第51話 るーにいい考えがある!

 体育祭は赤ブロックの優勝で終わった。

 一人だけ青ブロックだった照日は、

「なりお兄ちゃんたちのクラスになりたかったなぁ」

 と不満を漏らしていた。短期間に何人も転校生が来たら不自然なので、それは仕方ない。学校に入っただけでも――本当にどうやったんだろう。




 そして全てが終わって、成生は海陽に呼び出された。

 人気の無い場所に一人で。


「なんだろう。シメられる? なんかやったかなぁ、俺」

 と、事情を知らない成生はちょっと不安。



 呼ばれた場所に行くと、

「ナリオくん……」

 ややうつむき加減で、表情の硬い海陽がいた。なんだかいつもと雰囲気が違うのは、さすがの成生でも分かる。


「あ、あの……今日、優勝できてよかったね」

「だね。海陽さんのお陰だよ。海陽さんが特訓してくれたから、俺も最後まで走り切れたんだと思う。ありがとう」

「いいよ。今日はどうしても勝ちたかったから」

「俺も。勝ちたいって思った体育祭は今回が初めてだったし、やる気出せたのも初めてだったよ」

「それでね。ナリオくんに言いたいことがあるんだ」

「なに? 俺、なんかやってしまった?」

「そうじゃなくて、さ……。あのね……」


 少しの間黙って固まった海陽は、突然成生の目を見て、

「好き」

「え?」

「ナリオくんのことが好きだったんだ。今日勝ったら告白するって、決めてた。だから今日は勝ちたかったんだ」

「…………ん?」

 突然のことに、成生は事態を飲み込むのに時間がかかった。



 リリアの友達として知り合った海陽が今、成生に告白している。

 そんな気配有ったか?

 ……ああ、距離感近かったのは、友だちだからいうことじゃなかったのか。

 好意を持ってるリリアが距離感を縮めようとしてなかなかやれなかったが、それをあっさりやっていたのが海陽だったのだ。


 海陽は面倒見のいいお姉さん。まるでリリアみたいだ。

 でも、なんだか目の離せない。そう、リリアのように。

 たまに変なことを言い出す。リリアっぽい。

 だけど、一緒にいると落ち着ける。リリアといるような感じだ。


 見た目が全く違うのに、リリアみたいじゃないか!

 リリアは相性を考えて、じいさんのカンで選ばれたという話だ。

 つまり、リリアと雰囲気が似ている海陽は、成生と相性がいいのかもしれない。


 本物の彼女が出来ればリリアは身を引くと、風呂で照日が言っていた。

 好き好きリミッターが無く、どこまでも想いが強くなっているリリアを止めるには、本物の彼女を作るしかない。

 嫉妬心が強くなって暴走の危険性があるリリアを止めるためにも。


 目の前にそのチャンスが、やってきた。


 思い返せば、海陽に勉強を教えたり、リリアの代わりだって言って泊まりに来たり、水泳を教えてもらったり、一緒にリリアの服を選んだり、一緒にウチで夏休みの宿題を……自分の分は終わってたから、一緒と言えるかどうか分からないが。それに一緒に体育祭の特訓をしたり……。


 いつもそばには、リリアか海陽がいた。

 どちらかと言えばネガティブ思考な自分を引っ張ってくれたのは……いつも前向きで元気な海陽。


 もう、答えは決まってるじゃないか!

 リリアには後ろめたい気持ちが有るが、これは彼女のため。

 リリアが身を引いたらどうなるかは分からない。でも、ここで決めたいとダメだろう。

(楽しかったよ、リリアさん。そして、ごめん……)


「俺で良ければ……お願いします」

 成生の返事に、海陽の表情はパッと明るくなった。


「やったぁ!!」

 と海陽は成生に抱きついたが、ハッとなってすぐに距離を取った。


「? つい抱きついたのが恥ずかしかった?」

 顔の赤っかな海陽を見て、成生は言う。


「そうじゃなくて……体育祭のあとだから、わたし汗くさいんじゃないかと思って……」

「そんなこと……海陽さんならいい匂いだよ。もし臭かったとしても、それはご褒美だから」

「…………ばか」

 唇をとがらせる海陽。その表情は、どこか嬉しそうだった。




 その頃。

 まだ校内にいたリリアは成生を待っていた。今、何が行われているかは知っている。

 そう、海陽から成生への告白。


 当初、結果を楽観視していたが、今ではどうなるか分からない。

 もし成生が海陽を選んだのなら、リリアは今後どうなってしまうのか……。

 それでもリリアは成生と居たい――そう思っていた。


「あっ……」


 リリアは何かが降りてきたような感覚がした。

「おめでとうございます……成生さん……」

 なんだか分からないが、そんな言葉が勝手に口から出てきた。


 この言葉が出たということは、海陽の告白は――。

 その結果を想像するだけで、言葉と同時に涙まで出てきた。身を引く機能を知らないリリアだが、なんとなく別れを感じていた。


「リリアお姉さま?」

 そんなリリアを心配そうに見上げる照日。


「私は……成生さんと別れないといけないのでしょうか」

「そうだね。なりお兄ちゃんは新たなステージに行っちゃったからねー」

「それでも……それでも私は成生さんと一緒に居たいです。成生さんは、私の初めての人だったから……別れたくありません。彼女じゃなくてもいいですから!」

 涙声で語るリリア。心の奥底からあふれ出る思いも、目からあふれ出る涙も、止まる気配がない。


(リリアお姉さま、重いなぁ……)

 物理的な意味ではない。


「だけどもう、なりお兄ちゃんにるーたちは必要……あっ!」

 何かを言いかけてやめた照日。


「るーにいい考えがある!」

 照日は完全に悪だくみを考えている時の顔つきだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る