第6話 彼女型アンドロイドの存在意義

 リリアが下着姿じゃなくなったところで、とりあえずリビングに行くことにした。店とここでかなり見慣れてはいたが、家の中を下着姿のままでウロウロされても困るのである。


 例えば、この状態で誰か来るとか……。


 いや、無いんだけども。

 無くて誰もいなくて寂しいから、リリアに来てもらった訳で。

 そもそも、下着姿の女の子が家の中をうろつくとか、非現実的すぎる。


 いや、この家に女の子がいる時点で非現実的ではあるが。


 だが今、リビングでテーブルを挟んで反対側にリリアが座っている。

 これは現実。

 今まで生きてきた中で出逢ったことの無いような美少女が、目の前にいるのだ。


 しかし、彼女はアンドロイド。

 分かっていても所作に不自然さが無く、とても人工物とは思えない。

 もう、完全に一人の人間だとしか思えない。


「どうかしましたか?」

 ジッとリリアを見ていたせいか、訊かれてしまった。

「いやぁ、アンドロイドに見えないと思って。普通の女の子にしか見えない」

「ありがとうございます」

「あの……これからよろしくお願いします」

 成生は彼女となったリリアに深々と頭を下げた。いつまで続くかは分からないリリアのとの生活だが、精一杯この時を楽しみたい。

「よろしくお願いします。成生さん」

 何回呼ばれても、『成生さん』と呼ばれるのが新鮮だ。姉ちゃんや両親はそう呼ばない。なんだか特別感があった。


「あのぉ…………」

 頭を上げた成生は何か話そうと思ったが、話題が出てこない。

 よく考えれば、リリアのことをよく知らなかった。何から話して良いか、分からないのである。


 口を少し開いたまま固まった成生を見かねたのか、

「成生さんは、どうして私を選んだのですか?」

 リリアが訊いてきた。

「せっかくなら俺が一生付き合えそうも無さそうな子がいいなと思って。いや、他の二人みたいな人とも、一生付き合えそうもないけどね」


 カーギみたいなギャルも、接点はなさそうなので悩んだ。

 一生付き合わないのは、羽の生えたルマキだと思うが、あれは別枠。

 結局リリアを選んだが、後悔はない。


「ありがとうございます。でも、成生さんなら私みたいな人とも付き合えるかもしれませんよ?」

「ないない」

 成生は全力で手を横に振った。あり得るなら、もういてもおかしくない。彼女がいないことが、それを証明している。


「いいえ。彼女候補に選ばれるのは私たちが相性がいいと思われる子たちです。つまり、成生さんは将来私のような人と付き合う可能性がありえるということです」

「そうかなぁ……」


 こうやってリリアがいること自体も、ウソみたいな話なのに。

 それ以前に、どうやってそれが分かるんだろう。

 あの研究所、まだまだ謎が多すぎる。


「だから、自分に自信を持って下さい。成生さん」

「うん……」

 リリアにほめられると、なんだか嬉しくなる。本当に自信も持てそうだ。


「なので、まずは将来のために私で自信付けてくださいね」

 彼女型アンドロイドの存在意義ってそういうことの為なのかな?

 まぁ、そうだろうなぁ。本気でアンドロイドに恋したら危ないし。


「ところで、彼女って何をすればいいのでしょうか。練習とはいえ、成生さんと何をすればいいのか、分からないのですが」

「へ?」


 タイプAP、リリア。彼女型アンドロイドとしては初心者すぎた。


「えっと……彼女っぽくする?」


 答えになっていない。

 成生もまた、彼氏として初心者すぎた。

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