第3話 モブも歩けばヒロインにあたる①

「はにゃ?」


 とある日、情報収集がてら僕は冒険者ギルドに顔を出していた。学園は当然の事ながらサボりだ。そんな僕を喧しく出迎えたのは口元をωにする猫耳美少女だった。


「おにゃ? おにゃにゃにゃにゃ? この見覚えのある辛気臭い匂いは……やっぱりモブにゃ!」

「相変わらず随分な挨拶だなおい。そこまで言うことなくない?」 


 彼女はニャルメア。このギルドの受付嬢兼看板娘(自称)である。受付嬢なのにメイド服を着ているのはいかがなものかと思う。業腹なことに今でも前世でも一定数のファンがいたけど。


 この世界にも冒険者ギルドなるものは存在する。これも例に漏れず、やり込み要素であり本編に絡むことはあまりないが。

 そんなわけもあり僕は原作知識をフル動員して鍛え上げたステータスを駆使して、この界隈ではちょっとした有名人だったりする。


「むっふっふー実はそんな貴方にうってつけな依頼がですにゃー」

「嫌だよ。君がそう言う時って大抵ろくな目に合わないし」


 ほんとそれな。

 この世界に転生後、この問答から始まったサブクエに何度頭を抱えさせられたか。しかもそのいくつかは世界滅亡に関わっていた。もちろん解決するのは僕。


「あ、でもその前にギルマスがなんか呼んでたにゃ」

「えっ」


 うへーなんかそこはかとなく嫌な予感。

 この受付嬢の依頼とギルマスの呼び出しとなれば、経験から十中八九サブクエ関連だ。帰りたくなってきた。


 とんずらを決め込もうかと考えていると甲高い悲鳴が耳を貫いた。


「ちょ、ちょっと! 触らないでよ!!」


 声の方向に視線を向けると、一人の少女が複数の屈強な男達にから絡まれていた。


「アンタみたいな気持ち悪い奴に触れられたら腐っちゃうわよっ!」

「この女っ! 言わせておけば!!」


 うーんお互いにかなりヒートアップしてるな。

 ひとまず成り行きを見守っていたが更に口論は激化していき、ついには男の一人が拳を高く振り上げた。

 流石にこれは不味いか。


「はいはい失礼しますよっと」


 彼らとの間に強引に体を滑り込ませる。そして振り上げられた拳を鞘に納められたままの刀で受け止めた。


「なんだてめぇ? いいことしてんだから邪魔してんじゃねぇよ」

「え? もしかして嫌がられてるのご理解できてない? ていうか明らかに顔面偏差値が釣り合ってないじゃん。鏡とか見たことある?」


 よくよく見れば両者の顔面偏差値のかけ離れ具合は悲惨なものと言えた。片や美少女、片やオーク顔。比較するのすら烏滸がましいレベルだ。


「て、てめぇ!!」


 激情し男は拳を振り上げるがその拳が僕に届くことはない。正確にはゆっくりゆっくりと近づいており、いずれは届くだろう。だがそれを貰ってやるほど僕はお人好しでもない。


「クスクス、文字通り虫が止まるようなパンチだね。もしかして夕べはしこたま酒でも飲んだ?」


 デバフ。つまり重力魔術だ。彼の後ろにこっそりと発生させた重力球が彼を亀の如く遅くさせていた。

 原作ゲームでは不遇の扱いであり、あまり使われることはなかった魔術だが思いの外に使い勝手が良く僕は愛用している。


「クソがっ! 覚えていやがれ!!」


 うわーお。まごうことなき三下ムーヴだ。部が悪いと判断したのか彼らはそそくさとギルドを後にしてしまった。

 さーよーなーらー。僕はキチンと懐からハンカチを出してフリフリして上げた。もちろん敬意を込めてだ。


「はぁー慣れないことするもんじゃないね。それで怪我はーー」


 僕は少女を見て固まった。


「な、なによ?」


 突然と凍結フリーズした僕に少女は若干警戒するのように後ずさった。


 対して僕は状況が飲み込めずというか認めたくなくて固まったままだ。脳が理解するのを拒絶してるまである。

 まぁでも、そりゃ驚くわ。よもやよもや目の前にいる少女はこの世界の元となったゲーム、ファイナルアビスのヒロインの一人だった。







 

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