第2話 そもそもの始まり
「ふっ、通りすがりの糞効率の悪いデバフを極めたモブさ」
学園にて暴れまわる
『汝のような矮小な存在がこの不死王たる我を阻むというのかっ。厚顔無恥に程がある。万死に値――!?』
不死王の挙動が不自然なほど緩やかに変動した。ようやく通ったか。
「クスクス、ようやく気がついたみたいだね鈍間が。気分はどうだいどうだい。体が思うように動かないだろう?」
『き、貴様ぁ!? 一体この不死王たる我に何をしたっ!?』
言葉は返さない。決着を一瞬で決するべく、そのまま腰にかけられた刀に手を伸ばす。
現在はゲーム原作において序盤の時期であり、その辺りで出現する敵の中でも不死王は決して弱い存在ではない。むしろこの時期にしては頭一つ飛び抜けた強さを誇り、原作では洗礼と言わんばかりに数多のプレイヤー達を屠ってきた存在だ。少なくとも今段階の原作主人公ではかなう敵ではないだろう。
それは当然、そこら辺のモブにも同じことが言える。だがまぁそれはあくまで序盤という段階でしかないのだけれど。
一ノ太刀
少しばかりの黒い何かが瞬く。居合いにより高速抜刀された刀身はまるで何の抵抗もないかのように淀みなく緩やかに。そして一直線に不死王を一閃した。
『ば、バカな……不死王たる我が貴様のような矮小な存在に……』
横から真っ二つにされた不死王はもはや抗うことすら出来ない。無慈悲にも崩れ落ちていくだけだった。
◆
僕、モブ・モブリオンは転生者だ。そう気がついたのは五歳程度の時。頭を打った衝撃で前世を思い出すみたいな。よくあるあれだあれ。
まぁ、当時は相当な混乱をして元の世界に戻れないのかと色々駆け回ったものだ。
その中で色々と散策しているうちにこの世界が前世(?)にプレイしたファイナルアビスとほぼ同じものであることが判明した。
ゲームの世界に転生したと気がついた僕はとにかくレベルを上げた。寝る間を惜しんで上げた。上げまくった。
ゲームの世界に転生した事態に興奮したということもあるが、何よりも死にたくなかった。その甲斐もあってか苦労の末に僕のレベルはカンスト近くまで上り詰めた。
とは言えカンスト目前でも僕のステータスは主人公の最終ステータスと比べて明らかに劣る。そこら辺は所詮モブでしかないと言うことだろう。
何故そこまで必死になったかといえば、このゲームがハッキリ言ってクソゲーだからだ。ゲームバランスもさることながら世界観も滅茶苦茶。何を考えたのか古今東西の神話における人気どころをごった煮ミックス欲張りセットを決め込んだクソ内容という。本編ストーリー自体は大変出来が良いと評判なだけにより残念極まりない。
そんなわけもあって非常に残念なことだが、様々な神話体系の神々が跋扈するこの世界は常に破滅と隣り合わせだ。薄氷一枚でなんとか崩壊せずに済んでいるといってもいい。まじでゲームバランス考えろ?
しかも、しかもだ。ゲームが現実化した影響なのか弊害なのか。様々な差異が発生していた。
「ん? どしたのモブ君。そんなに見つられると照れちゃうよ?」
そのもっともな例が僕の目の前で何故か可愛く首を傾げるメインヒロイン様だ。年不相応な呆気なさが残る童顔にミディアムヘアをハーフアップサイドテールに纏めた桃髪美少女。
何の因果か彼女は原作主人公と共に行動をしていない。控えめにいってヤバイわよ。
あれか。学園入学当初にボンボン貴族を原作知識をフル活用してからかっていたのが悪かったのか。それで目をつけられたのか。クソが。
「ちょ、こいつ息してねーぞっ!?」
あーほんとヤバイ。ゲロ吐きそう。視界の端で僕の前に不死王と対峙したらしい主人公様が冥界へとお散歩している件について。周辺にいた生徒達に必死に担がれ医務室に運ばれていった。一応主人公だし死なないよね?
「相変わらずモブ君の周りは賑やかだねぇ」
いつの間にか僕の隣に立っていたリッカは腕を組み、したり顔でウンウンと頷いていた。
えぇ本当にね。主に君のせいで本当に大変ですよ。謝罪と賠償を要求したいレベル。
君が主人公と行動をしていないせいで僕は尻拭いに奔走する毎日なんですけど。さっきの不死王だって本来であれば僕ではなくリッカと主人公が倒すはずだった敵だ。
「ていうかなんで熱血君と行動してなかったのさ。あれだけ釘をさしておいたじゃん」
「いやーなんていうか? それだとモブ君が一人ぼっちで寂しいかなーと」
かなーじゃないんだが。洒落にならないんだが。
しかしリッカは僕の心境などお構いなしと言わんばかりにケラケラと笑った。
「どうしてこうなった……」
制御不能なメインヒロイン。タンカに担がれ今にも地獄へと放り投げられそうな原作主人公。あまりにも混沌すぎる状況に僕はただただ頭を抱えるしかなかった。
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