第33話 シナリオを乗り越えて④

「――ちょっと本気出しちゃうぞ」


 普段からは想像も出来ないほど真剣な表情でそう宣言したリッカ・ソレイユ。そして彼女は一切の容赦も出し惜しみもすることなく、今自分が放てる最大魔術は放った。


 サン・フォール。


 文字通り太陽を落とす一撃。恒星と見間違うほど巨大かつ超高温の火球は迷宮を揺るがしながら邪神を押しつぶした。


 しかしこれでは見掛け倒しもいいところだ。実際のところ大したダメージは期待できないだろう。

 現在は原作が四分の一ぐらい進んだ程度の時期だ。いくら彼女が想定よりも成長していたとしても、邪神とは埋めようもないレベル差があった。


「だからダメ押しだよね。アルケイディア!」


「ちょっと! 怖気がするからファミリーネームで呼ぶの止めてよね!!」


 えー。この状況でそういうこと言う?

 これだから原作ヒロイン様は特殊な思考回路をお持ちで困り者だ。だいたい僕はろくに異性慣れしてないわけで名前呼び名なんて、おいそれと出来るわけもない。


 したがって僕の次の言葉は決まっている。


「アルケイディア! アルケイディア! アルケイディア!」


「あっこの野郎っ!」


 クラリスは大層不満そうだが今はそれどころではない。


「そういうのいいから。はよ手筈どおりよろ」


「アンタほんと良い性格しているわよね。はいはい分かりましたよっ。やればいいんでしょやれば!」


 クラリスはぶつくさ言いつつも懐から薬品の入った試験管をいくつも取り出した。

 彼女は錬金術師。鋼の右腕こそ持たないが、異なる物質を合成し様々なものを作り出す特異な能力の持ち主だ。


即席錬金術クイック・クラフト!」


 彼女の両掌から光が迸った。創り出したのは両腕から零れ落ちるほどの数の筒だ。筒の中はニトログリセリンを珪藻土にしみ込ませたもの。

 まぁ簡単に言えば即席ダイナマイトなわけである。良い子はマネしちゃ駄目なわけだが、これをリッカの魔術に放り投げるとーー


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン


 更なる超火力を誇る爆発を引き起こすわけである。


『Nyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』


 これにはたまらず邪神様も悲鳴を上げた。

 悲鳴を上げる程度しかないのだろうが、有効打であることに間違いはない。


 しかしそこは流石邪神ニャルラトホテプ。太陽の如く灼熱に焼かれながらも触手群を僕らに向け放った。


 目にも止まらぬ迅さで迫りくる視界を埋め尽くさんばかりの触手群。何もしなければ串刺し間違いなし。あまりにも風通しの良い体で日常を過ごすはめになるだろう。


 普通であれば顔面蒼白するような状況だ。しかし僕の心は驚くほど冷静だった。

 この程度の状況は想定済み。だから僕はを呼んだのだ。


「ニャルさんいける?」


「モブ、誰にものを言ってるにゃ。むしろそっちこそ遅れるにゃよ?」


 迫り来る触手群に立ち向かうべく刀に手を伸ばす。そして同じく彼女もその腰に据えた刀に手を伸ばした。


 猫猫抜刀 黒死線


 三ノ太刀 黒死線


 二対の刀より繰り出された空間を余すことなく埋め尽くしていく超高速連斬撃。それらは迫りくる触手を余すことなく切り落としていく。


 同じ技名でも技量の差は一目瞭然だった。

 総合的な能力はおそらく僕のほうが上だろう。原作知識、高性能武器、カンスト目前まで突き詰めたレベル。僕にはそれらがあり、当然の話だ。

 しかし、彼女はその卓越した刀技のみでそれら全てに肉薄していた。相変わらずこの人は半端ないっすわ。死線デッドラインの二つ名は伊達じゃない。


「モブ! こっちはいいにゃっ! おみゃーは本体のほうをやるにゃっ!!」


「わーってるって!」


 駆ける。

 刀を鞘に納めつつ駆ける。邪神はその体躯を焼き尽くされ、頼みの触手もほとんどが切り落とされた。遮るものはもう何も存在しない。


 一ノ太刀 重雷おもいかずち


 放つは必殺の一撃。階層主ですら屠った絶対の一撃。

 鞘から重力魔術により高速抜刀された刀身は如何なる名刀にも勝る。事実、この一撃を耐えるものなど僕の記憶上では存在しなかった。


 繰り出された斬撃は一片の淀みなく一直線に邪神の首を捉えた。

 そしていつもの如くその首をーー


 斬れ……ない!?


 一瞬。一秒にも満たない時間、僕の思考は凍結フリーズした。

 目の前であまりにも理解しがたい事象が引き起こされたからだ。驚くべきことに僕の刀は邪神の首半分程度のところで静止していたのだ。






◆◆◆



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