ex3 原作ヒロイン:クラリス・アルケイディア


「よし! 今日もやってやるわ!」


 自称天才錬金術師クラリス・アルケイディアはそう意気込んで拠点としている仮宿から飛び出した。 


 クラリスは故郷で変わり者として孤立しており、その状況に耐えかね一念発起してこの街へと飛び出してきた。

 彼女は錬金術師として大成し、村の人間達を見返してやると考えたらしい。


 とはいえほぼ無一文かつ家出同然だったこともあり、錬金術の研究をする傍ら冒険者家業にも勤しんでいた。

 幸い彼女の錬金術は戦闘でも大いに役に立つものだった。


 そんなわけで彼女はいつものように冒険者ギルドに向かう。しかし彼女はその目的地にてゲンナリとした表情を浮かべることになった。


「へへへ! お嬢ちゃん、俺達といいことしようぜぇ」


 冒険者ギルドに入ると冒険者数人が下卑た笑みを浮かべて近づいてきたからだ。


 非常に残念なことだが、彼女にとってはよくあることだ。

 原因は彼女の美少女とも言えるほど整った容姿。そして小柄の身体から突出する山脈のようなバストだ。

 男達の目を引かないわけがなかった。


「ちょ、ちょっと! 触らないでよ!! アンタみたいな気持ち悪い奴に触れられたら腐っちゃうわよっ!」


 そして彼女の対応もあまりよろしくはなかった。正直彼女に大した落ち度はないのだが、相手は気性の荒い冒険者。逆上されるのは必然だった。


「この女っ! 言わせておけば!!」


 口論は次第にヒートアップしていき、遂に堪忍袋の緒が切れたのか男の一人が拳を振り上げた。


 しかしその拳がクラリスに届くことはない。


「はいはい失礼しますよっと」


 クラリスと男の間に鞘に収まった刀が差し込まれたからだ。


「なんだてめぇ? いいことしてんだから邪魔してんじゃねぇよ」

「え? もしかして嫌がられてるのご理解できてない? ていうか明らかに顔面偏差値が釣り合ってないじゃん。鏡とか見たことある?」


 割り込んできたのはなんというかパッとしないような男だ。

 片目が隠れるぐらいにボサボサに伸ばした黒髪。黒を基調とした外套をまとっていた。


「さーよーなーらー」 


 結局、新たに現れた男は奇妙な魔術を使い冒険者達を撃退してしまった。


 しかしこれでクラリスは警戒を解くことはない。過去にあの手この手で痛い目に合いかけたからだ。


 どうせこいつも私の身体目当てなのだろう。


 そう身構えていたのだが、彼の次の行動はクラリスに困惑を与えるものだった。

 彼はクラリスを見るやいないや動揺したように固まり、一声もかけずに直ぐ様この場所を後にしようとしたのだ。


 これには彼女も慌てて引き留めてしまった。そして動揺した。引き留めたところでさして言うこともなかったからだ。

 ひとまず彼女は勘違いされても困るので釘を刺しておくことにした。


「と、とにかくまぁいいわ。いい? あんな奴らアタシ一人でもどうにか出来たんだからね! れ、礼は言わないわよ!!」


 そしてクラリスもまた勢いに任せ冒険者ギルドを後にした。




 ◆




 翌日、クラリスはとある迷宮に訪れていた。

 先日ギルドで突如出現した迷宮の話を偶然にも聞いたからだ。未知の迷宮には未知の素材が存在する。彼女はこれを好機と捉え早速向かうことにした。


 迷宮に入るとまずヒレのある珍しいゴブリンの群れに遭遇した。


「消し炭になっちゃいなさーーーいっ!!」


 彼女は何やら怪しい色の液体が入った手のひらサイズのビンをゴブリン達に向けて放り投げた。


 ゴオオオオオオオオオ!!!


 ビンが砕け液体が飛び出したその瞬間、彼女の目の前で蠢いていたゴブリン達はその全てが残らず丸焦げと化した。


「ふぅーざっとこんなもんねっ!」


 恐ろしい技だ。

 並みの冒険者ではここまでの芸当は出来ないだろう。

 これが彼女の扱う錬金術だ。

 素材を持ち歩く必要があるという難点はあるが、それでも誰でも扱えるのいう点は魔術にはない利点だ。しかも高い威力を誇る。


 己が才覚がもっとも重要とされる魔術とは違う。錬金術は素材とその使い方さえ把握すれば誰でも使える技術だ。

 なんとも末恐ろしい技である。


「流石未調査の迷宮ね。まだ入口付近なのに見たことない素材が沢山あるわっ」


 クラリスは迷宮の内部に心踊らせた。そこら中に未知の素材が溢れているのだ。一錬金術師として目を輝かせないわけがなかった。


 しかしそれが不味かった。


 彼女は後ろにゆっくりと近づく影に気づくことが出来なかった。


「お楽しみのところ悪いがなぁ。俺達の相手もしてもらうぜぇ」


 クラリスは慌てて振り替えるがもう遅い。声の主は既に剣の柄を彼女の頭めがけて振り下ろしていた。


 ゴツッと鈍い音が迷宮に響き渡る。頭に強い衝撃を受けたせいかクラリスはうつ伏せに倒れ込んだ。


「あ、あんた達は昨日のーー」


 意識が朦朧とする中、なんとか首を後ろに動かすとそこには昨日ギルドで絡んできた冒険者達がいた。


「へへ、ほんと良い体してやがるぜ」

「あぁ尻も胸もどうやったらここまでなるんだよ。たまらねぇ!!」

「ギャハハハ! 今からお楽しみのお時間ですよー!」


 クラリスはこれからされるであろうことを想像して体を震わせた。


「や、やめてよ! そのバッチい手で触らないでっ!!」


 どれだけ叫んだところでここは迷宮。しかも最近出現したばかりのだ。救援など現れるわけもない。


「チッ、こいつどこまで生意気な奴だな。でも残念だなぁ。これからその汚っねぇ手で隅々まで触られるんだよぉ!!」

「やだやだやだっ!!! やめてよ! 私はまだーー」


 冒険者の手がクラリスの尻に触れようとしたその時。


「やれやれ。キナ臭いと思ったけどまさかここまでとはなぁ」


 男が急に横に吹き飛ばされた。それはもう凄い勢いで。あまりの勢いに迷宮の壁にめり込んだ。


「な、なんだてめぇ!?」


 現れた男はその問いに不適な笑みを浮かべた。


「通りすがりのモブってやつさ」


 クラリスは体が思うように動かない中、必死に首を動かして何が起きたのか確認しようとする。


 そして見た。彼女の視線の先にはまたいつぞやのパッとしない男モブががそこには立っていた。




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