第33話 地獄の入口?
そして六人でラボのプールへ行く日がやってきた。
集合場所は学校近くの駅。ここなら
別に集合場所はどこでもよかった。ラボの人が車で運んでくれるからである。最初に行ったラボは学校の近くだったので、この街にあるのだろう。ここから車なら……どこから入るのだろう。車が入るような場所は無かったように思うが。
成生とリリアと照日が駅前に出てくると、
「ナリオくぅーん!!」
海陽が元気に大きく手を振っていた。
海陽は肩を露出させたミニのワンピースで、三人の中で一番小さいのに、そのかわいさで一番目立っている。
海陽は二人を置いて、駆け足で寄ってきた。
「今日は楽しみだね」
「楽しみって、水泳教えるのが?」
「そうだった。へへへ……」
照れ隠しに笑う海陽。
もしかして、クラスのかわいい子とプールに行くなんて、凄く恵まれた環境なのでは?
「海陽、早いよ」
まず追いついてきたのが、
パンツスタイルで、そのかわいらしい名前に反してクールな美人。ラジオが大好きで、よく投稿しているというハガキ職人――いや、メール職人? である。
なお、ラジオネームは秘密らしい。
「セトちゃん、ずっと楽しみにしてたからねぇ」
遅れて来たのが、メガネをしている
ロングスカートのおとなしめなお姉さんタイプ。
こんな姉ちゃんが欲しかった!!
彼女は読書が好きなんだそうだ。
なお、見た目や雰囲気に反して、運動神経はいいらしい。なので、今回はこの場にいる。
こんな三人、さらにリリアや照日とプールに行くなんて、本当に恵まれた環境なのでは?
「ほら、セトちゃん。言うんでしょ?」
「う、うん……」
門出さんに促されたが、目線を逸らしてなにやらためらっている様子の海陽。
やがて意を決したのか、見上げて成生の目を見てきた。
「あ、あのね、ナリオくん。ナリオくんも、あまり泳ぎは得意じゃないんでしょ?」
「まぁ……。だからこうして二人に泳ぎを教えるのをお願いしている訳で……」
「それでね。三人いるから、ナリオくんにも泳ぎを教えようって話になったんだけど、どうかな?」
確かにリリアと照日に教える人が一人ずつ付くと、成生ともう一人が余る。二人組を作って余らないのはいいのだが、ただプールで泳いでいるよりも、少しでも上達できるように教わった方が有意義だろう。
ただ、一つ気になることが有る。
「誰が教えてくれるの?」
「わたし」
「じゃあ、お願いします」
成生は海陽が教えると知って即答した。他の二人は面識が無いので、どう接していいか分からない。海陽が教えてくれるなら安心だ。
「やった」
海陽がかすかに聞こえるぐらいの小さな声で嬉しそうに言っていた。なぜ喜んでいるのか、成生は理由が分からない。
「それでは、私たちは誰が教えてくれるのでしょうか」
リリアが訊いてくる。
「照日ちゃんは私が」
そう言うのは十勝さん。
「東尾ちゃんは私ねぇ」
と、残りの門出さんが言う。
「宜しくお願いします。
「よろしくね、こいお姉ちゃん」
リリアは深々と、照日は浅く頭を下げた。
「よろしくねぇ、東尾ちゃん」
「よろしく、照日ちゃん。ところで、なんで二人とも泳げないの?」
十勝さんがもっともな疑問を照日に投げかける。
「んー……それはね、今まで水泳とは縁のない人生を送ってきたからだよー」
「そうなの。それなら仕方無いね」
十勝さんも、海陽と同じで素直だな。テキトーな理由を信じるなんて。
こっちとしては、ありがたいのだが。
「ところでナリオくん。迎えっていつくるの?」
「え?」
海陽に訊かれて周囲を見回すと、目の前に黒いハイエースが停まった。
車から降りてきたのは、パンツスーツの女性だった。髪は長めで、サングラスをしているので、顔はよく見えない。
「お待たせしました。リリア様、照日様、元口成生様、瀬戸海陽様、十勝こいぬ様、門出有様ですね」
坦々と喋る女性は、ちょっと冷たい感じがした。
「それでは、ラボのプールまで御案内します」
そう言って女性はハイエースのスライドドアを開ける。スモークフィルムで中の見えなかったハイエースが、大きな口を開けた。
なんだか、これから地獄に連れて行かれる――そんな気分になってきた。
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