第47話 一人二脚

 リリアと海陽みはるの姿が消えてから、成生は少し心配していた。しかし二人が戻ってくると、元の仲のいい二人に戻っていた。これで一安心。

 練習を再開する。


 スタート時はリリアと海陽が最初に右足を出す。海陽の右足と繋がっている成生が左足。


 出す足を二人が決めてからは、スタートはスムーズになった。海陽の言ってた通り、スタートしたらあとは勢いだ。そのまま次のこいぬにバトンを繋ぐように走るだけ――なのだが、どうしても終盤で失速する。何回やってもだ。


 脚は繋がったまま、座って三人休憩している。


「なんでだろうな」

「なぜでしょうね」

「並び方が悪いとか? わたしが真ん中にきたら?」

「海陽さん、背が低いから囚われた宇宙人みたいになっちゃうかもよ?」

「そんなことないもん! やってみる?」


 成生と海陽が入れ替わって、海陽が真ん中に来てみた。


 ――予想通り、三人の真ん中がへこんで、海陽が囚われた人みたいになってしまった。あと、背の低い海陽が横にいると、リリアの脚の長さが際立つ。

 このままでは、海陽が可哀想なことになる。


「やっぱり俺が真ん中でいいだろう?」

「うん……もどそっか」


 再び、成生と海陽の位置が入れ替わる。

「じゃあ、なんだろうな。原因は」

「直線はいいのですが、コーナー回っている時に失速していますよね?」

「それなら、歩幅変えてみる? もうちょっと短く」


 二人三脚系統のコツは最後まで走りきること。歩幅をムリに大きくしようとするより、小さして走りやすくするという作戦は、意外と有用なのである。



 ということで、もう一本走る。

 相変わらずスタートは順調だ。

 直線区間も問題は無い。

 終盤のコーナーに入っていくと、失速しだした。


 当初よりかなりスピードを落とした状態で、バトンを受け渡すテイクオーバーゾーンに入る。


 三人は足を止めた。

 次の走者であるこいぬは多少のミスは取り戻すと言っていたが、毎回起きるなら何か原因が有るはず。ミスなんて、無い方がいい。


「なんで?」

「私は成生さんに合わせて走っていますが」

「――俺が原因なような気がしてきたよ……」

 リリアと海陽に挟まれた成生がつぶやいた。


「え?」

「なぜでしょう」

 その言葉に、リリアと海陽が同時に成生を見る。


「俺が……二人に比べて劣ってるんだ」

 海陽は運動が得意で、身体能力が高い。

 リリアも体育の成績が悪くない。悪くないどころか、いい部類に入る。身体能力が高く設定されているのだろう。

 一方、成生は平均的レベル。ハッキリ言って、二人には負けてしまう。二人が合わせようとしてくれているが、確実に成生が足を引っ張っていると、今の走りで確信した。


「今のリリアさんの言葉でハッキリ分かったよ。俺は二人ほど足は速くない。それでもいつもより速いなーとは、最初だけ思ってた。でも、いつもより速く走ってるから、限界を超えてる俺が最後まで持たないんだと思う」

「それは……うすうす感じてたよ。ナリオくん、走り終わった後がすっごくキツそうだもん。毎回。だけど、ナリオくんがんばっててすごいと思ったから、負担にならないように歩幅調整しようとしたり、ペース落とそうとしたりしてたけど、ナリオくん突き進んじゃうから」

「俺も二人の足を引っ張らないように速く走らなきゃって思ってたからね。俺は全力で行きたい。もっと速く」

「でも最後まで持たないんでしょ? やっぱりペース落とす?」

「それじゃあ負けちゃうよ」

「じゃあ、どうすればいいのさ!!」

 突然の海陽の大声に、成生は身体をビクッとさせた。


「ナリオくん言い訳ばっかり!! こんなんじゃ勝てないよ!! 今のナリオくん、すっごくカッコ悪い!」

 そう言うと、海陽はしゃがんで成生の脚とを結んでいたヒモをほどき始めた。


「どうするの?」

「知らない!! もう帰る!!」

 海陽はヒモをほどき終わると、校舎の方へ早足で歩いて行った。


「え? ちょっと? 海陽さん?」

 成生は声をかけたが海陽が振り返ることは無く、背中はどんどん小さくなっていく。


「……どうしますか? 成生さん」

「うーん……」


 やがて海陽の姿は見えなくなった。しかし成生はまだ、海陽が消えた方を向いている。


「二人で二人三脚の練習しますか? 私は成生さんがどのような状態でもセンサーで感じ取って合わせることが出来ますが」

「だけど、これは三人四脚だしなぁ……」


 結局、残りの一人の海陽と合わなかったら、意味が無い。

 現時点で心が合ってないが。


「では、新メンバーを探しますか? これなら三人四脚が出来ますが」


 ここで新メンバーを入れたとして、果たして上手く行くだろうか。


 それにしても、海陽があんなに怒ったことが有っただろうか。

 怒ってはたかれたことは何度か有ったが、本気ではなく軽く怒る程度。ここまで怒ったことは記憶に無い。

 なんで怒ったのかは分からない。だが、このまま別れるというのは気分がスッキリしないし、二度と関係が修復出来ない気がした。

 せっかく海陽と仲良くなってたのに、こんなお別れはイヤだ!


 やっぱり、今のメンバーで行きたい。

(俺と海陽さんとリリアさんの三人で!)


「俺、海陽さんを連れ戻しに行ってくる!」

 そう言うと、成生は海陽が消えた方向へと走り出した。


 そしてポツンと一人残されたリリア。

「私はどうすればいいのでしょう。一人二脚?」

 やってみたが、それは普通に走るだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る