第5話 10連ガチャ
よく分からないことを言いだしたリリア。
元々服が無かったことを言うと、理解してくれた。
というか、リリアの服無いの? いつまでも下着姿じゃあ、裸族に目覚めてしまうかもしれない。
それはそれで――いや、やっぱりダメだ。リリアみたいな美人が裸族とか、残念すぎる。そこはキチンとしないと。
もしかしたら、箱の中にリリア以外の物が入っているかもしれない。
「リリアさん、ちょっと箱から出てきて」
「はい」
そう言って起き上がって箱から出てくるリリア。
その動きは人間と全く変わらず、自然である。アンドロイドだと言われないと分からない。いや、アンドロイドだと言われても信用出来ないだろう。
技術ってここまで進化してたんだな……。
などと感傷に浸っている場合じゃない。
「えっと……」
箱の中に有った緩衝材を出すと、少し大きな袋が見つかった。表には『10』と書かれている。
そう言えば、老人が「今なら10連ガチャ無料!」とか言っていた。なんの話かと思ったが、これか?
成生はとりあえず袋を開けてみた。
まばゆい光が袋から溢れ出て、目を細めてしまう。
「これは……」
まず中から出てきたのは、白いTシャツ。
「初期アバターか!」
大体こんなシャツだよ。
でも、無いよりマシだ。今の下着姿だと成生も困るし、リリアは外にすら出られない。
シャツ一枚でも出られないけど。いや、ギリギリ下が隠せ……ダメか。なんのプレイだよ。
ボトムスが欲しい。
次に出てきたのは、白いタンクトップだった。
「だから初期アバターか!」
Tシャツと大差ない気がする。トップスばかり増えてもな。
とりあえず取っておく。コーデの選択肢は多い方がいい。
次に出てきたのは、大きめの白いワイシャツ。
今のところ、一番着られそうなものが出てきた。
しかし、女の子が白いワイシャツだけって、空想や創作上のコーデじゃなかったのか? これだけ着てもらえば、実現出来る……。
あとで試してみよう。実際に見てみたいだけで、やましい気持ちで見たい訳じゃない。
次に出てきたのは、黒いサイクルパンツ。
自転車にそれなりの距離以上乗る人が履くボトムスだ。吸湿速乾の素材が身体にフィットして、動かしやすさ、空気抵抗軽減、快適性を生み出す。お尻部分にはクッションが有り、長距離乗ってもお尻が痛くなりにくい。
「おかしいだろ!」
三つ目までトップスだったので、ボトムスが出てきたのはいい。
いいのだが、サイクルパンツは布ずれ防止や機能性を活かすという面から、基本下に何も履かない。下着無しの直履きだ。
これだとリリアがノーパンになってしまうではないか!
――でもいつかちょっと履いてもらおう。いつか。
ヘンな下心が有る訳じゃない。折角あるのに着ないのはもったいないからだ。
リリアにいろんな経験をさせたい。将来ロードバイクに目覚めるかもしれないし。
次に出てきたのは、ヒョウ柄のシャツ。
「大阪のおばちゃんか!」
白いシャツよりはマシかもしれない。
……マシか?
あー、でもギャルがヒョウ柄ってパターンも。
ギャル――リリアの見た目から一番遠いな。
もしカーギだったら――合いそうではある。
やっぱりヒョウ柄って大阪のおばちゃんかギャルだな。リリアが着るかどうか分からないけど、取っておこう。
次。
次に出そうとすると、キラッと金色に光った。今までと違う。
「ん? SSRか?」
これは期待していいのか!
で、出てきたのは紺色のシンプルなワンピース水着。
いわゆるスクール水着だった。白いゼッケンが付けられ、マジックで『りりあ』と書かれている。
「え? これがSSR?」
SSRだと派手だとか、レアだとかそんな感じがするが、目の前にある水着は派手さの欠片も無く地味で、レアでもなんでもない気がする。学校で見るものだし。
水着だからSSRなの?
「お嫌いですか? 成生さん」
「うーん……」
クラスの女の子の水着姿は、大体スクール水着で初めて見る。予想外にスタイルのいい子がいたりすると、男たちの間で話題になる。
――結論からいうと、嫌いではない。
でも、これリリアに入るのかな? すごく小さめに見えるけど。でも名前書いてあるし、リリア用だとは思う。
これだと、リリアが着た時にはパツパツに――いけませんなぁ。
いつか着てもらおう。
もったいないから着てもらうだけで、リリアのスク水姿を見たいとか、そんなんじゃないんだからね!
次に出てきたのは、黒タイツだった。
「えっと……合わせるコーデが無いんだけど」
今あるボトムスはサイクルパンツだけ。
あとは……ワイシャツと合わせるとか? ワイシャツ黒タイツ――ちょっと何か新しい世界に目覚めそうだ。
「成生さん。さきほどのスク水と合わせるのは、どうですか?」
「それはマニアックすぎない?」
なんちゅう提案をしてくるんだ。
もしやってくれるなら、今後に期待しよう。
次に出てきたのは、下着……と思う。
黒い紐状のものが組み合わさって下着のような形になっているが、布面積がほとんど無く、この形だと本来隠されている場所が逆に見えてしまう。
「これはまずいなぁ。じつにまずい」
つい口元も緩む。
「成生さんが望むなら、着けますが」
「……時が来たら、で」
素に戻ってしまった。
今、着けられても困る。
目のやり場に困る。
まだリリアとはそこまでの関係じゃない。
これ……光らなかったからSRぐらいなのかな? それともR? すごくえっちなコーデなのにな。レア度の基準がよく分からない。
次に出てきたのは、スニーカーだった。
「靴か……そういや、無いもんな」
ここまで箱で運ばれてきたリリア。靴なんて当然無かった。
履いてみると、リリアにピッタリだった。
基本的に、ガチャで出るものはサイズがどうとか考えなくていいらしい。ピッタリのモノが出てくるようだ。
――ということは、あのスク水もサイズ合ってるの?
これは着させてみないと。
疑問を解決するための手段であって、決してえっちな気持ちで着させようとしている訳じゃないんだからね!
これが9回目だから、次が最後か。
何が出るか……。
最後に出てきたのは、ショーパン。
ウエスト部分がゴムになっていて、部屋着には丁度いいだろう。夜中ぐらいだったら、チョロッと外も行けそうだ。
これでなんとか上下着られるものが出てくれた。必要最小限のコスチュームは揃った、と思う。
「それじゃあ、着てみて。俺は後ろ向いてるから」
成生は出てきた衣類一式を渡すと、反対方向を向いた。
「いいんですよ? 着替えを見ても。どれを着るか選んでも」
「楽しみは取っておきたいから、リリアが選んで」
とは言ったが、本当は着替えを見るのが悪い気がしたから。
こうやって分かって話していてもリリアがアンドロイドとは思えず、一人の女の子にしか感じない。下着姿はだいぶ見慣れてきたが、着替えをジッと見る勇気は無かった。
リリアとは反対の方向を向いてからしばらく待っていると、布の擦れる音が後ろから聞こえてきた。
今、真後ろでリリアが着替えている。
目を閉じると、着替えている音がハッキリと分かるし、頭の中でその様子が描かれる。
なんだろう。あれたけ下着姿を見てきたのに、着替えとなると別の気分になってくる。なんでだろうな。不思議だ。
着替え後の姿は組み合せられる衣装の種類が限られているので、頭の中で組み合わせて想像は出来る。色々と妄想してしまう。
着替え中の工程も。
今まで一人で暮らしていた時は、こんなことは無かった。
リリアがウチに来て、変わった。
リリアがウチに来てくれて、本当に良かった。
そんなことを思っていると、
「成生さん、終わりました」
リリアの声が優しい声が聞こえてきた。耳が幸せだ。
「じゃあ、見るよ」
成生はゆっくりとリリアの方を向く。
そこには、ぶかぶかのワイシャツを着たリリアが立っていた。音からしてボトムスはショーパンを身に着けているはず。他に選択肢が無い。
だが、ワイシャツでショーパンは隠れてしまっている。そのワイシャツからは、肉付きのいい白いふとももが伸びていた。
「……優勝っ!!」
「何がですか?」
「かわいさが」
「ありがとうございます」
「それにしても、下が履いてないように見えるね」
「安心してください。履いてますよ?」
「わっ!!」
リリアがいきなりワイシャツの
もちろん、そこにはショーパンが存在している。だが、分かっていてもビックリしてしまった。さすがにリリアは下を履かないような子じゃ無いだろう。無いよな? 無いから、こうやって履いてるんだ。
リリアには、清く正しい道を歩いてもらいたい。
それにしても、もうちょっとリリアの服が欲しいな……。
と思った時、成生はふと疑問に思ったことがある。
訊くにはためらいがあるが、訊いておかないと困ることだ。
「リリアさん。あの…………下着ってソレだけですか?」
もし今着けている黒い下着しか無いのなら、さっき出てきたセクシーすぎる下着を着けてもらうしかない。下着が一組しか無い状態じゃ、洗濯も出来ない。
いや、洗濯は出来るかもしれないが、その時はノーブラノーパンだ。
となると、あの下着のようなモノの出番だ。
そうなってしまったら、実にけしからんですなぁ。すごくえっちだし下着として役立つか疑問だけど、仕方ない。下着が無いのだから。
が、
「大丈夫です。同じ物が最初から複数組用意されていますから」
希望は打ち砕かれた。
初期装備、間違ってない? ねえ。
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