第7話 モブ・イン・ダンジョン②


「チッ、こいつどこまで生意気な奴だな。でも残念だなぁ。これからその汚っねぇ手で隅々まで触られるんだよぉ!!」

「やだやだやだっ!!! やめてよ! 私はまだーー」


 なんということでしょう。

 悲鳴を聞きつけ迷宮の入口に戻ると、負けヒロインちゃんことクラリス・アルケイディアが荒くれ冒険者達に乱暴されそうになっているじゃありませんか。


 これ不味いよなぁ。


 一縷の望みにかけて辺りを見回してみるが原作ゲームにおける主人公君の姿は見当たらない。

 そもそも原作ゲームを隅から隅までプレイした僕ですら知らない状況だ。


 つまるところ、ここは僕が助けるほかないということだ。


「ゲヘヘ、ほんといい体してんよなぁ」


 冒険者の一人が堪えきれなくなったのか遂にうつ伏せになって倒れているクラリスの下半身に手を伸ばした。


 あ、これはいけない。 

 クラリスは必死に逃げようとしているが体が思うように動いていない。


 このままでは夢と希望に溢れるファンタジーから18禁の鬱エロゲーとなってしまう。それは非常にいけない。


「よっと!」


 慌てて彼らの間に体を滑り込ませ、ついでに不埒漢に刀を鞘に納めたまま叩きつけた。


 ドガアアアン!!!


 あ、やべ。やりすぎた。

 レベルアップにより向上した身体能力で力任せにしたせいか、冒険者の一人は壁にめり込み気絶していた。


「やれやれ。キナ臭いと思ったけどまさかここまでとはなぁ」


「な、なんだてめぇ!?」


 その問いかけに僕の口端は思わずつり上がった。

 名乗るほどの名はない。何せ僕はモブですし。だから相も変わらず一欠片の自信を持って僕はこう言ってやるのだ。


「通りすがりのモブってやつさ」





 ◆



「あ、あんたは昨日の……?」

「あー……ヨロシクデス」

「なんでカタコトなのよ」


 そりゃ原作キャラそれもヒロインをいざ目の当たりするとどう反応すべきなのか分かりませんし。そもそもリッカメインヒロインが異常すぎるのだ。メインヒロイン様がモブなんかに絡むなよ。


「ま、ここは僕に任せてよ。なんなら後ろでティータイムとかしていいまである」


 なんだったら本とか読んでてもいい。

 しかし荒くれ冒険者達は僕の反応が心底気に食わなかったらしい。額に青筋を浮かべて盛大に舌打ちをかました。


「あぁん? なんだお前いきなり出てきやがって。ちっとばかし驚きはしたが状況分かってんのか?」

「そ、そうよっ! い、いくらあんたが強かったとしてもこの人数は……」


 フラフラと立ち上がったクラリスは震えた声で僕の袖を掴んだ。

 確かに状況だけ見れば不利だ。それも圧倒的に。まともに戦えるのは僕一人であり向こうは多勢に無勢。


「ギャハハハ! 女の前だからってかっこつけやがってよ! 何だったら俺らが使後にお前にも回してやろうか?」


 きっと目の前の冒険者粗大ゴミが言う通りにするのが賢い生き方なのだろう。 

 だがそれを僕は許容するわけにはいかない。


「それをすると世界が滅びかねないだろ馬鹿。後あれ。偉い人が言ってたけどデレは買えないんだよ」

「は……?」


 まぁ原作ヒロインのデレなんていらいないけど。リッカ含めて主人公君とよろしくやってほしい。ていうかあれ。そろそろ原作に無関係だけど僕にベタ惚れな美少女を登場させてほしい。

 え? そんなのいるわけない? くそが!! 控え目に言ってくそが!!


「こいつなに言ってるのかわけわかんねぇよ。じゃあ死ねよ」


 目の前の荒くれ冒険者達はもう話すことはないと腰に帯した剣を抜いた。


「そっちがな」


 重力圏内グラビティ・フィールド


「が、がぁ……!?」


 微かに滅紫色の空間が彼らを包み込んだ。

 観察眼で見たところ彼らのレベルは一五程度。原作ゲーム序盤であるこの時期にしては低くないが、それだけだ。


 モブとはいえカンスト近いレベルを誇る僕の敵ではない。


 魔術により展開された重力空間は容易に彼らの自由を奪い取った。

 彼らは今、自分の体を支えるのに必死で指一本動かすことが出来ないだろう。

 本来は行動阻害の魔術だがレベル差が大きいと制圧魔術へと早変わりする。


「更に仕上げっと」


 腰に据えた刀に手を添える。


 一ノ太刀 重雷おもいかずち



 重力圧により射出された超高速居合い。それはキンッと小気味良い音を鳴らし、荒くれ冒険者達の剣を真ん中から綺麗に叩き斬った。


「す、すご……」


 予想だにしなかった出来事なのか、クラリス含め彼らは呆然と立ち尽くしている。


 あれ? 僕なんかやっちゃいました?


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