第13話 謎の美少女が現れると大抵厄介事が舞い込んでくる③


 学園屋上。本日も雲一つない晴天なり晴天なり。

 学園長に呼び出された翌日。僕は再び屋上にてモラトリアムを謳歌していた。

 春過ぎにしては風がやや強いがそれもまた一種のスパイスと言えるだろう。


 しかし、しかしだ。そんな僕の至上至福空間に今日は招かるざる客がいた。


「今日は風が心地いいわね」


 は風をその身に受け心地よさそうに微笑んだ。

 黒髪が風になびかされた髪を抑えた立姿は高名な画家が描いた絵画のようにすら思える。

 有り体に言えば僕は不覚にも見惚れてしまったわけだ。


 件の人物アリス・クトゥは再び屋上に足を運びに来ていた。


 どうにもこうにもやはり僕がサブクエストのトリガーになってしまったようだ。藁にも縋るような思いで辺りを見回してみるがやはり主人公君の姿は見当たらない。お前は本当に肝心な時にいねぇな。


 僕の記憶が正しければこの屋上で彼女と会話を繰り返すことがサブクエスト発生のトリガーだったはずだ。もう既に彼女とはここで二回会話しているわけだし、学園長室から異星の瞳が盗難されている件も鑑みればまずサブクエストが進行していると考えて間違いないだろう。


 しかしどうするよこれ。原作のまま進行するとしたら、彼女は最終的に僕との思い出を胸に自決することになるんですがそれは。あまりにも不憫すぎるだろそれ。


 そもそも自決する彼女を見捨てていいのかという問題もある。しかし原作のとおりに進行しないと世界が滅びかねないわけでして。うむむ。


「どうしたのかしらモブリオン君。あんまり間抜け面を晒すとーー」


 思案に耽る僕に何を思ったのか彼女は覗き込むように顔を近づけてきた。目と鼻の先に彼女の人形にように端正かつ赤みのかかった顔がある。


 まるでラブコメの一幕だ。


 え、なに。なになんなの。僕のこと好きなの?


「――人間として認識しづらいわ」


 でもこいつ目茶苦茶毒舌なんだよなぁ。


 一部界隈ではご褒美ともてはやされていたし、実際にプレイした時も『たまにはこういう女子もいいよね』とかアホなことをボンヤリと考えていた。

 しかし、いざ自分がその毒舌を直接受ける身になると中々にキツいものがある。


「い、いやぁ」

「その優柔不断そうな態度、今後の貴方の人生を表しているみたいね」


 ひでぇ。

 言って良いことと悪いことがあるだろ。本当のことでもさ。


「それで今日はどうしたのさ」

「別に。私が行きたいところにたまたま貴方がいただけよ。自意識過剰で気持ち悪いわ」


 なにその無駄に攻撃力の高いツンデレ。デレが少なすぎてヤバい。原作知識のない僕じゃなきゃ心折れてるぞ。

 しかしそう考えると前知識なしでこれを乗り越えた原作主人公は改めてすごいな。もちろんゲームの話ね。


 彼女は言いたいことを言って満足したのか、懐から本を取り出し地面に腰を下ろした。わざわざ僕の隣に。前世含めてあんまり女の子に慣れてないので止めて欲しい。


 彼女はそんな僕の哀れな心境など知るわけもなく、興味なさそうに本のページをめくり始めた。



 ◆



 アリスが本を読みだして少し時間が経った頃。時間にしたら一時間程度だ。

 彼女はパタンと音がするぐらいの勢いで勢い良く本を閉じた。そして僕に向けてとんでもないことを言い放った。


「私、パフェが食べたいわ」

「はい?」


 はい??????????????



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