第2話 謎のロボット研究所
狭い路地を抜けていくと、少し開けた場所に出てきた。
そこには地方都市の中心部で見るような白と思われるモルタル壁の小さな建物が一軒だけ建っていた。思われる、となったのは、その壁が黒ずみで老朽化が目立つからだ。それゆえ、非常に昭和レトロ感が漂っていた。
建物の中心には、上半分に大きなすりガラスがはめ込まれた茶色いアルミサッシの引き戸がある。これが木製の戸だったら、戦前の建物とかそんな感じが出てくるだろう。これなら昭和レトロでも、戦後の建物だ。
その戸にはめ込まれているすりガラスのせいで中はよく見えないが、明かりがぼんやりと見えていた。
中で何か動いている気配は無い。誰もいない?
「ここ……でいいのかな?」
ちょっと不安になるが他に建物は見当たらないし、ここで行き止まりのようだ。あの看板の矢印が間違っていないのであれば、この店に人造彼女がいるはずである。
しかし、この建物のどこにも看板は無く、何も書かれていない。なんの店かも分からない。
「ホントに大丈夫?」
成生は戸の引き手に手をかけたが、開けるのをためらってしまう。
ここが案内の先に有った唯一の建物。
しかし、ここで合っているかどうかは分からない。
だが、人造彼女が気になっている。
(確かめてみたい)
そんな気持ちが
成生はそっと、引き戸を開けた。
カララと軽い音を立て、戸が滑っていく。
成生と店内を隔てるものが無くなり、店内が見えてきた。
中は狭い空間で、入るとすぐにカウンターがあった。
そのカウンターの向こうには、スポーツ新聞を広げている店員らしき人物が座っているのが見える。新聞で隠れていて、姿はよく見えない。どういう人物かも分からない。
「お? ようやくお客さんが来たか」
スポーツ新聞の横からひょっこり顔を出したのは、眼鏡をかけた白髪の老人だった。なんだか、商店街にある店舗にいそうな感じの人だ。
「いやぁ、だぁーれも来ないから、女も男も彼氏の方に興味があるかと思っておったよ。もしかして人造彼氏を作らなきゃあいかんのかと思ったが、おまいさんは人造彼女に興味があるみたいだな」
やはりこの店で合っているようだと、成生はひと安心。
「さ、戸を閉めてくれ。外から見えてしまう」
「あ、はい」
成生は老人に言われるままに戸を閉めた。
老人はスポーツ新聞をたたんで机に置き、立ち上がった。背は小さめで、腰は曲がっている。だが、成生の方へ来る足取りは力強い。
「ようこそ、我がラボのショップへ」
老人は語る。
ラボ――ラボラトリーの略で研究所という意味だ。つまり、ここは研究所のお店である。
ショップということは、看板に書いていた人造彼女を売っているのだろうか。それは訊いてみないと分からない。
「あの……人造彼女って書いてましたけど、このラボは何を研究しているのですか?」
「ん? メイドロボの研究だよ」
「はいぃ? 彼女ロボじゃなくて?」
人造彼女から遠ざかった気がする。
――いや、もしかしたらメイドの人造彼女? それはアリだな。
「ロボット研究者なら、一度は憧れるだろう? メイドロボの開発には」
「はあ……」
そんな生返事をする成生は、ロボット研究者ではないただの高校生である。その気持ちが理解出来なかった。もし開発するなら、ロケットパンチやビームが出るロボットの方が開発したい気がする。
「それでメイドロボの開発を始めたのだが、研究開発の過程で一つの問題が浮き上がったのだよ」
「なんですか?」
「知識経験不足で、彼女たちは何も出来なかったのだよ。まず人としての行動もな。学習が足りなかったんだ。今時のAIだって、多くの学習をして結果を生み出している」
「ああ」
老人がAIに例えてくれたお陰で、言いたいことはなんとなく理解出来た。
「そこで、だ。これではメイドとして働かせられないと、学習の為に彼女型アンドロイドを開発したのだよ。その後のメイドロボ開発にも色々生かせると思ってな。姿形、知識、中身と色々な」
思いっきりが良すぎる気がするが、もはや何か言う気も起きない。
「そこでラボに来た君には、我がラボから彼女を選んで、知識と愛を
「というと?」
「簡単に言えば彼女の練習だな。その為の人造彼女だからな。おまいさんは彼氏の練習をするといい。どうせ彼女、いないのだろう?」
うるせえよ。
「本物の彼女が出来た時に、役立つかもしれんぞ?」
「彼女彼氏の練習かぁ……」
人造彼女はアンドロイドだから、一生彼女という訳にもいかない。アンドロイドしか愛せなくなったら、それはそれで危ない人だ。だから練習なのだろう。
この人造彼女がどれぐらいのレベルの完成度なのか見ていないので、本当に練習になるかどうか分からないが。
たまーにニュースで人間のようなロボットが出てきたりするが、ああいうちょっと不気味な感じのだったら……ホラーな日々が始まりそうだ。
人間と遜色ない完成度なら……女に慣れる練習になるかもしれない。
ま、それは実物を見てみないと分からない。メイドロボの研究開発者だ。四角いいかにもなロボットだとか、白黒時代の実写版鉄人28号だとかマグマ大使みたいなリベット丸出し感全開の彼女が出てくることもないだろう。そう信じたい。
それよりも、気になることがある。
「あの……お金は……」
成生はまだ高校生。生活費やおこづかいは多少有るが、そんなに余裕がある方でもない。
「なぁに。学習に協力してもらうのだから、取らんよ。基本無料さ。ただ、不定期に学習内容の確認やメンテナンスでラボへ彼女が来てもらう必要はある。それをやってくれればいい。データが取れればな」
成生は、
(無料ならいいかな?)
と思い始めた。
ロボット研究のお手伝いがタダで出来るなら、それも面白いかもしれないし、一人じゃなくなるなら寂しさも多少は紛れるかもしれない。
これが
もう、答えは決まった。
「分かりました。やります」
「そうかい。ありがとう。それじゃあ、店の奥に来てくれ。おまいさんのパートナーを選んでもらう」
「はい」
一体、どんな人造彼女がいるのだろうか。
成生はカウンターの奥側へ回り、老人と一緒に奥の部屋へと向かった。
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