第38話 シナリオを乗り越えて⑨


『Nya……aa……a……』


 一刀両断された邪神ニャルラトホテプは断末魔の叫びを上げて崩れ去っていった。

 綺麗さっぱりに消え去るとその中心にアリス・クトゥが出現した。顕現前と同様に布を一枚だけ纏っただけの姿だが外傷は無さそうだ。とりあえず思春期爆走中の男子には目の毒なのでどうにかして欲しい。


「私、生きてる……?」


 アリスはこの状況が信じられないのか震えるように呟いた。


「!? アリスちゃん危ない!?」


『Nyaaaaaaaaaaaーーーーー!!!!』


 しかし事は簡単に済まないらしい。

 最後の悪足掻きなのか。邪神ニャルラトホテプはその触手を手のように形作りアリスに向け伸ばす。


「しつこい。本当にしつこい。でももう無駄なんだなこれが」



 最大重力式抜刀ーー黒断

 それは大気を、空間すら歪める。そしてその歪みの果てにとある現象に酷似したものを引き起こす。それは大質量の星がその一生を終えるときに超新星爆発を起こし、超圧縮重力空間を作り出す現象。


 所謂つまりブラックホールである。


「飲み込まれちまいな」


『Nyaaaaaaaaaaaーーー!!』


 そして邪神ニャルラトホテプは黒断により生み出された簡易ブラックホールに飲み込まれ、跡形もなく消え去った。もうこれで最後だ。二度と出てくることはないだろう。


 アリスも怪我はなさそうだ。これでアリスが瀕死になっていたら本末転倒にほどがあるし。


 対してアリス本人は僕に向けて何か言葉をかけたいようだが、まだ状況を飲み込み切れていないらしい。彼女にしては珍しいが、可愛らしく口をまごつかせていた。


「モブ君……私は……」


 必死に頭の中をこねくり回した末に絞りだしたであろう言葉を、僕はわざと手を前に突きだし静止させた。


「いいって。僕がやりたくて勝手にやったことだ」


「おーい! モブくーーーん!!」


「騒がしいのが更に騒がしくなるし帰ろっか」


「……えぇ!」


 かくして本戦闘は終了した。


 これがどういう影響をもたらすかは残念ながらモブでしかない僕には分からない。

 更に世界を滅ぼす大惨事に発展するかもしれないし、何も起きないかもしれない。

 どれだけ頭を悩ましたところで、やはり何も分からないのだ。


 それでも分かることは一つだけある。僕達は決められた道標。逃れられないであろう運命を乗り越えたのである。




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