第35話 シナリオを乗り越えて⑥
「グフッ……」
「モブ!?」
「モブ君!?」
不味ったな。非常に不味ったな。口の中とか凄い血の味がする。後、レモンの味もほのかにする。ごめんこれは嘘。
「く、そがっ」
意識が朦朧とする中、なけなしの気力を振り絞しぼる。刀を斜めに振り下ろし、腹に突き刺さった触手を切り落とした。
「も、モブ!? 大丈夫なの!?」
「僕はいいから! 向こうに集中しろ!!」
クラリスが駆け寄ろうとしてくるが慌てて制止させた。今はそんなことをしている場合ではない。目の前の脅威は依然として存在しているのだから。
『Nyaaaaaaa……』
敵さん、邪神ニャルラトホテプは依然としてその力が衰える様子は見受けられない。もっと具体的にいうと自動回復のせいでほぼノーダメージ。なにそれクソゲーじゃん。
「どうしたもんかね……」
正直、八方塞がりだ。体力を回復されてしまう以上、攻略方法は一撃にて全てを決する他ない。しかし僕らのこのメンツ、明らかに火力不足だ。
僕は最近忘れかけてるが一応デバフ型。ニャルメアもその圧倒的な技量により戦闘を優位に進める技巧型。どちらも一撃必殺を信条とする火力型ではない。
リッカやクラリスは成長すれば芽はあるが、どのみち今は論外だ。
まじでどうしよう。
全くもって手がないわけではない。
だがそれにはどうしても時間が必要だ。それは戦闘という刹那の行動や判断により生死が別れる環境にて、あまりにも致命的と言えた。
「あーあんまり気が進まないけど仕方ないか。イヤだなぁ……やりたくないなぁ……」
この手は使いたくなかったが仕方ない。命あっての物種なわけですしおすし。
「モブ君……?」
リッカは僕のただならない雰囲気を感じとったのか、怪訝な表情を浮かべた。流石不本意ながら付き合いが長いだけはある。
よく分かってらっしゃる。
僕は意を決して大きく息を吸う。
「おーーーいクトゥーーー! 聞ーこーえーてーいーまーすーかー!!!」
「どうにも僕だけの力じゃどうにもならなくなった! 君の助けが必要だ!!」
「自分から勝手に助けに来てなに言ってんだ、という君の言い分はよーく分かる。だけど状況が状況だ」
「助けてーーー!!! アリスさーーーーーん!!!!!」
そして僕は何の恥ずかしげもなく、助けに来た女の子に命乞いをしたのだった。
◆
暗い暗い深淵の更に底。そこで私、アリス・クトゥの意識はまどろんでいた。
邪神ニャルラトホテプに取り込まれ同化していく中、外の状況はなんとなく把握出来ていた。
全く……本当にどうしようもない男だ。
一瞬でも格好良いと思った自分が情けない。
しかも初めての名前呼びがこれとか本当にふざけているのか。百年の恋も覚める。
本当になんなんたろうかこの男は。せっかく綺麗に締めたのにこんなぐだぐだな感じに混ぜ返してひっくり返して。
私だったら恥ずかしくて顔を向けられないけど。
それでも彼はそんな事を気にしない。
まるで一切の羞恥心すら持ち合わせていないのか、言葉を更に重ねていく。
「この際だから好き放題言うけどさー! 誰かがきっと助けてくれるなんて甘えだと思うんですよー!!」
状況はなんとなく把握している。腹を刺されたというのに随分とよく喋る。最初は心配したが、今は呆れのほうが強かった。
それにしてもなんて身勝手な言葉だ。そっちが勝手に助けに来ただけな上に、そもそもこっちは頼んでない。
それでも。それでも彼はそんな重々承知だと言わんばかりに言葉を続けていく。
「君が辛いのは重々承知だよ。だけどね、助かりたいなら自分で自分を助けようとしなきゃいけないんだ。自分で抗わないといけないんだ」
「誰か助けてくれなんて幻想にいつまですがってるんだよ!! そんなことあるわけない!! ヒーローなんていない……いや一人ぐらい存在している気もするけど、とにかくここにはいないんだ!!」
「だから! だから君自信で君を助けろ! 後、ついでに僕も助けてくれ!!!」
なんて酷い言葉だ。決して囚われの女の子、それも美少女にかける言葉ではない。しかし何故か心臓が疼くような言葉にも感じた。
そんな彼の言葉に私はーー
◆
僕、モブ・モブリオンは何の恥ずかしげもなく助けに来た女の子に逆に助けを求めるという、男らしさ皆無どころか虚数領域に全力で
もうね、リッカ達とか唖然として一言も発してくれないもの。文字通りドン引きって感じ。まぁいいんですよ。別に彼女達の好感度とか稼ぎたいわけじゃないですしおすし。
さて。
ひとしきり叫んでみたわけだが、さして反応があるわけでもない。むしろ叫んでいる間、邪神に襲われなかったのが奇跡でしかない。
駄目か?
やっぱり駄目か??
やっぱり駄目な感じですか???
万事休すか。そう思った時、
『N……a……a……a……?』
邪神ニャルラトホテプは錆びたブリキのようにぎこちなく動き悲鳴を上げた。まるで原因不明の事象により体の自由が利かない感じだ。
その姿を見て僕はあることを確信する。
「なんだ。キチンと届いているじゃんか」
ほっと胸を撫で下ろす。
僕の声は届いた。叫んだ内容はさておき、僕のどうしようもない言葉はキチンとアリス・クトゥに届いていたのだ。
◆◆◆
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