第36話 シナリオを乗り越えて⑦

「なんだ。キチンと届いているじゃんか」


 僕の必死の訴えが届いたのか。邪神ニャルラトホテプはその動きを錆びたブリキ人形のように鈍くしていた。


『Nya……a……!?』


 邪神は何が起きているのか理解出来ず、声にもならない叫びをあげているようだ。ざまあみろ。


「良い感じな雰囲気を出してるところ悪いけどにゃ。モブは依然として女の子に助けを求めた情けない奴にゃ」


 うっさいぞ。

 いるよね。こういう話が良い感じに纏まりそうなのに引っ掻き回す奴。地獄に落ちればいいと思う。


「で、でも動きが止まったところでどうすんのよ。アイツ再生するじゃない」


「おっと良い質問だアルケイディア。実は奥の手がありましてね。じゃあ最初っから使えよって話なんだけどさ。ちょっと発動するのに時間がかかるんだよね」


 具体的には程度ピッタリ一八〇秒。その時間は刹那の動作や決断を求められる戦闘においてあまりにも致命的だ。


「あっ、なるほど。それでアリスちゃんに命乞いをしたんだね」


 ソレイユは合点がいったらしく手を叩いた。


「そゆこと。後あれ。命乞いじゃないから大いなる時間稼ぎだから」


 人聞きの悪いことを言わないで欲しい。ちなみに訴えている最中も並行で奥の手の準備を進めていた。我がことながらあまりの手際の良さに戦慄しちゃうね。


「セコいにゃー」


「だまらっしゃい」


 本当にうっさいぞ。抜け目がないと言いなさいよ。


「まぁ僕の魔☆力を刀に込め終わるまでもう少し時間もあることだし。僕の力について少しレクチャーして上げよう」


 身動きのとれない邪神ニャルラトホテプに対しこれ見よがしにと言葉を投げかける。

 もちろん術式の開示とかしたところで威力が上がるとかそういうことはない。完全な趣味である。ドヤ顔でこういうこと説明するのって気分良いよねっ。


「僕の刀術は重力魔術を応用したものになるわけだけど、その中核はそれじゃあない。この刀だ」


「え、なんか勝手に喋り始めたんだけど」


「クラリスちゃん、モブ君もそういうお年頃なんだよ。そっとしておいてあげよ」


「ぶっちゃけキモいにゃー」


「君達ほんとに言いたい放題じゃん……ま、いいや。気にしないことにしよ」


 本当にこいつ等は喧しい。連れてくる人選間違えたよね。ていうかこいつらほとんどが勝手についてきたんだった。そりゃ期待するだけ無駄か。なにせ阿呆共ですし。


 阿呆共を無視して再び邪神ニャルラトホテプに視線を戻す。

 えっとどこまで話したっけ。そうそう、この刀についてだった。


 僕の刀術は重力魔術を応用したものだ。

 そもそも重力魔術はゲームが現実化したことによりその仕様が変更された魔術なわけだが、その性能は微妙の一言に尽きた。原作の割合ダメージ、しかもボスには効果なしとかいうクソ性能からは脱却したものの、その効果は重力を利用した行動阻害となった。要はデバフだ。


 正直この世界では行動阻害するよりも攻撃魔術を放った方が手っ取り早い。そのため僕はこの重力魔術を活用すべく、とある武器の機能に着目した。


 大罪武装・暴食


 この大罪の名を冠する刀は使用者の魔力及び魔術を喰らう。そしてそれらをその刀身に帯びさせるという特性がある。

 加えてこの武装は原作ゲームでは終盤付近に手に入るものため、この上なく高い攻撃力を誇る。僕の重力式刀術はそれら全てを応用したものだ。


 そこから放たれる一撃は天下無双の威力を誇り、相手に確実な死をもたらす。

 一介のモブでしかない僕が階層主フロアマスターを一刀にて屠れるカラクリもここにあるわけだ。


「ま、長々と説明したわけだけど。おかげでようやく魔力充填が終わったよ」


 存分に僕の魔力を喰らいつくした愛刀からは、鞘に収まっているというのに異様な雰囲気が溢れ出していた。これならばきっと無類の再生力を誇る奴にも届くだろう。


「もう準備万端だ。いい加減このクソったれなシナリオに決着をつけようか」


『Nyaaaaaaa……』


 邪神も僕から発せられるただならぬ雰囲気を感じ取ったのだろう。呻き声を上げた。

 目にも見せてやる。これが僕、モブ・モブリオンの奥の手。全力最大重力奥義。この一刀にて僕は乗り越える。このクソみたいな運命を一刀両断してやるのだ。



 最大重力式抜刀――黒断






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