第13話 おっさん、エルフに会いに行くー2

『ちゅっ!』


 その瞬間だった。


『…………種族・古龍(嵐雷龍テンペスト)。固有名称・シルフィにより加護が付与されました。加護名・嵐雷龍テンペスト


 この世界に来た時と同じ声がした。


 そしてすぐに俺は教えられてもいないのに理解する。


 俺は今、風を操れる。


「うぉ?」


 意識しただけで風を纏い、体が浮いた。

もしかして俺はこのまま……。


 俺は好奇心が抑えられずに地面を蹴りだす。

すると案の定、俺は空へと飛び立った。


 体がまるで無重力のように軽く、羽のよう。

そして体を纏う風は俺が意識する方へと吹いていく。

それはすなわち。


「お、俺空飛んでる!?」


==================

名無しのモブ1:まじかぁ!?

名無しのモブ2:今人類は初めて単独で空を飛びました。

名無しのモブ3:最強の加護じゃねぇか!! というか加護二つ持ちなんていたか?

名無しのモブ4:俺は知らない……、まじで羨ましい

名無しのモブ5:気持ちよさそうーー!!

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 自由自在に空を飛べる。

飛翔、それがシルフィが俺にくれた加護の力。


『飛ぶのきもちい?』

 

 するとシルフィも俺の隣まで飛んできた。


「すげぇよ! ほんとにすごい! ありがとう、シルフィ!!」

『えへへ、喜んでくれて嬉しい』


 俺はシルフィを抱きしめた。

誰だって一度は空を飛ぶことを夢見たはずだ。

俺は今確実に自分の意思で空を飛んでいる。

 

 昨日シルフィに乗せてもらったのとはまた違う。

この気持ちよさは言葉にできない。


「ちょ、ちょっと! ずるいわよ! 私もとびたーーい!」

『加護はあげられないけど、飛ぶだけなら大丈夫だよ。はい』


 するとシルフィが指をくるりと回す。

ビビヤンも同じように飛んでくるが、しかし自分の意思では操縦できないのか若干不満そう。

加護を持つ俺だけがシルフィと同じように自分の意思で空を飛べるようだ。


 その後少しだけ空を飛ぶ感覚を楽しみながら俺達はビビヤンの車に乗り込む。


 シルフィだけは軽くなって俺の膝の上に座っている。

頼むからその魔法とかないでくれよ、解いたら俺の足がつぶされる。


「まぁ、色々あったけど、とりあえずエルフの森へしゅっぱーつ!」


『エルフの森いくの? じゃあ飛んじゃお』


「うぉ!?」


 シルフィがくるりと指を回した瞬間、俺達が乗り込んだ車が宙に浮く。


「お前何でもありだな……さすがは神とまで呼ばれる古龍……」


 シルフィは大したことないけどという顔のまま、俺が上げたケーキを俺の膝の上で貪っている。


 ほんとに幸せそうに食べるな。これじゃ甘いもの控えろとは言えないぞ。


『このケーキっていうの美味しい!! また食べたい!』


 そして俺達はそのままエルフの森へと空を飛んで直行した。


 これなら2,3時間でつきそうだな。


……


「ビビヤン、エルフってみたことあるか?」

「昔ね。全員、滅茶苦茶美形よ……でもよそ者は絶対に近寄らせないって感じ」

「はぁ、外交できる気がしないな……」


 コメント欄もエルフに会いに行くのかと盛り上がっているが心配している声も多数。


 ビビヤンがいるとはいえ、即座に弓を放ってくるような相手だからな。


『ついたよーー』


 すると草原が終わり、目の前に森が広がっていた。

森と言ったが、これを森と言っていいのだろうか。

一本一本の木がまるでご神木のような巨大な木、ここまで豊かな自然は見たことがない。


 薄暗い森の眼の前に、俺達は車を止めた。


「とりあえず進むか……」

「そうね。エルフに会わない事には話が始まらないからね」

「ギャギャ!」


 俺達はそのまま警戒しながら森を進む。

聞くところによると森へ入るとなんでかバレるらしい。

だから入れば勝手に向こうから会いに来てくれるだろう。


 薄暗い森を進む。


 空にある太陽すらも遮る俺の顔よりでかい葉っぱ。


 森独特のマイナスイオンなのか若干冷えた空気。


 そして。


「んもう♥ 危ないわよ……あとちょっとで死んでたわね」


 俺の眼の前に飛んできた弓矢。

しかし、ビビヤンがその弓矢を掴む。

身体能力強化って、反射神経もあがるんだろうか。


「でてきなさいよ!」


 その言葉に森から出てきたのは。


『ここからでていけ! ゴホゴホ! 人間! 次は……はぁはぁ……本気で殺すぞ!』


 見たこともないほどの美少女エルフだった。


 だが見ただけで分かる。


 体調がすこぶる悪そうで、頬はこけて顔は青ざめている。


「ねぇ、信ちゃん。何て言ってる?」

「殺すぞって」


「そう……でもなんか体調悪そうじゃない?」


==================

名無しのモブ1:エルフきたぁぁぁ!!

名無しのモブ2:美少女系エルフたん! これはハーレム要員待ったなし!

名無しのモブ3:でもなんか体調悪そうじゃない?

名無しのモブ4:ほんとだ……なんか今にも死にそう。

名無しのモブ5:あれですな、病弱設定という奴ですな

==================


「おい、君! 話をしたいんだ!!」


『――!? なぜ貴様エルフ語をしゃべれる!』


「アテナ様の加護で! とにかく俺とちょっとだけ話そう!」


『アテナ神……黙れ!! それでも人間をこの森には近づけさせぬ!!』


 だがその子はまた弓を俺に向かって放つ。

しかしビビヤンがまた軽々しく止めてくれた。


『シンジに弓矢、シルフィ、怒る!』

「だ、だめだめ! 大丈夫だから!」


 横の銀色幼女が今にも龍に変身しそうだが、俺はなだめながら、エルフを懸命に説得しようとする。


「見たところ体調が悪そうだ! 穏便にいこう!」


『だ、黙れ黙れ! 人間なんぞを信用できるか!! 死ね!!』


「――!? まずいわ! 下がって信ちゃん!」


 直後そのエルフが弓矢を引くが、ただの弓矢ではない。

何か魔法なのか、風を纏って先ほどまでとは比較にならないほどの速度で飛んでくる。


 やばい、避けられない。


ボウ!!


 しかしその弓矢は弾かれた。


『シンジ虐める奴許さない』


 シルフィから暴風のような風が吹き荒れる。

その風の守りが弓矢から俺を守ってくれた。

そして直後、その風がそのエルフまで飛んでいく。


『な!?』


 吹き飛ばされるようにそのエルフは後ろの木にぶつかり倒れる。


「こ、こらシルフィ!」

『だって、あいつシンジを殺そうとしたよ?』


 俺は走っていきそのエルフの少女を抱きかかえる。

とても細くて、そして近くで見れば見るほど美形、だがその額には汗をかき呼吸が乱れている。


「病気かしら……気絶しちゃったわね……」

「なんとかエルフ達に返せればいいが……このまま放置するわけにもいかないな……」


 その時だった。


 さらに他のエルフが2,3人現れる。


『お前、エルディアに何をする!』

『その子を離せ! そしてすぐに立ち去れ!』

『我らに触れるな、人間がぁぁ!!』


 だが案の定、滅茶苦茶好戦的で話ができるような状態じゃない。


「す、すまない。戦うつもりじゃなかったんだ! だがこの子は病気のようで、治療をしてあげてくれないか!!」


 俺と言葉が通じることに驚くエルフ達。

だが、その驚きはすぐにエルディアと呼ばれたこの少女へと向く。


『ま、まさかエルディアが黒の呪いに……』

『…………くっ! もう助からぬ』

『そんな……エルディアまで…………』


 黒の呪い? この病気のことだろうか。

だがエルフ達はそのままエルディアを引き取ってはくれなかった。


『そこにおけ!』


 俺は言われるがままエルディアを優しく地面におく。

その直後だった。


「なぁ!?」


 炎を纏った弓矢がそのエルディアという少女へと向けられた。


「な、なにをする! お前達の仲間じゃないのか!!」


『だまれ! 黒の呪いにかかったものは即座に燃やしてしまわねばならぬ! それが掟だ!!』


 そして火の矢は放たれる。


「シルフィ!」

『あい!』


 だがシルフィの風の壁にすべて封殺された。

驚くエルフ達、しかしまた弓矢を構えている。

俺は話にならないとこの少女を連れて、逃げることにした。


「逃げるぞ! 話にならない!」

「ちょ、その子連れてくの!?」


「……そうだ! このまま殺されるなんてかわいそうすぎるだろ!」

「んもう! そういうところ大好き! おっしゃにげるわよ!!」

 

 俺達は一目散に逃げだした。

 

 幸い車まではすぐそこで、俺達は飛び乗るように車に乗って、シルフィの魔法で空を飛ぶ。


 エルフ達は追いかけてはこなかったようだが、一体なんなんだ。


 エルディアと呼ばれる少女を見て、悲しそうにしていたのにいきなり殺そうとするなんて。


『……はぁはぁ……はぁはぁ』


 俺は気絶しながらも額に汗をかくその少女を見つめる。


 年はまだ女子高生ぐらいだろうか、いや、エルフだからわからないがそれでも随分と若い。


 それが一歩間違えば死んでいた事実に異世界というものを今強く感じていた。


……


「信二。お前はとんでもないことを……いや、あの状況では仕方ないか……世論もおそらくは問題ないとは思うが」


 帰ってくるなり、俺を出迎えたのは大泉信一郎、アナザーに関する日本のトップ権力者。


 そしてもう一人はやはり伊集院先生。

あの後知ったが、大学病院に勤務する超が付くエリート先生らしい。

外科から内科からなんでもできちゃうすごい人。


「大石君。とりあえず日本町にある部屋を医務室に変えた。そこに運ぼう!」


 俺は伊集院先生に言われた通り、その子を医務室まで運んだ。


 ゲートを通るわけにはさすがに行かないので、日本町での治療となる。

その時何かに感染する場合もあるからと、出来るだけ接触のないように俺と伊集院先生だけで医務室へと向かった。


 俺はドローンの映像だけを切って、音声だけにする。


「ごほごほ!」


 相変わらず気絶しながらもせき込むエルディア、辛そうだな。


「異世界特有の病気だったなら正直どうしようもないが……では失礼する………」


 そういって伊集院先生はエルディアさんの衣服を脱がした。

といってもすべてではなく、纏っていたローブのようなものだけでその中は軽装で肌は良く見えた。


 そして俺と伊集院先生は目を丸くする。


「まさか……この症状は……」

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