第31話 シナリオを乗り越えて②
「僕はこれから決められた運命を、シナリオを乗り越える!! だから、だから君は黙って僕に助けられろ!!」
前回のあらすじ。黒髪美少女の前にいきなり現れたと思えば、そんな重度の厨二病患者も真っ青な発言を恥ずかしげもなく宣言した僕。見る人が見れば悶絶必須間違いなし。
当然ながら、目の前の黒髪美少女アリス・クトゥは困惑した。
「助けられろって……い、異星の神よ? 一応そこら辺の
「ま、そこら辺はなんとかするよ」
アリスは不安そうだが幸いこちとらそこら辺はプロだ。原作知識を有しているが故にその手の相手は慣れている。もしかしたらこの世界で一番彼らに遭遇しているまである。
「なんとかするってそんな簡単に……」
「ま、安心してよ。実は僕って結構強いんだ」
アリスは僕の言葉に呆れたように呆然とした。
その反応も分からなくはないが、一応僕はモブとはいえカンスト目前のスーパーモブだ。少しは信頼して欲しいもんだね。まぁこの世界でレベルなんて概念を理解しているのは僕だけなので無理な話なんだけどさ。
「ちょっとちょっと勝手に盛り上がるのは構わないけどっ! 私達のことも忘れないでよねっ!!」
後ろに視線を向けるとツンデレ負けヒロインちゃんことクラリス・アルケイディアが逆なでした猫のように憤慨していた。そういえばいましたね。あんまりにも存在感がないから忘れていたわ。
「完全に二人の世界に入ってるにゃー 羨ましいにゃ青春真っ盛りにゃー」
「あ! アリスちゃんだー。やほー」
ニャルメアとリッカもそれに続いた。ほんとにこいつらは全く空気とか読まず
「こういう時に他の女の子を連れてくるとか本当に貴方はどうしようもないわね。しかも複数」
「いやぁこれにはやむ得ぬ事情がですね……」
だって勝手について来たし。いやニャルメアはお願いして来てもらっているし結局ダメか。
まぁ僕は単なるモブでしかないわけでして。そういうのはそこら辺の主人公様に頼んでほしい。
「貴方にそんなことを期待した私が馬鹿だったわ。女の子どころか人の心とかよく分からないものね」
そんな僕の様子を見て、アリスはまた呆れたように深い深いため息を吐いた。それはいい過ぎでしょ。そんな悲しみを背負った化物扱いされましても。女の子の気持ちが分からないのは本当だけど。
あぁ、でもやっぱりコイツはいつもそんな感じだよなぁ。
久しぶりというか一日ぶりのやりとりをして改めて実感した。やっぱりこいつは死なせたくない。
そう思ったところで僕は彼女にまだ確認していないことがある事実に気がついた。まずこれを確認しないことには何も始まらない。
「まぁアレコレ勝手に言ったわけだけど。そういえばまだ大事なことを聞いてないや」
「大事なこと?」
「そ。一番大事なことだーー君はどうして欲しい?」
他でもない君の君自身の意志。建前も遠慮も
純粋で丸裸なアリス・クトゥの意志。それを僕はまだ聞いていない。
アリスは僕を見てその瞳をパチクリとさせた。そして何を察したのか降参したかのように額に手をあて口端を釣り上げた。
「もう、そろそろ意識を保つのも限界なの……」
気がつけばアリスの体のそこら中から小さい触手のようなものが這い出ていた。これは異星の神の末端だろうか。きっと既に儀式は進行していたようだ。
アリスは何かを決意したように苦痛で歪ませた顔を上げた。
「今更こんなことを言うのは厚顔無恥で不躾だと思うのだけれど」
「何を今更。君の無茶苦茶なんていつものことだろうに」
本当に今更だ。この一週間程度、彼女には随分と振り回された。
だから今更遠慮されるほうが気持ち悪い。むしろいつもどおりにしてほしいまである。
彼女は僕の軽口を聞いて安堵したように頬を緩める。そして絞り出すようにその言葉を吐き出した。
「ーーモブ君、私を助けて」
「ーーおう、任せてよ」
僕はそんな彼女に刀を前に付き出して、ニカッとした笑みを返した。
◆
瞬間、アリスは後ろから這い出た闇色触手群に呑まれた。
闇触手は留まることなく溢れ出していく。アリスを取り込んだそれは、彼女の何倍にも膨れ上がっていき、最終的に漆黒の球体が形成された。
そこから出でしは神話的絶対者。恐れよ畏れよ。其はトリックスター、千の無貌、這い寄る混沌。
『Nyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!』
儀式はここに成立した。
ここに邪神ニャルラトホテプは顕現を果たした。
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