第9話 モブ・イン・ダンジョン④


「meeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!! 」


 薄暗い迷宮の中、空間を埋め尽くさんばかりの黒山羊達が咆哮を上げた。

 しかも彼らは単なる羊ではない。多口多足というあまりも異形な特徴を持ち合わせていた。


『コレナラ、オマエ、コワクナイ』


 彼らを呼び出した冒険者は勝利を確信しているのか、何とも満ち足りた表情をしていた。


「もう、もう終わりよ……」


 負けヒロインことクラリス・アルケイディアは絶望したように地面にへたり込んでいる。


 対して僕は。

 対して僕、モブ・モブリオンは心の底から面倒臭そうという表情を浮かべていた。


「なんでこの状況でその表情!?」


 クラリスは驚いているが、だってこれなぁ。

 これ絶対サブクエですもの。しかも面倒臭いタイプの。無駄に魔物のデザインとか凝ってるし。

 クッソ巻き込まれた。しかも厄介なことに原作ゲームにはないやつだ。


 つまりは予測不可能な事態であり、これを無視したら何が起きるか分からないということだ。更に言えばこれを解決したところで全てが終わらない可能性すらある。また別のサブクエに繋がることすら有り得るのだ。

 そうだね糞だね。


「あーくそなんでこうも厄介事ばっかり舞い込んでくるかなぁ」


 後頭部をやるせなさに任せてボリボリと掻しむしった。ここ最近予測不可能な事態トラブルが多すぎだ。メインヒロインリッカは何故か絡んでくるし、原作にはないことに巻き込まれるし、リッカは無駄に絡んでくるし。


「めんどくさいなぁ、もう帰りたいなぁ」


 そうぼやいたりしてみるが問題は解決してはくれない。こんなの無駄だとしてもぼやきたくもなるわ。

 もうなにもかも面倒だ。目の前の敵を相手するのもそうだし、それにより今後起きてしまうであろうサブクエも面倒だ。

 そしてなにより。僕が一撃必殺の単体技しか脳がないと考えている、そのおめでたさが一番面倒で腹ただしい。


 目の前の阿呆にわからせてやるべく刀を構える。


『テイコウスル? アワレ! アワレ! アワレ! ソノミ、ワレラガ神二ササゲルベシ!!』

「うるせーな。あ、その場を動かないことを推奨するよ」

『ナニヲイッテイル? アタマガ、オカシクナッタカ』


 せっかく親切丁寧に警告してあげたのに向こうはまるで聞くつもりがないらしい。ならもうお構いなしだ。目にもの見せてやる。


「警告はしたからね」


 三ノ太刀 黒死線


 計五撃。

 その刀より放たれた重力斬撃はまるで張り巡らされた蜘蛛の糸のよう。それら縦横無尽に空間を走った。


『へ……?』


 重力圧により切断力を増したそれは容易に黒い山羊達を細切れにした。ついでに冒険者は僕の警告を無視したのか髪の毛が凄惨な感じで刈り取られていた。


「それで? まだやる?」


 今、僕は大層に腹ただしいドヤ顔をかましていることだろう。はたから見たら痛々しいこと間違いなし。でもいいのだ。滅茶苦茶気分いいし。ねぇねぇ今どんな気持ち?


「あ、アンタそんなに強かったのね……」


 僕の後ろではクラリスが愕然としていた。いいぞ、もっと褒めてくれ。モブだけどこう見えて僕は褒められて伸びるタイプだからな。


『ソンナ、バカナ……有り得ない有り得ない有り得ない!!!!!』

「あ、片言が消えてる。演技する余裕なくなったのかな」

「それはスルーしてやりなさいよ」


 そんなこと言われましても。大抵こういうのってキャラ作りのための演技ですしおすし。

 しかしこの子いいツッコミするよね。流石、僕の前世でご神体までつくられただけはある。


『イ、イイキニナルナヨ!! イズレ、ワレラガ神ガ、オマエヲーー』

「あーもうそういいのいいんで」


 もう面倒臭くなってきたので、僕は刀の束を頭に力一杯ぶちこんだ。

 なんか無駄にカタコトで聞き取りにくいし。

 聞き慣れすぎた捨て台詞だ。たいてい皆こう言うんだよね。

 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る