第28話 再びモブ・イン・ダンジョン+おまけ付き②

 原作知識を駆使し、最短経路を突き進んだ僕らは異例の速さで迷宮最下層に辿り着いた。時間にして一時間程度だ。


「ようやく最下層に到着にゃー」


「ぜぇーぜぇー……目茶苦茶疲れたけどね。あー全力疾走しすぎて口のなかが少し血の味がする」


「私もちょっと限界……」


 クラリスとリッカは息も絶え絶えにボヤいた。ニャルメアは全然余裕そうだけど。流石、冒険者の中でも指折りの実力者なだけはある。死線デッドラインの二つ名は伊達じゃないか。


「さてと」


 以前この迷宮に潜った時に辿り着いた最下層。ざっと見渡した感じ大きい変化は無さそうだ。

 だが僕の記憶が正しければこの迷宮はされている。


 そしてこの最下層の更に奥。以前は姿形もなかったはずだが、そこに邪神を降臨するための地下神殿が出現しているはずだ。


 事実、以前潜った時と比べ現迷宮は最下層までルートが変更されていた。

 再編後の迷宮の造りは僕が前世でプレイしたゲームどおりであり、そのお陰もあり最短距離で迷宮を突き進むことが出来た。

 彼女らには言えないが隠し道等を知っていたのはそういうカラクリだ。


「ーー来るにゃ」


 ニャルメアが静かに呟いた。

 空気がピリついた。リッカとクラリスもそれを感じ取っているようで神妙な顔つきだ。


 当然、最下層であれば階層主が存在する。

 階層主は以前倒したとしても時間を置けば、例外を覗き必ず復活するのだ。


『qooooooooooooooooooooooooooo!!!!!』


「わ!?」

「ちょっと! なになに!?」


 頭上より漆黒の巨塊が勢いよく墜落し、それにリッカとクラリスは悲鳴を上げた。


 頭上より降り立つは燃える三眼と黒翼を備えた異形の人姿。極太の触手らしきものが体のいたるところから蠢かせる異形の化物。明らかにこの迷宮のボスだが、どうみても見覚えのある姿形だった。以前僕が倒した階層主と寸分すら違わない。


 使い回しかよ。

 一応サブイベントの中ボスみたいなわけだし、新規ボスを出してもいいと思うけど、この世界にそんなことを要求するのも酷か。


 とりあえず鑑定眼を発動させる。


 闇をさまようもの:Lv.40


 うん、名前も全く一緒だね。しいていうなら申し訳程度にレベルが上がっている程度だ。


『qooooooo……』


「あちらさんはやる気満々みたいにゃ。モブ、どうするにゃ? あれだったら私がーー」


 ニャルメアは懐から武器を取り出そうするが、片手を前に突き出し制止させた。


「アンタの出番はこの先です。ここは僕が速攻で片付けますよ」


 そう言い腰に差した刀に手をかけ前に一歩踏み込んだ。一瞬で終わらす。


 一ノ太刀 重雷おもいかずち


 魔術に生成された重力圧により高速射出された居合い。そして直撃の瞬間、その刀身に更に重力圧をかける。そうして繰り出される刃はいかなる首も切り落とす必殺の一撃と化す。


 斬ッッッッッッ!!!!!!!


「悪いね。こんなところで立ち止まっている暇なんてないだよ」


 かくして階層主は首を横に一刀両断された。切断されと知覚すら出来ずに絶命してしまった。


「ヒュー! 凄いにゃ!」


「やるねぇ。流石モブ君!」


「アンタほんとに半端ないわね」


 階層主が消滅すると奥のほうで異変が発生した。薄暗い光を放ったかと思えば、悪趣味にしか思えない触手が埋め尽くすように彫られた黒門が出現した。


「いよいよだ。この先に異星の神がいる。引き返すなら今だけど皆準備はいい?」


 むろんここまで来たら引き返させるつもりは毛頭ない。

 とは言え敵は異星の神だ。逃げ出したくなるの仕方ない部分もある。何せ腐っても神なわけですし。

 しかし、彼女らは僕の言葉に臆すことなく力強く頷いた。


「じゃあ、さらっと運命を変えに行こうか」


 そう意気込み、僕は勢い良く門に手をかけた。


 ◆



 門をくぐり抜けて進んだ先は、迷宮内とは思えないほど開けた空間だった。暗黒の空が広がり、光などほとんどないはずなのに先まで見通せてしまう。そんな不可思議で不気味な場所。


 開けた空間の中心にはポツリと一つだけ小さな神殿があった。辺りにはそれ以外の建造物はおろか草木や岩すら存在しない。まるでこのちっぽけな神殿のために用意されているような場所だった。


 そして神殿の前には立ち塞がるように一つの人影。


「おや? また君に再開するとは思わなかったな。君、存外にしつこいんだな」


「あぁ、こっちもそう思うよ。


 その人影、シュグラオン・クトゥに僕はありったけの親愛と嫌味を込めてそう啖呵を切ってやった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る