第22話 おっさん、ドワーフ王に謁見するー1

「え、えーっと。私は日本から来ました。外交大使の大石信二と申します」


『驚いたな……人間としゃべるのは初めてだ』


「アテナ神からの加護をもらいました。そのおかげで皆さんと話せます」


『――!? アテナ神といったか? よ、よし! ちょっと待っていてくれ!』


 そういうと門番さんは慌てて消えてしまった。

俺達はぽつんと門の前で待たされる。

どうやらここは交通量が多いようで、ドワーフがたくさんの積み荷を持って行き来している。


 馬車か。


 ということはやはりドワーフの文明もそこまで発展していないのかな。


 車が無いと言うことは多分そういうことだろう。

なんかドワーフってもっと工業に長けているイメージもあったが、まぁそんな力があれば帝国が負けているか。


 俺達がしばらく待っていると、正装のような、周りのドワーフに比べたらしっかりとした服を着たドワーフが現れる。


 なんだろう、匂う、匂うぞ。


『あ、初めまして。私、ドワーフ王権の外交官のドワルと申します! ぜひ、お気軽にドワルとお呼びください』


 苦労人、そして俺と同じ普通のおっさんの匂いが。


 なんて親しみやすい普通の笑顔なんだ。

最近なんかすごい奴ばかりと会っていたせいで、俺はなぜか顔が綻ぶ。


 俺は腰低く俺に挨拶をしてくれたドワルさんに、同じように挨拶をする。


 名刺でもあれば今すぐにお渡しするところだった。


「初めまして。異界の国。日本の外交大使をやっています。大石信二です。ぜひ信二と呼んでください」


『おお! お噂はかねがね! あのエルフを説き伏せて、初めて国交を結んだエルフの英雄! なるほど、後ろにいるエルフが証明ですな。いや、こちらからご挨拶したいと思っていたところに遠路はるばるありがとうございます。それにしてもすごい加護ですね。はっきりと言葉がわかります』

「いえいえ、そんな。大層な……いえ、これはアテナ様の御力ですからね。ほんとに身に余るほどに大層なものですよ、周りのプレッシャーが辛すぎて。こちらこそ、いきなり来た私達に誠意ある対応痛み入ります」

『ははは、信二さんは面白い方だ』

「ドワルさんとは仲良くなれそうな感じが沸々と湧いてきますよ」


 俺はまるで仲間を見たように饒舌になる。

なんかこんなやり取り懐かしいな、前の会社ではたくさん営業したっけ。

 

「なんか、信ちゃん。イキイキしてるわね」

『シンジ、楽しそう?』

『なんか二人から同じ雰囲気を感じます』



……



 それから俺達はドワルさんの案内のもと、王城へと連れて行ってもらうことになった。


 ドワーフの街は、全体的にみれば帝国と同程度かやや進んでいるかというよう国。

だが俺達から見れば中世のイメージは捨てきれない。

レンガ造りの家に、道には多くの露店が並ぶ。

ドワーフは、大きいサイズ、つまり俺と同じぐらいの身長からシルフィぐらいのサイズの小人のような人もいる。


 俺のイメージでは小人の方がイメージどおりだな。

小さいおっさんとおばちゃん、なんかちょっとだけ可愛い。


 だが共通するのは、多くの住民が腰に剣とトンカチを持っていた。


 鍛冶が大好き、武器が大好きなドワーフというイメージそのままだな。


 すると俺達の目の前には。


「でかいですね……」

『はは、そうでしょう。あそこが我らがべオルグリム・ガゼット王の城です。王はとても気さくな方なので安心してくださいね』

『――そうだぞ、儂は気さくだからな。がはは』

『え?』「え?」


 見上げる城、すると後ろから話しかけられたのは俺よりも大きく身長190ぐらいの一人のドワーフ。


 リンゴをかじりながらラフな格好で、腰には一本の剣。

一見するとただの国民にも見える。


 しかし目を見たらわかる。


 隠しきれないカリスマ、耳を傾けざるを得ないよく通る声。

そして、目力がすごく、年は50ぐらいだろうが、圧倒的な覇気を持つ。


『ガゼット王!?』

『ドワルが遅いからきてしまったわ。お前がエルフの英雄、信二だな』


 俺はその鋭い目で見つめられる。

緊張してうまく声が出ない、まるで大国の大統領にいきなり話しかけられたような。


「は、はじめまして! 外交大使の大石信二です!」


 俺はとりあえず頭を下げた。


『ははは、よいよい。今儂は権威を着ておらん。楽にせい。しかし面白いチームだ。我らと会話できる人間、エルフ、そしてお前は男か女かわからんが、まぁ人間か』


「心は乙女、体は男。ビビヤンよ! というかすっごい好みのおじさまなんですけどぉぉ!!」

(通訳するのはやめておこう)


『そして何より……』


 そういうガゼット王は、さっき露店で勝った肉を頬張るシルフィに目線を合わせる。


『龍種か。一体何者だ』

「ぎゃぎゃ! (シルフィだよ!)」


「なぜわかるんですか……」


 一目見ただけでシルフィを龍と言い当てるガゼット王。

俺はなんでと聞いた。


『余はその身に宿す魔力を感じ取れる。このバカみたいな魔力で人間の見た目など龍種しかおらん。さて、属性龍あたりか? にしては魔力がおかしい気がするが』

「な、なるほど……嵐雷龍テンペストのシルフィです」

「ぎゃぎゃ! (シルフィだよ!)」


『……はぁ?』


 俺が答えるとガゼット王とドワルさんが驚いて急に離れた。


『嵐雷龍!? こ、古龍が一体だと!? そんなものをお前は連れているのか!?』

「古龍種の子供ですけどね。良い子ですよ」

「ぎゃぎゃぎゃ!! (シルフィいい子!)」


 俺はシルフィの頭を撫でる。

こんなに可愛くて良い子をそんな危険生物みたいに言って。

うちの子はそんな子じゃありません! ちょっと村を滅ぼしたこともありますけど!


『そ、そうか。うまく関係を築けているのだな。ちなみに古龍種はこの世に5体しか確認されておらん。そしてひとたび現れたら大災厄として扱われておる。頼むからこの国で暴れたりしないでくれよ』


「シルフィ、お前結構すごいらしいぞ」


『えへへ』


 俺には可愛い幼女にしか見えないが、この世界で古龍の扱いは酷いらしい。


 ひどいというかまぁシルフィも村一つ滅ぼしているし、この世界の住民からしたら抗えない災害みたいなものか。


 俺達はそのままガゼット王に連れられて、王城へと向かう。


 これまたアースガルズ帝国にも負けない豪華な巨大な王の間で待機していた。


 一応配信の許可は取っておいた。

後で問題になっても嫌だし、なんかやばそうな話しになったら切るが。

映像水晶のようなものかと言っていたが配信技術はこの世界にもあるんだろうか。


 そこに現れたのは、先ほどの陽気な感じのおっさんではなく。


『では改めて挨拶をしよう。よく来た異界の国、日本の大使よ。余は第123代、べオルグリム国、国王。べオルグリム・ガゼットである』


 間違いなく、この異世界の頂点の一人の覇気を纏っていた。


「お会いできて光栄です。今日は色々お話させていただきたいのですが、まずはこれを」


 そういってビビヤンが担いでいた荷物から綺麗な木箱に入れられたそれを俺に手渡す。


『む? なんだ? 手土産か? ははは、気が利くではないか』


 俺は王の眼の前でゆっくりとその細長い木箱を開く。


 これが信一郎から預かっている俺達の手土産。


 さて気に入ってくれるといいのだが。


『――!!?? な、なんだ……その美しい……剣?』

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