第39話 後日談

 アリス・クトゥとの目まぐるしい日々が落ち着きを見せ始めた頃、僕は冒険者ギルドに呼び出されていた。


 冒険者ギルド内に併設された酒場の奥。

 僕はそこの席に若干つまらなそうにするニャルメア・ナイトメアと同席していた。お前は受付嬢だろ。なにサボってんだ。働け?


 そんな感じで内心ではボロクソにこき下ろしているわけだが、約束は約束だ。アリス・クトゥの救出を手伝う条件で僕は彼女の質問に可能な限り答えなければならない。

 まぁもうこの際だ。聞かれたことは正直ベースにキチンと答えるつもりだ。


 そしていくつかの質問を受け答えをすること三○分程度。ニャルメアは聞きたいことを聞き終えたのか、満足そうに一息ついた。


「まさかモブが未来予知なんて能力を持っているなんてにゃぁ」


 まぁなんかそういうことになった。


 当然ながら僕にそんな便利能力は存在しない。

 だが原作知識なんていう意味不明な話をしたところで理解を得られるとも思えない。しかもそれがテレビゲームなら尚更だ。

 嘘をつくわけにもいかないわけでして。とりあえず適当に取り繕いながら説明していたら、いつの間にかこうなっていた。てへぺろ。


 まぁ、あながち間違いでもないしもうこれでいっか。


「持っていたが正確だけどね」


 とりあえず僕はャルメアの好意的な解釈に便乗することにした。拙者、便乗属性に候。


 本当に予知能力だったら良かったのにね。ちくしょう僕も『た、大変です!危険が迫っています!!』とか未来を予知して仲間とかを窮地から救ってみてぇよぉ。

 しかし悲しいことにその実態は理想とは大きくかけ離れている。しかも最近にいたっては原作通りに事が進まないことが多くなってきたし。特にサブクエスト関連が顕著だ。


「ま、聞きたいことは聞けたし今回の事はこれで良しとしてやるにゃ」


 ニャルメアは聞き終えたとほざいたのに何故かニヨニヨと口をωにしながら意味深に僕を見つめてきた。な、なんすか。


「しかしモブは今後とも厄介事に巻き込まれていきそうだにゃ。あ、ちなみに私の勘は良く当たるにゃ」


 うへぇ、嫌なこと言うなぁ。

 でもわりとありそうなのが全く否定できない。原作にはあまり関わらず慎ましく質素に生きようと思ってたら、いつの間にか邪神と殴り合っているわけだし。

 なんでだよ。もうマジ無理リスカしよ。


「あ、そういえばまたギルマスがなんか呼んでたにゃ」


 えー。またこのパターン?


 ◆



「Sランク辞めます」


 結論から述べよ。そう育てられたのでギルドマスター室に突撃した僕は自分の心が思うままに従った。


「何言ってんだ阿呆。今さら辞められるわけねーだろ」


 対するギルドマスターは椅子に深く腰をかけつつ、机の上にぞんざいに両足を放り投げていた。見た目だけはクールビューティーという表現が似合う美女なのがまた酷い。単なるレディースヤンキーにしか見えないんですけど。


 そんな彼女は僕の言葉を聞くとほんの少し眉間にしわを寄せて、聞こえないぐらいの小さい舌打ちをした。ほんとにクソヤンキーだな。ドンキとかにいそう。ここ異世界だからドンキないけど。


 しかし僕にも譲れないものがある。ここで引き下がるわけにはいかない。


「いやいや今回の報酬でということで」


「尚更無理だっつーの。なんで功績上げた奴を辞めさせるんだよ。筋が通らねーだろ」


 クソッ。ヤンキーの癖にまともなこと言いやがって。


「それに辞めないほうが多分いいぞ」


「はい?」


 何言ってんだこいつ。Sランクなんて百害あって一利なしだろうに。なったら最後。ほぼ名誉職なのにクソ程余計で厄介で死にかける依頼を押しつけられる。

 報酬は悪くないけど使う宛も暇もあんまりない。貴族とかになりたいわけでもないですしおすし。


「今回の件は何かと問題がありすぎでな。件のアリス・クトゥなんだが保護観察処分みたいな状況なんだよ。嬢ちゃんを守りたいなら現状維持が一番だろうな。」


「うっ」


 ギルマスは僕の露骨な表情を見て深々とため息を吐いた。


「仕方ねーだろ? それだけ異星の神案件はやべーんだよ。それに一時的とはいえ依代になっていたんだろ?」


 実際のところ彼女に依代になったことによる影響がまったく無かったわけではない。それを危険視したり実験体として欲しがる機関等は少なくない。

 そこで僕の登場というわけだ。非公式とはいえアリスをギルド最高ランクの管理下に置けば、並みの機関や権力程度ではおいそれと手は出せなくなる。何それマジで辞められないじゃん。ほとんこの異世界ってクソ。


「とはいえまったく報奨がないのもギルドの立場としては不味いンだ。金はやる」

  

 ギルドマスターは『だからこの話はこれで終わりだ』と言わんばかりに言い捨てた。お金で解決とか大人ってほんと汚い。


「ま、そういうわけで引き続き頼むかんな」


 ギルドマスター室での会話はこれで終了し、僕は放り投げられるように部屋から追い出された。


 そんなわけで僕は小金持ちになった。どうしよ別荘でも買うか。




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