第24話 メインヒロイン②
「なんだソレイユか」
「むむ~なんか凄い失礼な気がするんですけどっ!」
この世界の元になったゲーム・ファイナルアビスのメインヒロイン。リッカ・ソレイユはそのサクラ色の髪を揺らして学園屋上に現れた。
彼女は両腕を腰に当てそのご立派なお胸様を前に突き出した。それは彼女が大変ご立腹な時にとるポーズだ。
「はぁ……」
「あー! 私のこと見てため息吐いたーーー!!!」
僕の反応を見てリッカはまたギャーギャー騒ぎ出した。煩わしくてたまらなかったが、どうでもよかった。
リッカだけじゃない。目に見えるもの全てがどうでもよく思えた。もっと言えば世界の滅亡を阻止すべく奔走した日々すら無駄に思えた。思い上がって勝手に動いた結果がこれだ。こんなのあまりにも滑稽で笑い話にもならねぇよ。
「どしたのモブ君。なんか元気ないよ?」
「なんでもないよ」
「なんでもないってことないでしょ」
「だから本当になんでもないってっ」
鬱陶しい。しつこい。鬱陶しい。
もうほおっておいてくれ。僕はもう何も考えたくないんだ。こんな感じで何もしなければきっともう苦しくならない。だからこれでいいんだ。所詮モブでしかない僕にはこれがお似合いなのだ。
更に喧しい声が津波のように雪崩れ込むかと思ったが一向に来る気配はない。流石に不振に思いリッカのほうへと視線を向ける。
「へ?」
リッカはいつの間にか僕からそれなりに離れた位置に移動していた。僕に愛想を尽かしたのかとも思ったがどうも違うらしい。何故か念入りに屈伸等のストレッチをしている。なんだかとても嫌な予感がする。
「とりゃあああああああああああ!!!!!」
そして大きく息を吸い込んだと思えば、突然に僕めがけて駆け出した。全力疾走だ。
「へぶぅ!?」
そして頬を殴られた。
え? なんで?
「ちょ、なんで殴ったの!? しかも思いっきりグーで!! 乙女的に嗜みが足りないんの!?」
「なんでもクソもないよ! ほんとモブ君はもう! これ! この!!!」
「会話! せめて会話してよ!!」
これこのじゃないんですけど。そんな意味にもならない言葉を叫ばれても困るんですけど。動物園の猿かよ。
「とりあえずなんかウジウジしてキモかったからぶん殴ったっ!!」
「は?」
ほぅ。たったそれだけの理由で助走つけてグーパンしたと。
分かる分かる。僕の前世でもキモいは罪同然だっだ。存在するだけで嘲笑され、サンドバックにされる哀れな存在。あまりにも哀れすぎて弱者男性とか揶揄されていたもんね。
とはいえここは前世とは違う異世界だし、僕は清く正しい男女平等主義者だ。
「へ? なんで私の腕を……あ、ギブギブギブ!!!!!」
リッカの上腕部を自分の両脚で挟んで固定して同時に親指を天井に向かせる形で相手手首を掴み、自身の体に密着させる。俗に言う腕挫十字固である。
ガッチリと技を決められたリッカは降参と言わんばかりにジタバタと暴れた。
「腕がもげちゃうもうげちゃう! ちょっ、ほんと限界!? あ、あーーーーーー!!!!!」
◆
「ふぅ~酷い目にあった~。まったくモブ君は冗談が通じないんだからー」
「どこの世界に冗談で殴りかかるやつがいるんだよ。バイオレンスにもほどがあるでしょ」
腕挫十字固から解放されたリッカは涙目でわざとらしく腕を抑えている。
手加減はしたつもりなのにコイツ……もう一回やってやろうか。
「ご、ごみんごみん。もうやらないからそんな目しないで~」
何かを察したのかリッカは平謝りしだした。
チッ。無駄に勘の鋭いやつめ。
「それでモブ君、何があったのさ。話すだけ話してみたらどう? 気分が楽になるかもよ?」
一呼吸おいて彼女は懲りずにまたそんなことを聞いてきた。
あー。
前世においてプレイしたゲームの記憶が頭をよぎる。彼女はこう見えてというか見たまんまというか。こういう時は強情で全くもって引き下がらないのだ。きっと僕がすべてを話すまでしつこく付きまとって来ることだろう。
この煩わしさから解放されるには彼女に先日の出来事を話すしかない。僕はそう悟り肩を落とすのだった。
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