第23話 おっさん、ドワーフ王に謁見するー2

『なんだ、それは……』


 ガゼット王が立ち上がる。

それに合わせて側近たちもなんだ、なんだと顔をのぞかせている。

信一郎、お前の作戦はどうやら成功しそうだぞ。


 俺はその木箱からそれを取り出す。


 ずっしりとした重み、俺から見ても美しすぎて怪しく光る。


「これは我が国の剣。日本刀と言います。これを差し上げます」

『なんと……』


 ガゼット王が玉座から思わず立ち上がり、俺の方へと歩いてくる。

待ちきれないという様子だったので、俺はその剣をガゼット王へと手渡した。


 ブンと振るガゼット王。

その姿は妙にしっくりくる。


『王! 私にも見せてください!』

『私も私も!』

『なんですか、それ! なんですか、それ!!』


 すると家臣たちもテンション高くガゼット王へと近寄ってくる。


『ええい! 儂が最初に決まっておろうが、離れい!! それよりも試し切りの巻き藁を二つ持て!!』


 するとすぐに試し切りようの巻き藁が二つ。

 

 巻き……藁? 運ばれてきたのは、俺の知っている巻き藁ではなかった。


 横幅3メートルほどだろうか。

自動車ほどの横幅がある巻き藁、滅茶苦茶ぎっしりした密度。

こんなもの切れる人がいるとは思えないが、そんな分厚い巻き藁が二つ運ばれてきた。


『ふむ、試し切りなど久しいな。まずはこれで』


 そういうガゼット王は、腰に帯刀していた剣を抜く。

鉄製だろうか、西洋の剣、武骨だが確実な信頼感を感じる装飾などではない本物の剣。


 そしてガゼット王はその剣を握り構えた。


 ――ぞわっ。


 俺は思わず一歩後ろに下がった。

俺だけじゃないビビヤンもソフィアとシルフィを抱きしめてまるで守るように立ちはだかる。


 何かが揺らめくようにガゼット王の体を纏う。


 まるで陽炎のようなオーラが纏う。


 そして。


『――はっ!!』


 一刀両断。


 その自動車ほどある巻き藁が一刀両断し、上半分が吹き飛んだ。


 それに合わせて家臣たちが拍手する。

俺も合わせて思わず拍手した。

なんて強さだ、これがこの世界の頂点に位置する個の力か。


『ふむ、やはり全盛期といまではいかぬか』


 今ので衰えてるの?


 だが周りの家臣たちもその発言は本当だと目を伏せている。


 この世界、剣だけで戦っているだけはあって本当にバケモンみたいな奴ばっかりなのか?

あのロード皇帝のそばにいたランスロットという全身白い鎧の騎士も同じぐらい強いのだろうか。


 そしてガゼット王は俺が渡した日本刀を握りしめる。


『見れば見るほど……なんと美しい刀身よ。これで実用性まであったならば……』


 瞬間、構える。


 先ほどと同じ寒気がする。


 いや、同じではない。

明らかに鋭く、静かで、突き刺さるような冷たさ。

怖いまでの殺気を感じたのか、シルフィが俺の服をぎゅっと握る。


 そして。


『……ふん!』


 一閃。


「え?」


 巻き藁が切れてない?

失敗? 魔力に日本刀が耐えられなかった?


 と思ったが違った。


 ガゼット王がその巻き藁まで歩いていき、そしてその巻き藁を横から押す。


ズズズズ……ドサ。


「うっそ…………」


 巻き藁は切れていた。

それこそ一刀両断され、そのまま切られたことすら忘れている。

切られたことを忘れて、巻き藁の上半分が乗ったままだった。


『まさか……この年でまたこれができるとはな。……ふふふ、ははは! これはなんと! これ以上ない手土産をもらった!! 』


 それに合わせて、家臣たちが拍手喝采をする。

後から知ることだが、この巻き藁をどこまで切れるかでドワーフの国では軍の序列が決まるらしい。

なんて脳筋なのかと思ったが、半分までで部隊長、全て両断で将軍。


 今のように、落とさずに切ったものは剣豪として名を残す。

今では王含めて、ほんの一部のドワーフの猛者だけができる達人の技らしい。


 だが年には勝てず最近ではできなくなったそうだが、日本刀は想像以上にこの世界の魔力との親和性が高かった。


 この世界では鍛冶という加護によって魔力を武器に帯びさせることができる。

俺達のような魔力を持たない人間が降るだけで魔力を帯びた武器になるのだからそれはほぼ魔剣といっていいだろう。

だが、大部分は今の王のように自身の魔力を纏わせて戦うので、魔剣は能力向上といったところ。


 ならば鍛冶の加護を持つドワーフが日本刀を作れば一体どうなってしまうのか、少し男としてはワクワクするな。


『刃こぼれ一つないか……しかし美しい。ずっと見ていられるな』


 切れ味もさることながら、王はずっと刀身を見てうっとりしている。


 他の家臣たちが見せてくれとせがむが、まるで子供のように王が独占状態。


 そしてガゼット王はその剣を慣れた手つきで腰の鞘に納める。


『うむ。素晴らしい剣をありがとう。しかしこれは国宝級ではないか? これほどの剣は見たことが無い。一体どうやればこうなるのか』

 

 俺は信一郎の言葉を思い出す。


 この手土産が気に入ってもらえたならば、伝えて来いと言われたことを。


「よければ技術提供をさせていただきますよ! 作り方さえ覚えれば修行はいると思いますが特殊な加護などなくとも作れますから」


『なぁ!? それはありがたいが……武器の製造方法は軍事機密だ。良いのか?』


「はい! 友好の証と受け取ってください(日本では既に武器ではないしな……)」


『ふふふ……これほどの土産。一体何を望む? 領地か? 地位か?』


「いえ、外交の道を開いていただければそれで問題ありません」


『む。それではこちらがいささか得過ぎるな……何が良いか……』


「それでしたら、同じく技術提供というのはどうでしょうか」


『ん? 何か知りたいことはあるのか?』


 俺は信一郎が言っていた言葉をまた思い出す。

 

 今日本が喉から手が出るほど欲しい情報。


 それは。


『魔力をエネルギーに変換する方法です』


 ドワーフが持つ技術。


 この世界にほぼ無限に存在するであろうエネルギー元素、魔素。


 日本を、いや俺達の世界すらも救えるかもしれない力。

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