第6話 モブ・イン・ダンジョン①
「相変わらず辛気臭いことこの上ないな」
結局僕はその後、件の迷宮を潜っていた。
いやこれには深いわけがあるんですよ。
今回の件のようなサブクエスト関連の出来事は本来であれば主人公が対応するべきものだ。しかしこの世界の元となっているのは残念なが難易度設定がバグってるクソゲー。下手に主人公にサブクエなんてやらせて死なれても困るわけでして。
その結果、朝起きたら世界が滅亡しかけているなんてさもありえん。
そんなわけもあって現時点での主人公で対処出来ないサブクエストは僕が処理するしかないのだ。あーくそだるい。
「ゴブリンだよね……?」
迷宮内を探索している最中、僕を出迎えたのはなんとも不気味な
ゴブリンなのに肌は緑ではなく青。しかも何故か体の節々にヒレがある。
『イァ……! イァ……! イァ……!』
彼らも僕の存在に気がついたのか敵意をむき出してくる。
数にして一〇そこらか。うーん一体一体切り伏せるのは流石に面倒だな。よし、あの技でささっと殲滅するとしよう。
二ノ太刀 黒閃
腰に掛けた鞘から抜刀し、そのまま横に一薙ぎ。虚空に放たれた刃はやや遅めに進む漆黒の斬撃を生み出した。
『イァ……? イァ……!?』
斬撃がこのまま進行すればゴブリン達に直撃することはない。ちょうど彼らと彼らの隙間を通過する軌道だ。
当然ゴブリン達は首を傾げた。しかし疑問符を浮かべたその表情は、次の瞬間に驚愕に染まることとなる。自らの体が刃に吸い寄せられていることに気がついたからだ。
『イァ……!? イァ……!? イァ……!!?』
「気がついたところでもう遅ぇよ――喰らっちまいな」
斬ツツツツツ!!!!!
そしてゴブリン達は自ら斬撃に進み、その尽くが切り伏せられた。
倒れた魔物が靄に変わり霧散していく。残ったのは一欠片の魔石だけだ。
「終わりっと。しかしこの時期で考えればちょいレベル高めか」
僕の唯一の転生特典とも言える鑑定眼で見た彼らのレベルは三〇。現在が原作ゲームにおける序盤と考えるとやはり高く感じる。やはり下手に主人公に進められるより僕が処理したほうがよさそうだ。
僕はモブとはいえカンスト近くまでレベルを上げているの。この程度の迷宮程度には遅れはとらないしな。
とにかく今は更に奥に進むとしよう。
◆
「ん? ボス部屋か?」
しばらく迷宮を進むと一際大きい広間へとかち遭った。迷宮の造りは千差万別であり複雑怪奇だ。アリの巣のような迷路かと思えば、大草原のように広がる区画も存在する。
どれだけ深い迷宮だろうがその終点に必ずそれは存在する。
中に足を踏み入れた瞬間、大広間の壁に等間隔で備え付けられた松明に一つずつ明かりが灯ってゆく。これもよく見る演出だ。今更だけどキチンと挑戦者の視界を確保してくれる新設設計だよね。
『qooooooooo!!!!!』
「お、ボスっぽいの来た」
頭上より漆黒の巨塊が勢いよく墜落してきた。
燃える三眼と黒翼を備えた異形の人姿。更には極太の触手らしきものが体のいたるところから蠢いていた。明らかにこの迷宮の
とりあえず鑑定眼を発動させる。
闇をさまようもの:Lv.35
まぁそんなとこだろう。鑑定眼で見たレベルはこの迷宮で出現するゴブリン達よりも少し上程度。この程度ならどうとでもなる。
『qoooo……』
問答無用と言わんばかりに触手が僕目掛けて津波のように襲いかかる。まともに喰らえば内臓が潰れてお陀仏だ。しかしそんな状況にも関わらず、僕は不敵に見えるであろう笑みを浮かべた。
「当たらないんだな、これが」
魔術・
不可視の領域がこの空間を余すことなく包み込んだ。重力圧による特殊空間。展開した領域内では僕を除く存在は重力負荷が課せられる。更に僕は重力による補助を得ることが出来る。簡単に言えば相手は遅く、僕はより早く動けるようになるのだ。
『qooo……?』
不可解で仕方ないだろう。途端にのろくなった触手は一切僕に触れることすら出来ない。
ゲームが現実化したことにより様々な仕様変更が発生したが、その一番はこの重力魔術だろう。ゲームでは相手のHPを四分の一にするなどの割合ダメージを与えるものだった。しかもボスキャラにはほとんど効かないとかいうクソ仕様。
しかし、現実化したことによりキチンと重力を扱う魔術へと昇華した。特にギルドでも荒くれ者に使用したが、重力による行動遅延効果がピカ一だ。
僕はこの魔術を選んだ。
色々と理由はあるが主人公にとってこの魔術は無価値だからだ。もっと強力でお手軽な魔術や技は沢山ある。
僕はモブ。凡百であり世界を救う英雄なんて大それたものではではない。主人公の邪魔なんて烏滸がましいことはしてはいけないのだ。
「とはいえ物は使いようってね。たとえ最強に至らぬともそれに迫ることは出来る」
『qooooooooo!!!!!』
対してボスである闇をさまようものはこの状況に激高したのか、体のそこら中から触手を突き出させた。
更に迫りくる触手群を見据えて腰に据えた刀に手を添える。
心頭滅却。明鏡止水。一撃必殺。
僕が扱う刀術は武器固有能力と魔術を組み合わさせたもの。
一ノ太刀
重力圧により高速射出された居合い。そして直撃の瞬間、その刀身に更に重力圧をかける。そうして繰り出される刃はいかなる首も切り落とす必殺の一撃と化すのだ。
斬ッッッッッッ!!!!!!!
『qoo……oo……oo……』
かくして繰り出された刀身は一切の淀みなく一瞬でその首を切り落とした。
◆
「しかしこんな魔物いたっけな?」
靄となって消えていくボスを尻目にぼやいた。
どうにも引っかかる。これでまだ終わりではないそんな感覚が腹の底でズシリと残っていた。
たいてい今回のような特殊迷宮はサブクエストと連動していることが多い。だがそれらしき出来事は起きる気配がない。それにボスについても気になる点はある。原作ゲームのほとんどはやり尽くしたはずなのに全くもって見覚えがなかった。
まぁここで考えても仕方ないか。ひとまず僕は来た道を引き返すことにした。
しかし、迷宮入口に差し掛かったところ。事態は聞き覚えのある悲鳴と共に一変することとなった。
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