第24話 おっさん、ドワーフ王に謁見するー3
『なるほど……』
少し困ったような顔をするガゼット王。
そうだ、これは相当に高度な貿易の話。
ここですぐに回答がもらえるような話ではない。
「すぐに回答が欲しいわけではありません。そのための外交ですから、ガゼット王の中でつり合いが取れたと思った時で結構です」
『ふふふ、おぬしは外交が下手だな』
「え?」
『こういう時は下手にでてはならん。相手の答えを待つべきだ。しかし、お前の性格なのだろうな』
そういうガゼット王は笑っていた。
『家臣達と相談する。おそらく日本と共同研究などそういった形になるやもしれんな。だがな、今は少々立て込んでいてな。返事は保留させてくれ。重ねてすまぬが、至急でこの日本刀とやら大量に用意できぬか?』
「といいますと?」
そういうガゼット王は、目を伏せて俺についてこいという。
俺達はそのまま王の後ろをついていく。
王城の後ろ、俺達が来た方の反対側へ。
そこで俺は見た。
「なんですか……これは……」
王都の後ろの一区画ががつぶれている。
まるで巨大な何かが暴れた後のような、そんな跡。
『最古の古龍。名を
「……ひどい」
『千人以上が死んだ。あの邪龍は絶対に許せぬ、だから今は軍備強化し、奴の討伐作戦を検討中だ。しかし相手は太古からこの世界に住まう古龍種、勝てるかどうかは正直分からぬ。あるいは滅びるのは我らかもしれぬ』
「……わかりました。日本刀をできるだけ用意できるように掛け合いましょう」
『うむ、頼む。それと信二に限りこれからは気軽に我が王国への入国を許可する。おぬしがいれば他の者も同様だ。あとでいくつか手形を渡そう。それを渡したものも外交官として認識させる』
「いいんですか?」
『よい。あの誰も寄せ付けぬエルフ共が心許した国だ。疑うつもりもないし、余の見立ても同じだ。お前は善……まぁ見た目は平凡この上ないがな』
それは俺が一番思っています。
ほんとについこの間までカップ麺片手に家でニートしてたおっさんなんで。
だが、どうやら外交の道は開けたらしい。
「ありがとうございます」
そして感謝を述べて、俺は信一郎に電話した。
この城からでも日本に電話できるのだから科学ってすげぇ。
「もしもし、信一郎?」
「あぁ、見てたぞ、配信。ドワーフの王国は帝国と同程度の技術のようだな。だが魔力をエネルギーに変換する魔道具というものはドワーフ製品しかないらしいが。それに邪龍か。大変なことになったな」
「町中にある街灯とか基本的には簡単な電力みたいに使えるようだな。で日本刀は用意できるのか?」
「ああ、それは問題ない。すぐにできる限り用意させよう」
そして俺は考えていたことを言った。
「……
「自衛隊の力でか?」
「うん。それにもしかしたらいい奴かもしれないし、俺が話して!」
「やめておけ。先ほどエルフ達にも拙い言葉で聞いたが、あれはそういう存在ではないと聞く。殺戮を楽しむ悪魔だとな。シルフィの時とは違う」
「でも……もしかしたら」
「信二、世の中にはな。悪として生まれる者もいる。話せば絶対に分かるという幻想は捨てなければならない」
「……そうだな」
「ふっ。まぁ私はそんなお前が好きだけどな。しかしだな、信二。邪龍討伐。自衛隊は動けない」
「なぁ!? なんで……」
「正確に言うと、今の状況では動けない。なぜなら龍には人格があるからだ」
「なんで人格が……あ、そうか」
俺は一瞬考えたがすぐに理解する。
そうだ、シルフィの時とは状態が違う。
シルフィの一件でもう龍は感情を持つ生物だと日本では知れ渡ってしまっている。
「シルフィの時との違いは二つ。それがそのまま影響している。一つはそこはドワーフの領土であり、前回のように誰の領土でもない場所ではない。つまり他国への軍事介入となる」
それは至極当然だった。
自衛隊を他国の戦争に送るようなもの。
そんなことは許されない、そこが軍事同盟国でもない限り。
「そしてもう一つ、害獣ではなく、これは人権を持つ相手を殺しに行くということになってしまうからだ。今、日本では急速にアナザーに対する法案が決まっているが、そこで一つの法案が通った。異世界で意思疎通可能な生き物は、人とは別種であっても人権を有する。つまりエルフやドワーフも人として扱えということ、つまりは」
「
「そうだ。だがまぁさすがに龍種は特殊だがな……しかし、いかに悪だとしても今扱いとしては大量殺人鬼ということになる。それのために自衛隊を派遣することはできない」
これも当然だった。
例えば海外で100人殺したシリアルキラーがいるとする。
それを倒すために自衛隊が派遣できるか? いや、できない。
「この状況を解決するためには二つ必要だ。それはドワーフ王国と日本の軍事的な同盟。そしてもう一つは、民意」
「民意?」
「我が国民が、その邪龍を討伐することに自衛隊を派遣することを良しとするかどうか。ということだ。確かに分類上は混沌龍は大量殺人鬼だ。しかし自衛隊でなければ倒せない敵であるということ、そして明確に人間、それも日本国に対して害を持つと言う事。この二つの証明があれば自衛隊の派遣が可能だ」
「そうか……難しいんだな。わかった。じゃあこの件は任せるよ」
俺が思っているよりもどうやら世界は複雑で、そんな簡単にはいかないようだ。
とりあえず今後の考えとかもあるし、それは頭の良い信一郎に任せよう。
俺の今日の目的は達成したので、帰るか。と思った時だった。
ドワルさんが俺を呼びにきた。
『シンジさん! 今日お時間ありましたら私の家に泊まりませんか?』
「え?」
……
『「乾杯!!」』
疲れた体、外交で疲弊した繊細な心、喉が渇いた夜遅く。
見たこともないおつまみと、喉が焼けるかと思うほどのキツイお酒を俺はドワルさんに振舞ってもらった。
「かーーーー!!! きっつぅぅぅ!!!!」
「すごいわね……これなに? アルコール99%? 私も強い方だけど喉が焼けそうだわ」
今日はなんとドワルさんの家にお泊りだ。
これも異文化交流だな。
俺は配信を付けて、いつもの飯テロを行う。
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名無しのモブ1:この時間だと思ったら案の定飯テロだぁぁぁ!!
名無しのモブ2:ドワーフの酒ってめっちゃきついイメージ
名無しのモブ3:でもおつまみは普通にうまそう。
名無しのモブ4:では、ここで私も失礼して。ブシュー。
名無しのモブ5:この時間からしかおっさんは元気になれないんだよな。ということで私も一杯。プシュー。
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隣ではドワルさんの娘さん、これまた10歳ほどの幼女のアンリちゃん。
ほんとに10歳なのかというほどにしっかりしていて、シルフィとソフィアと遊んでいる。
赤い髪でそばかすを溜めた、赤毛のアンのような少女だった。
『パパ! 次の日がお仕事の時はお酒はジョッキで三杯まで! ママとの約束だよ!』
『ア、アンリ……今日ぐらい……いいだろ?』
『め!』
可愛く、め! と言われて渋々ドワルさんは頷いた。
どうやら娘にお酒の量を調整されているみたいだな。
いや、このきっついお酒をピッチャーみたいなこのジョッキで三杯?
俺もよく飲む方だけど半分でべろべろなんですが。
『あはは、すみません。私下戸でして……これ以上飲むと悪酔いしちゃうんですよ』
「下戸ってなんだっけ?」
注意だけするとアンリちゃんはソフィアとシルフィと遊びに戻る。
言語は通じずともなんか、幼女達は遊べるようだ。
ここはレンガ造りの家で、子供がきゃっきゃっと騒いでいる声が響く。温かみを感じる良い家だな。
「そういえば奥さんは?」
『……妻は三年前に病気で亡くなりました。あ、気にしないでください。私もアンリももう乗り越えました』
「そうですか……私と一緒ですね」
『というと?』
俺は身の上話をした。するとドワルさんも今までのことを話してくれた。
やはり子を持つ父親とは似てくるもので、なんかドワルさんが俺に似ていると感じたのもそういうことだったんだろうか。
『ですから、アンリだけは私が守らないと。まぁいつも家事から何まで任せっきりですがね! ははは! いつの間にか小言まで妻に似てきて』
『それは嬉しい限りですね』
『さすが、わかってらっしゃる。しっかりしていますよ……本当に』
そういうドワルさんは悲しそうだけど嬉しそうに。
俺はその気持ちがすごく分かった。
俺達は盛り上がりながら酒を飲む。
べろべろに酔っぱらっているといつの間にか賑やかな声が聞こえないことに気づいた。
ふと見ると可愛い三人の天使が横で無防備に寝ていた。
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名無しのモブ1:なんか良いな……あったかくて
名無しのモブ2:幼女三人仲良くすやすや
名無しのモブ3:可愛い。
名無しのモブ4:シルフィ派です。
名無しのモブ5:俺はソフィアちゃん派、絶対将来美人になる
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それをただ眺めるおっさん二人。
幸せを噛み締めるように、その無垢な笑顔を肴に酒を飲む。
こんな日常が続けばいいのにと願うだけ。
でも、混沌はすぐそこまで近づいていた。
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