麻酔はどうでしょうか」


「暴れ出さない保証がな……あの口の中に入って作業だ。正直私は嫌だ。何かの拍子でつぶされる」


 それは全員が共通認識だった。


 全員虫歯のプロ、患者がふと生理現象で口を閉じるなど日常茶飯事。


 しかし今回はそんなことを言ってられない。

日常茶飯事で、ご飯にされてはたまったものではないからだ。


「では、やはり鉄骨で支えながら部分麻酔。効果が確認してから治療でしょうな。しかし削岩機を使用する虫歯の治療など初めてです」


「それは私がやるわよ! 土木作業はなれてるから!」


 ビビヤンは削岩機の扱いに慣れているらしい。

この特域の日本村建設に自衛隊として色々携わった経験もあるのだろうか。


「では、口の中には私が入ろう。ここでは一番若手ですからね」


 そして口の中で随時指示を出すのは伊集院という先生。


 これまた俺と同い年ぐらい。


 作戦は決定されて、シルフィ用の鉄筋が用意される。

俺達は準備を整えて、飛行場でうずくまっているシルフィの元へと向かった。


「シルフィ……今から治療を始める。でもちょっと痛いかもしれない」


『痛いの? ……痛いの嫌……』


「大丈夫、すぐに終わるからな」


 痛いのが怖いというシルフィはますます初めての歯医者に連れていかれる子供のようだ。

俺はまた一花が初めての歯医者でビビり散らかしていたのを思い出して少し笑ってしまう。


 それから俺はシルフィにどういったことをするのかを簡単に伝えた。


 案の定、歯を削るの!? と滅茶苦茶ビビっていたが、そうしないとこの歯はずっとその痛みを出し続けるというと渋々頷く。


 そしてシルフィが来てから3時間後。


「では、治療を始める。ビビヤン君、いこうか」

「了解よ!」


==================

新人を潰さないドンパ:龍の虫歯治療なんて一生に一度もみれねぇよ

名無しのモブ1:めっちゃ怖そう。

名無しのモブ2:噛まれたら死だろ?

名無しのモブ3:頼む、成功してくれ! 

名無しのモブ4:ショッキング映像だけは!!

==================


「シルフィ……今から麻酔っていう痛くなくなる薬を打つからな。ちょっとだけチクッとするけど大丈夫だからな」

『うん……手握っててね、手握っててね!』


 シルフィは口を開けて鉄筋で拘束されている。

だが怖いのか、左手で目を閉じるように隠し、右手の指を俺は握っている。

握っているというかもはや抱きしめているというサイズ感だが。


チクッ!


『――!?』


 シルフィの体が跳ねたが、それでもぎゅっと耐えていてくれた。


 よかった、これで麻酔さえ効いてくれれば一安心だ。


『なんか変な感じ……痛くなくなったよ? もしかして治った!?』

「あはは、もうちょっとかな」


 シルフィはちょっとだけ目を開くが、残念ながら治療はまだ始まったばかり。


ガガガガガ!!


『な、なんかすごいよ!! なんかすごい!!』


 どうやら削岩機で歯を削る作業に入ったようだ。

麻酔で痛覚はないが、振動は伝わるのでシルフィは変な感触に驚いている。


「かったいわねぇぇ! これほんとに歯!? 岩より硬いわよ」

「さすが龍の歯。伝説の代物だからな……いや、しかし君凄いパワーだね」

「もしかして口説いてる?」

「いや、全然」

「んもう! ならもっといいとこ見せてあげる♥ おらぁぁぁぁ!!!」


 ドンドン削っていくビビヤン。

ビビヤンの身体能力があってこその、削岩機パワープレイ。


「ふぅ……よし、では神経を取っていこう……しかしこんなデカい神経初めてだよ……これはなかなかやりがいがあるな……」

 

 その時だった。


『シンジ……痛い……』

「え?」


 おとなしかったシルフィが痛いと言った。


 おかしい、まだ麻酔は切れていないはず。


 だがシルフィの様子がどんどんとおかしくなっていく。


『痛い!! 痛い!!!! 痛い!!!!!』


 とたんに暴れ出すシルフィ。

口を開くために拘束していた鉄筋を振りほどこうと暴れてもがく。


「シルフィ落ち着け!」

『痛い痛い痛い!!』


 まさか、麻酔が切れたのか?


「ガハッ!?」


 暴れるシルフィに俺は突き飛ばされた。

少しかすった程度なのに、まるで交通事故のような衝撃。


『いや、もう!! いやぁぁぁ!! 嘘つき!! 嘘つき!!! シンジの嘘つき!!』


 翼を羽ばたかせ始めるシルフィ。


 あまりの痛みにシルフィは気が動転していた。


 俺は失いそうな意識で、そのまま立ち上がって叫ぶ。


「伊集院先生! おそらく麻酔が切れてます!! 滅茶苦茶痛がってます!!」

「なに!? あの量でもう!? す、すぐに追加で!!」


『いや、もう!! いやぁぁぁ!! 嘘つき! シンジ嫌い!!』


 このままではまずい。

今逃げられては神経がむき出しでどれだけ痛いかわからない。

それにビビヤンと伊集院先生が危ない。


 だから俺は。


「なぁ!? 大石君!?」

「信ちゃん!?」


 暴れ回り、鉄骨の固定から逃れようとするシルフィの口の中に飛び込んだ。

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