第12話 謎の美少女が現れると大抵厄介事が舞い込んでくる②


「盗難事件?」

「その通りだモブリオン君」


 僕、モブ・モブリオンは何の因果か学園の学長室に呼び出されていた。


 なんで学長室なんかに落第ギリギリの落ちこぼれ生徒が呼び出されているかと言えばこれにも迷宮よりも深い理由がある。

 あ、退学とか留年ではないです。


 色々とあったというか若気の至りといいますかね。以前サブクエストの進行に必要なアイテムを学長室から拝借するため、忍び込みを実行した以来目をつけられているのだ。


 そんなわけもあってか、ことあるごとに呼びつけられ厄介事を押しつけられてしまう今日に至る。


 一応世界とかを救うためにやった行為なのでそろそろ勘弁して欲しい。ていうかギルドとかもそうだけど僕はこんなのばっかだな。おかしいだろ。


「うむその通りだ。先日、何者がこの部屋に忍び込んだらしい」


 学園長は厳かな視線を僕に向けた。まるで僕が犯人とでも言いたいようだ。


「いやいやいやいや僕じゃない僕じゃない! だいたい前のやつもキチンと元に戻してるじゃん!」


 ほんとそろそろ許してほしい。

 ていうか威圧感半端ないんですけど。アンタもう齢八○を越えてるだろ。その胸板とかどうなってんだよ。山脈かよ。

 ちなみに学園長はよくある美少女とかではないのであしからず。筋骨隆々の老爺だ。


「あてが外れたか。しかしそうなるとちと困ったとことになったのぅ」

「もう少し生徒を信じるべきだと思うですけど。まぁいいや。ちょい盗品リストを拝借」


 しかし犯人と疑われたことは癪だが盗まれたものは気にはなる。勝手に机の上に置かれたリストを奪いとりペラペラとめくった。


「あれ。盗品の中にあるこれって」

「ふむ、やはりそれが気になるか」


 学園長は僕の反応を見て確信したように頷いた。


 そりゃまぁ。

 盗品リスト見ているうちにとある項目が目に止まった。そしてあることを思い出した。


 異星の瞳。


 異星の神、つまりは僕の前世における邪神を呼び出すための魔術道具マジックアイテムだ。


 そして悲しいことだが、今回の盗難事件は選択によって世界を滅ぼしかねないサブクエストに繋がるものだ。


 更に言えば先日の迷宮の件もこのアイテムに関連するものだろう。前世でプレイした時、各地でが異形の魔物が出現しているみたいな説明をされた記憶がある。


「確認したいんですけどこの学園にアリス・クトゥって生徒はいます?」

「ふむ、もちろんアリス嬢はこの学園の生徒じゃが。それがどうかしたかの?」

「いえ。こっちの話なんでお気になさらず」


 確信した。先日屋上で遭遇した黒髪美少女はアリス・クトゥその人だ。

 そして今回の事件の首謀者だったりする。まぁ正確には被害者みたいなもんだが。


 クトゥ家は落ち目の貴族だ。先代の残した莫大な借金が原因で廃嫡寸前の貧乏貴族。

 その状況を打破するためか追い詰められた末か。このままサブクエストが進行すれば、アリスの兄である当主は禁忌である邪神召喚に手を出すことになる。


 邪神召喚とはよく言ったものでハッキリ言えばクトゥルフ神話だ。この世界観でクトゥルフとか本当にやりたい放題だろ。


 邪神召喚には件の盗品と生贄が必要となる。そしてその生贄となるのがアリスだ。


 最終的には主人公との思い出を胸にしまい自決して世界を守るというオチという。このゲーム内でも屈指の鬱イベントであり、彼女の救済を求めるもの少なくない。


 ん?


 待てよ待てよ。確かこのイベントの始まりは屋上だったような。

 まさか僕がトリガーとかになってないよね?


 あっはっはー! まさかなー!


「おやモブリオン君。急に後ろに向いてどこにいくつもりかの?」

「いえ所要の腹痛を思い出しまして。探さないでください、ほんとマジで」


 とりあえず僕は嫌な予感がしてならないので学園室から飛び出すように逃げ出した。



 ◆



 そう思っていた時期が僕にもありました。

 僕の砂糖菓子のように甘くて淡い期待は翌日に打ち砕かれることとなった。


「今日は風が心地いいわね」


 学園屋上にて惰眠を貪っていると、再び件の人物アリス・クトゥと再開することとなる。


 報告します。いや誰に報告するわけでもないけど。やっぱり僕がサブクエストのトリガーになっているようです。こんちくしょうが。







◆◆◆


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