ex1 エブリデイ・ヒーロー・クライシス
「はぁ~今日も今日とてダルいなぁ」
「モブ君は相変わらずだねぇ。たまにはしゃっきりしなよ」
そんなこと言われましても。
現在、僕らは学園内の演習所にて実技の授業を受けている。既に周りでは同年代の生徒達が威勢良く組み手を開始していた。
そして何故か当然のように僕の隣にいるメインヒロイン様。彼女には正座をさせて小一時間ほど問い質したいぐらいだが、ともかく特に実技の授業はダルい。出席日数とかの問題がなかったら帰りたいまである。
しかもそのダルさを更に加速させる存在が……ほら来たよ。
「今日こそ逃がさないぞ勝負しろモブ・モブリオン!!」
「うへぇ。また来たの?」
僕は露骨にゲンナリとした表情を浮かべた。もちろんワザとだ。
驚くことなかれ。僕に声をかけて来たのはなんと原作ゲームの主人公様だ。無駄にツンツンした髪型も灼熱のような緋髪もその何もかもが暑苦しい。僕はその暑苦しさから皮肉を込めて熱血君と呼んでいる。
とりあえず主人公様がモブに構わないで欲しい。
「おう! また来たぜ!! 今日こそお前に勝ってやるぜっ!!」
うへぇ超熱血属性だよぅ。僕、こういうタイプ苦手なんだよなぁ。ゲームをプレイしている時はむしろ好印象だったが、こう目の辺りにすると中々にキツイものがある。
ていうかそんなことよりも早急にメインヒロインとよろしくやって欲しい。まじで世界が滅びかねないので本当にお願いします。
何故に一介のモブでしかない僕がこうも主人公に絡まれているかといえば、まぁ海よりも深く山よりも高い理由が当然ある。
事のあらましはこうだ。ある日に色々あって対峙した僕らは戦闘することに。その時は主人公に目をつけられるのも不味いし、てきとーな所で負けるつもりだった。
だが主人公が想像以上に弱かったのだ。まぁゲームであれば序盤なので当たり前といえば当たり前なのだが。手加減に失敗した僕はこともあろうか彼に勝利してしまった。
その後は目をつけられ事あるごとに勝負を挑まれるという有り様だ。どうしてこうなった。
「い、いやぁ。ちょっと僕、今日は持病のアレがアレでーー」
何とか上手い言い訳を捻り出そうと思案しているとこちらに近づく足音が耳に届いた。
「おやおやいけませんねぇモブ君。もっと授業は真面目に受けていただかないと」
うげっ。
更に声をかけられたくない奴パートⅡ。女性と見間違うほど流麗な黒長髪に眼鏡。確か原作ゲームの設定だと三〇代前半ぐらいだった気がする。
彼もまた主人公パーティーメンバーの一人である。大人キャラであり主人公達を守り、時には導く立場にある存在だ。
ここまで言えば人格者とも捉えられるが、如何せん彼は
というか更に言えばこのゲームの大体の事件はその元を辿ればコイツが原因だ。この鬼畜眼鏡の研究のせいで作中に世界は滅びかけるわけだったりする。
そんなわけで可能な限り関わりたくない人間の筆頭とも言える。だが悲しいかな。僕は主人公に絡まれる過程で既に目をつけられている。どうしてこうなった。
「うんうん、君は本当に良い反応をしますねぇ。しかしそんな態度いいんですか? 君、確か落第寸前でしたよねぇ?」
この鬼畜眼鏡がっ。
そんなんだからユーザー達から諸悪の根源とかこいつが全部悪いとか揶揄されるんだぞ。
とは言ったものの僕が落第しかけているのも事実。
「思わず構いたくなってしまいますね。ムンク君、放課後少し時間はありますか? 実は人体じっけーーいえ、研究に協力して欲しいのですが」
ひぃ。こいつ今、人体実験とか言いかけたぞ。怖い怖い。あと怖い。
分かった分かった。やればいいんでしょやれば!!
だからその邪悪な笑みを僕に向けないでほしい。ほんとまじで本気で心の底からやめろください。
◆
「だから言ったじゃん。大事なのは技と技の連携だって」
結局その後、僕は原作主人公である熱血君と組み手をする羽目になった。まぁこれも良い機会だと思うことにして、熱血君に戦闘の手ほどきをしてあげることにする。
僕はモブであるもののある程度ならゲームでの技を使用できる。軽い指導ぐらいなら可能だろう。
ちなみに習得までには相当な時間を要した。まぁゲームで使っていた技を自分が使えるなど途方もない感動だったけど。
「魔人剣!!」
先に仕掛けたのは熱血君だ。彼が勢いよく振り下ろした剣からは僕めがけて地を砕く衝撃波が発生した。
「ーー欠伸が出ちゃうね」
技自体は優秀なものだ。しかしこうも単調に放たれては目を閉じても容易にかわせる。
「じゃあお返しだ。魔人剣ッ……からの閃光迅ッと!」
対する僕も同じく魔人剣を放つ。そして更に前進しつつ高速突きを放つ技、閃光迅を発動させた。この移動モーションが早い閃光迅と魔人剣を組み合わせれば隙のない連撃となる。
このゲームは所謂コンボゲー。それゆえにこの手は非常に有効的と言えた。このように技を繋げていかにコンボを稼ぐことを求められるからだ。
そしてそのためにはやはり技と技の連携が不可欠なのだ。
「ぐっ……! うおっ!?」
「はいこれでおしまいっと」
連撃により無防備になった彼の首前に刀を差し込み、これ以上動かないように静止させた。これで詰みだ。
これ以上打つ手はないと悟ったのか彼は両手を広げて地面に仰向けに寝転んだ。
「あーもう本当にモブはつえーな!!」
「そうでもないよ。一撃の威力や速度には目を張るものがあるしね。後は使い方だけだよ」
やはり原作主人公だけあってか彼の潜在能力には光るものがある。順当に成長していけば僕なんて目じゃないだろう。
「およ? モブ君モブ君あれってなぁに?」
いつの間にか僕らの近くでくつろいでいるリッカがある場所を指差した。なんぞ?
「ん?」
「なんだこれ?」
彼女が指差した先は演習場の中心地点だ。既に異変に気がついた生徒達がワラワラと集まっていた。
……仄かに光を帯びている?
光はどんどんと強くなり、ついには悪魔を模した紋様が浮かび上がった。
ゲェ!?
あれは
見覚えがある。これは所謂レイドイベントだ。あの紋様からは魔物が再現なく溢れ出し、紋様が消えるまで戦い続けないといけない数多のプレイヤーの頭を抱えさせた超絶糞イベント。しかも面倒なことに出現する魔物がそこそこに強い。
「おやおやこれはまた随分と厄介な事になりそうですねぇ」
余裕そうだがこれお前のせいだぞ鬼畜眼鏡。
このクソ眼鏡は各国からそれはもう大変に恨まれている。とにかく目茶苦茶怨まれている。出会い頭に斬りかかられるどころか、問答無用に核弾頭をぶちかまされるレベルで怨まれているのだ。
そしてその巻き沿いをくらいもれなく原作ゲーム主人公が死ぬ。おかしいと思うよね。僕もそう思う。
でも主人公が死んだらもちろん世界滅亡に繋がりかねないわけでして。
「こんちきしょおおおおおおい!!!!!!!」
また僕はヤケクソになり刀一つで溢れだす魔物群に飛び込むのだった。
※必死こいてなんとかしました。
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