第10話 龍の治療ー3
◇数年前
「パパ、一花ね。どこも悪くないよ。どこも痛くないよ!! だからお家帰ろ?」
「だーめ。歯磨きさぼった一花が悪い」
キュイーーーーーン!!
「ひっ!! 嫌! 帰る! パパ帰る!! 一花、虫歯ない!!」
「ははは、大丈夫。痛くないから」
「ほんと?」
「ほんと!」
……
「パパの嘘つき!! 凄く痛かった!! パパ嫌い!!」
「マ、ママに内緒で帰りにケーキ買ってやるから……許して、一花」
「……ほんと?」
「ほんと!」
「……苺乗ってる奴なら許す」
◇
俺はシルフィの口の中で叫んだ。
「嘘じゃない!! シルフィ! 痛かったのは謝る! でも君を助けたいんだ!!! 俺を信じてくれ!!」
『嘘だ!! シルフィをいじめようとしてるんだぁ!!』
「違う!! だからシルフィ! 俺はずっとここにいる!! もし俺が嘘ついていたらこのまま嚙み殺せ!! 俺は絶対にここから逃げない!!」
そして俺は心からシルフィに言葉を伝えた。
「――助けたいんだ!!」
『――!?』
その瞬間シルフィの動きが少し落ち着いた。
俺の言葉を理解……してくれたんだろうか。
「痛かったのは謝る。麻酔……痛くなくなる薬が切れちゃったんだ。だからもう一度チクッとだけする。そしたら痛みは引くはずだ。でもごめんな、シルフィ。でも大丈夫だから。俺が側にいるから!」
『ほんと?』
だから俺は精一杯心からシルフィに俺の気持ちを【理解】してもらおうとできる限り優しく言った。
「ほんと!」
あの日、怒って口をきいてくれなかった娘に言ったときのように。
『うん……わかった。我慢する……』
おとなしくなったシルフィ、俺は安堵とともに伊集院先生を見る。
お互い頷いて、麻酔を打った。
するとシルフィも痛みが消えたのか力が抜けて、ぼーっとしだす。
「はぁ…………死ぬかと思った。麻酔もっと打っとこう……」
「それでも逃げない先生はプロ根性ね。あと信ちゃん、ナイス」
「あはは、よかったよ。シルフィが良い子で……」
そして麻酔を何度か打ちながらも最後の治療まで終了した。
気づけば既に時刻は真夜中。
俺とビビヤンと伊集院先生は、ハイタッチする。
ついでに口の中も綺麗に掃除していくと、シルフィはなんだか少し嬉しそうにしていた。
「シルフィ……しばらくは痛みが続くらしいけど耐えれないほどじゃないはずだ」
『もう終わった? ……ちょっと痛いけど……うん。これなら大丈夫』
「一週間程度で痛みはほぼ引くらしい。でも今日ほど痛いことはないからな。頑張ったな、シルフィ……偉いぞ」
『えへへ』
俺はシルフィの頭を撫でた。
気づけばシルフィはたくさん泣いていたのだろう、涙が零れて地面を濡らしている。
それでも必死に頑張ったんだ、中身はまだ幼女なのにとても偉くて俺は褒めてあげたくなる。
「ちゃんと歯磨きも教えるからな……頑張ったご褒美に明日甘くて美味しいもの買ってきてやる」
『ほんと?』
そのほんと? という喜び方があまりに娘と一緒過ぎて俺は思わず笑いながらちょっとだけ泣いてしまった。
「ほんと! 苺が乗ってるやつな!」
ピロン♪
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新人を潰さないドンパ:お疲れさまでしたぁぁぁ!!!
名無しのモブ1:グッジョブ! グッジョブ!!
名無しのモブ2:信二さん、めっちゃ男気あるよ……あんたすごいよ
名無しのモブ3:あの状況で口に飛び込めるのは、もうどっかのネジ飛んでる
名無しのモブ4:治ってよかったーー、これを機にシルフィちゃんとの異世界探索待ったなし
名無しのモブ5:チャンネル登録しました!
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必死過ぎて気づかなかったが、コメント欄がすごいことになっていたな。
俺はスマホで自分の配信者用のステータス画面を見る。
コメント返しとかってしなくていいんだろうか。
あとスパチャ? なんか読み上げるのがマナーとか言われたけど。
「チャンネル登録者……はぁ? 10万人?」
俺は自分のチャンネル登録者の数が表示されている項目を見て、首を傾げる。
今では異世界配信は最大級の娯楽である。
大手配信者が100万人以上の登録者数なので、10万人とは中堅程度だ。
しかし、たった一日でこれだけ増えるなんてことがあるのだろうか。
もともと有名なアイドルなんかだと聞いたことはある。
だが俺はしがない30歳子持ちのただの元サラリーマン、ちょっと加護が特殊だけど。
「ま、まじか……スパチャもすごい金額だ……」
ピロン♪
「え? DM?」
すると俺のチャンネルにたくさんのDMが届いている。
それは視聴者からではなく、企業の名前。
異世界配信者を多く抱える有名企業達だった。
文言の差はあれど、ほとんどがうちと契約して配信者として成功しませんか? とのこと。
一夜にして、なんか色々変わってしまって俺は現実世界に戻るのが少し怖くなった。
「お疲れ、大石君!」
「あぁ、大泉さん! ずっと残ってたんですね。残業お疲れ様です!」
「ははは、これぐらいじゃうちではまだ残業に入らないな」
「冗談か本気かわかりませんよ。まぁ僕もリーマンだったので気持ちは分かりますけどね」
「じゃあどうだい? おっさん同士、これから……」
すると大泉さんは酒を飲みに行こうと言う仕草をする。
「ちょっと腹を割って話したいことがあるんだ。もちろん、こちらが持つ。まぁ経費だがね」
「なるほど……いいですね!! ちょうどキンキンに冷えたビールで一杯やりたいと思っていたところです! それに僕も話したいことはたくさんありました!」
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