第5話 嫌な兆候
「はぁ~やっぱり入らなきゃ駄目かなぁ」
場所変わり冒険者ギルドマスター部屋前。僕はそのあまりにも重厚な扉を前に立ち往生していた。帰りたい。帰りたいのは山々だが、これが世界崩壊に関わるサブクエスト関連であれば無視するわけにもいない。
ええぃままよ!!
「おぅようやく来たか。待ちかねていたぜぇこの糞ボンクラがよぉ」
意を決してマスター室に入ると、気だるそうに椅子にもたれ掛かり足を不躾に机の上に乗せたギルドマスターがいた。
なんというか古き良きヤンキーって感じだ。根は悪い人じゃないんだけど、正直に言ってちょっと苦手なのでもう帰りたい。
「随分なご挨拶ですね。それで何の用ですか?」
僕の質問にギルドマスターはそれはそれは深い溜め息を返した。なんぞ?
「お前よぉギルドに顔を出さなすぎだかんな。お前のせいで仕事がたまってアタシがどれだけ大変か分かってんのか?」
そんなこと言われましても。
「いやぁ……そのギルドの依頼を受けるかどうか原則的に任意というか自由意思的なサムシングのような」
大事なのはどうあれ自分の意思を示すことだ。ここで流されてはいけない。ビビるな。これ以上働きたくないとかましてやれ。
「あ?」
「すいませんしたっ」
怖い怖い。とにかく怖い。一言しか喋ってないのにおしっこチビれそうなんですけど。ていうか少しだけチビった。
「まぁいいや。お前を呼んだのは他でもない。ちょっくら最近出現した迷宮に潜って調査してこいよ」
はい。十中八九サブクエです。本当にありがとうございました。
最新の迷宮と聞き、僕は思わず眉をひそめた。
基本的に迷宮は古代から存在するものであり、突然と出現することはない。ただし物事には必ず例外が存在し、それがサブクエ関連の迷宮だ。
追加アップデートやダウンロードコンテンツ(有料)により設定とかをガン無視で無理矢理に増やされた迷宮。
それらはゲームが現実化したことによる影響なのか、ある一定時期もしくはサブクエストに該当する事象が進行した際に突如と出現する。本当に突如としてだ。昨日まで何もなかったはずな場所にいきなり現れるのだ。
「いや僕も今はそれなりに忙しいんですがねぇ……」
正直、今は以前とは違い原作ゲームの本編が開始してしまっている。あまり主人公達から目を離したくないし、そもそもサブクエストにリソースを割きたくもないのが本音だ。
……そろそろ調査ぐらいならギルドの人間か主人公君がやってくれないかなぁ。
「分かってんよ。だから割り振るのは最低限にしてるじゃねぇか。これじゃテメェになんであのランクにしてるか分からねぇよ」
「いや僕だってなりたくてなったわけじゃないんですけど」
どうぞどうぞ。だったら早急に迅速に可及的速やかに降格させて欲しい。何だったらニランクぐらい下げて貰ってもいいくらいだ。
「阿呆が。今更降りられるわけもねぇだろ?」
チッとものっそい露骨に聞こえるぐらいの舌打ちをされた。そこまで露骨なのもいかがなものか。
ギルドに登録された冒険者はその実績や実力によりF~Aのランクに振り分けられる。
いや僕もあのランクになりたかったわけじゃないんだよ。この世界で生き残るべく原作知識を駆使しまくっていた頃。ひょんな事からギルドに目をつけられて、いつの間にかこの有り様である。一時の気の迷いで了承はしたがそろそろ勘弁して欲しい。
「ま、とにかく迷宮調査頼んだからな」
ギルドマスターはそう言うと問答無用と言わんばかりに、僕を部屋から叩き出してしまった。しかも鍵まで閉めやがった。
「まじかこいつ……」
はぁ、やっぱりやるしかないかなぁ。
まぁこの手の迷宮関連を僕に頼みたい気持ちも分からないでもない。突然と出現する迷宮は往々にして出現する魔物のレベルが高かったり、初見殺しのトラップが多い傾向にあった。
しかし、原作知識がある僕はそれを回避出来るため何かと重宝されているきらいがある。
そのためか僕の表向きのランクはB。
だがその実はその例外に位置する数少ない存在。この世界に片手数える程しか存在しないSランクだったりするのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます